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第四部

〜盟約の解放〜




クレス一行は、西の宮殿に向かう準備をしている。

「将軍。西の宮殿が解放されて四人が復活したら、何が起きるのですか?」

「時の神殿で何かが起こり、終末に向かう可能性が高いな。推測に過ぎんが、あの黒い穴が何かしらの事象に関係している気がする」

「今日はいろいろな事がありますわね。まぁ、おかげでユニちゃんに会えましたけど」

「ガルぅ〜♪」

ドルシェは、ユニコーンの頭を撫でる。

「さぁ、行くぞ。それでは予定通り、西の宮殿で私を下ろして、ドルシェは時の神殿に向かって、マーズ達の援護だ」

「わかりましたわ」

二人はユニコーンに股がる。

「気を抜くなよ?」

ユニコーンは、飛び発つ。


「ハッ…ハッ…ハッ…」

ダガースは、ビルの陰に隠れる。

「雷と爪って、どんな攻撃だよ…(怒)」

「獣人!出てらっしゃい!隠れても無駄よ!」

クレオパトラの声が響く。

「俺の攻撃は効かねぇ。スピードもパワーも俺より早い(多分)。こりゃ勝ちに行くには、本気以上じゃないと無理だな…マーズに、絶対にステーキ奢らせてやるっ(怒)」

ダガースは、固く心に誓う。

「出て来ないなら、私から行くわよ」

クレオパトラの気配が消える。

「――?消えたのか!?」

クレオパトラの気配が消えた事に気が付き、ダガースは慎重に顔を出す。

そこには、クレオパトラの姿はいない。

「まさか…?」

ダガースは後ろを向く。

「やっぱり…」

振り向いた後ろには、ダガースを見下ろしているクレオパトラがいた。

「獣人がコソコソしたらダメでしょ?」

クレオパトラは、爪を前に出す。

(げっ!?近過ぎだろっ!)

鋭い爪攻撃の超至近弾。ダガースは、たまらずに離れる。

「よく逃げたわね?ご褒美に獣人の話をしてあげるわ」

「別に聞かなくていいし…」

爪が無数飛んで来る。

「ぬぉっ!?」

ダガースは、辛うじて避ける。

「『人』の話は聞いた方がいいわよ。」

「めんどくせぇ…」

「獣人は、人と動物の異種交配の失敗策なのよ。何故なら、人よりも弱くて生命力が短いからよ。だから人の雑兵に過ぎないの。」

クレオパトラは、さげすむ様にダガースを見る。

「だからどうした?そもそも俺は、獣人なんかじゃねぇ。何の不都合もねぇぞ?」

「あなたは、私には勝てないという事よ。そろそろ死になさい」

クレオパトラの爪が地面に潜って行く。

「気持ちわるっ」

その姿に引き気味のダガース。

「雑兵は雑兵らしく、素直に簡単に死ぬべきよ?」

ダガースの顔の下辺りの地面から、爪が突然伸びてくる。

「予想通りかよ!?ってか、勝手に未来決めてんじゃねぇ!」

ダガースは、ジャンプしてかわす。しかし―――

「グハッ――!?」

雷に撃たれるダガース。

「うふふ。さすがに人間よりかは、丈夫みたいね。でも、爪も雷も何処から来るかわからないでしょ?」

「この…野郎…!」

ダガースは、クレオパトラを睨み、火の玉をお見舞いする。もちろん、クレオパトラには効かない。

「学習能力ゼロね」

クレオパトラは、胸の辺りで埃を払う様な仕草をする。

「おい?次に攻撃してきたら、お前も痛い目を見るぜ?」

ダガースは、構える。

「そんなハッタリは、通用しないわよ」

クレオパトラは、目を見開く。ダガースの周りにランダム無数の爪が地面から襲い掛かってくる。

「そっちがその気なら行くぜ…?解放――!」

ダガースは、高くジャンプする。

「古より続く盟約を果たせ!」

ダガースの体に異変が起きる。辺りが一瞬歪んで、ダガースの姿が消える。クレオパトラの攻撃は、全て空を切る。

「なに!?何処にいる!?」

事態を飲み込めない。空間が正常に戻り始める。そこには、犬では無いダガースがいた。

「なっ…!スフィンクス!?」

クレオパトラの頭上には、伝説の神獣スフィンクスが優雅に飛んでいた。

「獣人じゃなかったっていうの!?」

クレオパトラは、驚き後退りをする。

「言ったはずだ。次は痛い目見るってな」

ダガースは、急降下する。スピードは、段違いだった。クレオパトラは、避けきれずに激突する。

「くっ…早い…!」

クレオパトラは、吹き飛びながら、爪の攻撃をする。

「死ねっ!」

爪は、ダガースに確実に刺さった。

「お前の攻撃は、効かねぇぜ」

ダガースは、刺さった爪を筋肉の力みだけで、へし折る。

「ギャーッ!私の大事な爪がぁ!」

クレオパトラは、叫ぶ。

「そりゃ悪かったな。そんなに大事なら、自分から離れない様にしとけよ」

ダガースは動じない。

「ぬぬぬ…これならどうだぁ!」

クレオパトラは、雷を落とす。ダガースの姿は、雷光で見えない。

「最大パワーよ!アハハ…は?」

ダガースは、平然とした顔で睨んでいる。傷どころか、焦げ一つない。

「お前、俺を馬鹿よばわりしたが、ホントの馬鹿は、てめぇ自信だったな」

ダガースは、一瞬でクレオパトラの前に現れる。

「地球に住む全ての奴らの代表だ」

ダガースは、前足で裏拳をかます。

「ぐぶっ――!」

クレオパトラは、二回三回と転がりながら、地面をスライディングする。

「さぁ、次は、死んだ奴らの償いだ」

ダガースの口から、炎の様な雷が飛び出る。

「ヒィーっ!?」

完全に我を見失ったクレオパトラは動けない。そして、モロにダガースの攻撃を喰らう。

「そ…そんなぁ!私が…!必ず、復讐して見せる…!」

空間が、崩れ始める。

「獣人が雷に強いんじゃねぇ。俺が雷に得意なんだよ。あ〜腹減ったぁ。この技を使うとホントに腹減るんだよなぁ」

ダガースは、そう言いながら座り込む。すると、段々と犬の姿に戻っていく。

「あ〜めんどくせぇけど、あいつら追い掛けるかぁ」

ダガースは、ゆっくり起き上がり神殿の中へと入って行く。




〜ドルシェの決断〜




「将軍。西の宮殿ですわ」

ドルシェは、ユニコーンから飛び降りる。

「よし。それでは、お前達は神殿―――!?」

クレスは、後頭部に強い衝撃を受ける。薄れ行く意識と霞んで行く視界で後ろを見る。

「お…前…」

ドルシェだった。

「命令違反ですみませんわ。やはり、将軍を行かせる訳には行きませんわ。こうするしかありませんの」

ドルシェは、倒れたクレスをユニコーンの背中に乗せる。

「ユニちゃん?将軍を大統領官邸まで連れて行って下さる?」

「ガルぅ」

「私は大丈夫ですわ。きっと神殿は、マーズさんとワンちゃんが何とかしてくれますわ。だから、此処は、私が行かなくてはいけない所なんですわ。そして、将軍を大統領官邸まで運べるのはユニちゃんしかいないですわ」

ドルシェは、ニッコリ笑う。

「ガルぅぅぅっっ!!!」

その気になるユニコーン。ドルシェは、ユニコーンの扱いに慣れているようだ。

(ユニちゃんは、単純で可愛いですわ)

どうやら、扱い云々よりもユニコーンが単純らしい…。

「任せましたわよ?」

「ガルっ♪」

ユニコーンは、一瞬で消える。

「さぁ、行きましょうかしら。ハワードさん、マックスターさん?」

ドルシェは、宮殿の中へと入って行く。


「既に来ていたのですわね」

目の前に広がる光景は、惨殺された兵士の山だった。ドルシェは、亡骸の一人に目が止まる。

「ハワードさんと同じ…間違いないですわね。相変わらず、将軍の推測は当たりますわ」

ドルシェは、至る所に倒れている兵士に祈りを捧げる。

「戦場…女神…」

倒れた兵士の一人が囁く。ドルシェは、その声を逃さなかった。兵士の元へ駆け寄る。

「あなたは…消えるブレスレットをくれた方ですわね?」

「巨人が…逃げろ…巨人が…」

「…残念ですわ。私、その巨人を追い掛けてきたのですわ」

「普通…じゃない…死ぬぞ…」

「…。あなたに、お借りしたブレスレットを、明日、お返ししなくてはいけませんわね」

「明日…」

「そうですわ。例え、小さな未練でも…小さな約束でも、それが未来に繋がっているのですから、諦めてはいけませんわ」

「…」

「あなたが諦めなければ、あなたに係わる人達の未来が変わりますわ。良い物にしたいでしょ?後は、私に任せてくださる?」

「…うっ…うっ…部下の…友の仇を討ってくれ…!」

「わかりましたわ」

ドルシェは、立ち上がる。そして、奥へと走り出す。


祭壇の間は、静まり返っている。

(これは、異空間…?)

「まだ、下等生物がいたか…」

煙が立ち込める。その中に、人影が現れる。

「あなたが、有名な巨人さんかしら?」

ドルシェは、はっきり見えない人影を睨む。

「女よ…お前も死を急ぐか…?」

「外れですわ。生きる為にきたのですわ。ツタンカーメンさん?」

「ふっ…今の時代では、そう呼ばれているのか…」

人影は、だんだん姿を現す。

「あら?大昔は違うのかしら?」

「『サタンアメン』…古代より『人』を捨て、悪魔との盟約を交わしたが故の呼び名…」

「本当の悪…今のあなたに相応しい名前ですわ」

「下等生物よ…私が悪なら、お前らは何だ…?エデンを汚し、支配者の顔をして、全ての頂点にいる様な傲慢不遜の文明…正に悪そのものでないのか…?」

「返す言葉も無いですわ。でも、その人間の歴史を作った原因も、あなた方なんじゃありませんの?そして、人間の犯した罪を繰り返すのも、あなた達『人』ですわ」

「人間ごときに『人』が劣るというのか…!」

「その『人』だとか『人間』だとか言っているのが、傲慢不遜の文明の始まりだと思いますわ」

「面白い…一万円前と同じだ…お前ら人間が作り上げた大陸を、一日で滅ぼした『あの日』と同じだ…」

「…?」

「繰り返しはせぬ…一万年前の『終末の時』を…」

サタンアメンは、ドルシェに指を指す。閃光が、ほとばしる。華麗に避けるドルシェ。

「マックスターさんの額の傷…」

サタンアメンは、ドルシェの前に姿を現す。

「消えろ!エイシス!」

ドルシェは、ハワードの時の様に手に挟まれる。手のひらの間を雷光のような光が行き交う。ドルシェは、間一髪ジャンプをしてかわす。

「ハワードさんの傷…」

ドルシェは、着地しながらバズーカを撃つ。しかし、サタンアメンには効かない。

「その身のこなし…スピード…間違いない…お前はエイシスの生まれ変わりだな…」

「エイシス?知りませんわ」

ドルシェは、バズーカをもう一度撃ってみるが、全く効かない。

「…なるほど…エイシスよ…転生に失敗したのか…やはり、神は我々の時代を臨んでいるのだ…ククク…」

サタンアメンは、低い笑いをする。そして、再度、ドルシェとの間合いを詰める。

「イヤらしい男ですわ!」

ドルシェは斬魔刀を抜いて、一気に振り上げる。

「ぐぉっ…!」

サタンアメンの額が裂ける。初めて攻撃が届いた。ドルシェは、攻撃を緩めない。振り上げた刀を振り下ろす。額にXの傷が付く。そして、バズーカを取りだし、傷の中心に発射する。弾は、傷口に入り爆発する。

「―――!!」

ドルシェは、ハワードとマックスター二人掛かりの攻撃を、一人でやってのけた。顔が吹き飛んだサタンアメンは、床に仰向けで倒れる。

「これで終わるとは思っていませんわよ?」

ドルシェは、斬魔刀を構える。

「くっくっくっ…さすがだ…この私に傷を追わせるとはな…」

サタンアメンは、ゆっくり立ち上がる。額の傷がみるみる治って行く。

「…」

ドルシェはジャンプして、サタンアメンの後ろに付く。そして、斬魔刀を横一文字に振る。

「甘い…」

サタンアメンは、左腕で斬魔刀を受け止める。

「それは、どうかしら?」

ドルシェは、止められた斬魔刀を振り切ろうとする。次第に腕に食い込む斬魔刀。

「ほぉ…これならどうだ?」

サタンアメンの首が、人間では考えられない角度まで周り、ドルシェの方を向く。そして、口を大きく開く。口の中が赤く光り出す。

「柔らかい体ですわね。でも、レディに見せる顔じゃないですわ」

ドルシェは、怯む事なくバズーカ砲を、サタンアメンの口に突っ込む。


轟音一発。


「ぐはっ…!」

サタンアメンの首が爆発で吹き飛ぶ。斬魔刀も腕を切り落とす。

「あなたの攻撃に魔弾が反応したみたいですわね。自分の攻撃の威力は、如何かしら?」

ドルシェは、斬魔刀を逆手に持ち変えて、ジャンプする。

「これがマックスターさんの分ですわ!」

斬魔刀が、サタンアメンの心臓に突き刺さる。一瞬、サタンアメンの体が痙攣する。ドルシェは、少し離れて着地する。

「次は、ハワードさん!」

意識を集中させて目を閉じる。そして、目を見開く。ドルシェの瞳は、紅く染まっている。両手のひらを、サタンアメンに向けて重ね合わせ、小さな隙間を作る。そこから見えるのは、吹き飛んだ首の傷口だった。

「怒りの一撃ですわ!」

ドルシェの掛け声と共に、激しい稲妻が暴走する。稲妻は、サタンアメンに近付くに連れて、一本の稲妻へと変わる。稲妻は、容赦なくサタンアメンの首の傷口を捉えた。


暫くして、稲妻は消えた。そこには、黒焦げになって斬魔刀に突き刺さされた、サタンアメンの哀れな姿がある。ドルシェは、斬魔刀を引き抜く。

「これで、少しは気が晴れたかしら、お二方は?」

ドルシェは、二人の武器を元に戻す。そして、周りを見渡す。異空間は、まだ存在している。

「まだ、終わっていないようですわね…」

空間が崩れ始めるが、違う異空間が現れる。

「サタンアメン…結局、お前は、過去を繰り返しただけだったか」

地面から這い出てくる『人』。

「あなたが『クフ王』さんかしら?」

「いかにも。やっと、地上に復活する事が出来た。…サタンアメンよ。奢りが強すぎたな」

クフ王は、サタンアメンを冷ややかな目で見下ろす。その姿は、若い青年の姿をしているが、サタンアメンとは、明らかに違う異様な雰囲気を持っている。ドルシェは、それを見逃さない。

「あなたが、大将ですの?」

「ふむ。大将というのも悪くないな」

クフ王は、首の運動をする。

「あなたが大将なら、聞きたい事がありますわ。何故、人間だけでなく、動物まで死に導くのかしら?」

ドルシェは、クフ王を睨む。

「簡単な事だ。我々の祖先の血が流れている種族もいるからだ。」

「そんな理由だけで…?」

拳を強く握る。

「祖先の血を引く種族は、必ず我々の邪魔になる存在。今のうちに潰すのが良い。」

「何の罪も無い者の命を奪ってまで創る楽園に何の意味がある!!」

ドルシェは、怒りを抑えきれずに口調も変わる。

「我々は、異空間を作らなければ、地上で生きられない。これでは、浄化が出来ないではないか。だから、人間を恨む『時の女王』と契約を交したのだ。我々『人』の時間を返す代わりに、地上を根絶やしにする――とな」

「馬鹿げていますわ…」

「馬鹿げてなどいない。我々が何故、自らの肉体をミイラにしてまで、地上に物質を残したと思う?我々が何故、ピラミッド、地上絵、モアイ…様々な建造物を残したと思う?」

クフ王は、歩き始める。歩くだけで、威圧感が大きな衝撃となって空気を歪ませる。

「…地上の全てを異空間にする為…?」

「半分だけ正解だ。我々が封印された『奈落』には、祖先の代から息耐えた『人』が眠っている。そいつらの目印とでも行っておこう」

「冗談じゃないですわ!」

「更に、死んだ人間は冥界で裁かれ、地上にもう一度だけ戻るチャンスを貰える。それが、『人』になるという事だ」

「まだ、わからないのかしら?人口が増えれば、それだけ複雑な感情が芽生えて、同じ事を繰り返すだけですわ!」

クフ王は、念力らしき力で、サタンアメンを自分の元へと引き寄せる。

「確かに。だが、最初から感情を持たない生物ならば問題なかろう」

「まさか…人まで自分達の奴隷に…?」

「奴隷ではない。意思を持たぬ生物。エデンを浄化する為だけに存在する者達だ」

「悪魔にも劣る非道ですわ!!」

「お前には理解出来ない話であろう」

クフ王は、目を閉じて祈りを捧げる。すると、サタンアメンの体がボンヤリ光りながら、収縮して行く。

「精霊の儀式…!」

ドルシェは、目を丸くする。

「よく知っているではないか。せっかく倒したのに残念だったな」

サタンアメンが動き出す。その姿は、黄金に身を纏い、仮面の額には、力強いコブラの彫刻が施してある。

「随分、小さくなりましたわね」

五メートルの巨人から、ドルシェと同じ位の165cmに変わったサタンアメンは、妙に小さく見える。

「先程は失礼した。制御が聞かなくて、醜い姿を披露してしまった」

「紳士になりましたわね。」

「エイシスよ。お前と戯れている時間は無くなった」

サタンアメンは、ドルシェの目の前に到達する。

「!?」

ドルシェは、その速さに驚くと同時に蹴りを腹に喰らって吹き飛ぶ。

「ぐっ…!!!」

壁に激突するドルシェ。

「私の本来の力だ」

サタンアメンは、またもやドルシェの前に現れる。そして、ドルシェの顔面をめがけて、正拳付きをする。ドルシェは、横に飛んで、辛うじて避ける。

「お前の敵は、一人ではないぞ?」

「―――!!」

ドルシェの視線の先には、クフ王が仁王立ちしている。そして、手をこちらに向けている。

「まずいですわ…」

ドルシェは、すぐに起き上がりバズーカ砲をぶっ放す。

「なっ!?」

弾の軌道の先に、サタンアメンが移動する。そして、弾を腕で弾く。壁で爆発する弾。サタンアメンは、そのままジャンプする。目の前に、クフ王の手から発射されたであろう黒い球体がドルシェに迫る。

「まずい…!」

ドルシェは、更に横に避ける。黒い球体は、壁にぽっかりと穴を開ける。

「遅い」

言葉の方を振り向く前にドルシェは、背中から衝撃を喰らい吹き飛ぶ。そして、床に叩き付けられた。

「レディに…二人がかりは…卑怯じゃありませんかしら…?」

ドルシェは、蹲りながらクフ王を睨む。

「これは、我々の聖戦だ。戦争に卑怯も道理も無い」

全く感情の無い瞳をドルシェに浴びせる。

「貴方達の考え方、今の人間がいるのも納得いきますわ」

ドルシェは、肋骨の辺りを押さえながら、何とか立ち上がる。

「骨が折れたか?人間は脆いな」

後ろからの声。ドルシェは、またもや、蹴りを喰らってしまい吹き飛ぶ。

(まずいですわ…このままでは…)

ドルシェは、意識を集中する。

「見物してろ、ドルシェ」

「え…?」

ドルシェの目の前には、マックスターとハワードが立っていた。

「異空間ってのは便利だな」

「ドルシェ。俺らも参加するぞ」

二人は、ドルシェに笑顔を向ける。

「どういう事…?」

ドルシェは、死んだはずの二人が目の前にいる事実が理解出来なかった。

「マックスター」

「OK。ゆっくり説明してていいぞ」

マックスターは、ドルシェの斬魔刀を引き抜く。

「久しぶりだな、斬魔刀。もう一暴れするぞ」

マックスターは、サタンアメン目指して走り出す。

「小さくなって、パワーアップか?」

マックスターは、サタンアメンに斬りかかる。そのスピードは、人間を遥かに越える速さだ。

「ぬぅ!?」

サタンアメンは、後ろに避ける。斬魔刀は、床を破壊する。

「何て速さなんですの!?」

ドルシェは、マックスターのスピードに驚く。

「あの世ってヤツか?そこで、ドルシェそっくりの女に出会ってな。異空間の中だけなら存在出来る方法があるって言うから、話に乗ってきたのさ」

ハワードは、ドルシェを起こしながら説明を始める。

「私にそっくり…?もしかして名前がエイシスかしら?」

「やっぱり知り合いだったのか?」

「知らないですわ。ただ、何回か聞いただけですの。それにしても、異空間で存在出来るって…?」

「『人』になるのさ」

「――!」

ドルシェは、ハワードの言葉に驚く。

「結構、辛かったぞ?何てったって、心が折れたら、奴らの仲間入りだったからな」

ハワードは、親指でクフ王を指差す。ドルシェは、クフ王が話していた内容を思い出す。

「そうだったのですね。ハワードさん、ありがとうですわ…私、休憩させて頂きますわ…」

ドルシェは、そのまま気を失う。

「緊張の糸が切れたか…女一人で、奴ら相手に頑張ったな。生きてるのがビックリだったぞ」

ハワードは、そっとドルシェを横たわらせる。そして、自分のバズーカ砲を手に取る。

「さぁて。レディに対する非礼のお返しをさせて貰うか」

ハワードも参戦する為に立ち上がる。




〜本領発揮〜




「さすが神殿。広いし豪華だなぁ」

ダガースは、神殿の中を歩きながら、周りを眺める。

「リトちゃんの匂いがしねぇな?」

ダガースは、鼻を利かせる。

「獣人。お前は異端の者の仲間か?」

突然、声がする。

「誰だ!?」

ダガースは、辺りを見渡す。声の主がいない。

「また異空間かよ…泣けてくるぜ…(><。)。。」

「獣人。お前は異端の者の仲間か?」

「イタンノモノなんか知らん!そこにいるんだろ!?とりあえず、出て来い!」

ダガースは、口から炎を空中に向けて発射する。声の主が現れる。カエサルだった。

「知らぬか…ならば、ここで死ねっ!」

カエサルは、火の玉を何発か投げつける。

「ぬぉっ!?」

ダガースは、慌てて避ける。

「こらっ!いきなりは卑怯だぞ!?ってか、お前らは、いきなりが多すぎだろ!?」

カエサルは、お構い無しに攻撃してくる。

「くそっ!…あいつ…何で怒ってんだ?」

カエサルの表情は、鬼の形相だった。

「カエサル!そこまでだ!」

突然の声が、カエサルの攻撃を止める。

「その声は…異端の者…!」

カエサルが睨む先には、マーズとハインズが立っている。

「マーズ!てめぇ、まだ、こんな所にいたのかよ!?」

ダガースは、罵声を浴びせる。

「わりぃわりぃ。ちょっと計算外な事があってな。とりあえず、カエサルを倒しておこうと思って、戻ってきたんだわ」

マーズは、苦笑いをする。

「たまたま、此処に出ただけだろう」

ハインズは、サラリと言う。

「ハインズてめぇ!あの状況から助けてやったのに、真実を話すんじゃねぇ!(汗)」

「なるほどな…焦って瞬間移動したら、ここに出たって事だな…」

ダガースは、しらけた顔で説明する。

「獣人。やはり異端の者の仲間だったか。」

カエサルが口を挟む。

「だから、イタンノモノなんて知らん!」

「カエサル…ダガースは、馬鹿犬だぜ?」

「………」

「何だよ何だよ!?俺の何処が馬鹿なんだよ!?」

「笑止!」

カエサルは、力を放出する。波動が風に乗って伝わってくる。

「どうやら、俺が目当てらしいな」

マーズは、前へ出る。

「リトちゃん、ハインズ。先に行っててくれ。俺は、こいつを倒してから行く」

「マーズ!私も残る!」

「リトちゃんの声!?何処にいるんだ!?」

どうやら、リトの姿はダガースにも見えていないようだ。

「俺以外、誰にも見えねぇぜ?何てったって、俺が作った異空間だからな。まぁ、それは良いとして、早く上に行くんだ」

「マーズも――」

「リトちゃん。リトちゃんは、やらなければならない事があるだろ?俺達を仲間だと思ってるならば、信じてくれ。仲間を最後の最後まで貫いてくれ。そして、時を止めてくるんだ」

「マーズ…死なないよね?」

「あたりめぇだろ?リトちゃんとエッチするまでは、死ねねぇ」

マーズは、ウィンクをする。

「セリフと仕草があってねぇ…」

ダガースは、呟く。

「マーズっ!」

リトは、マーズに抱きつく。そして、マーズと唇が重なり合った。

「リト…ちゃん…」

「ここから先は、全てが終わってから…ね?」

リトの顔は、不安に満ちている。

「お預けってヤツか?だが、その方が、生きる希望が沸くな…(*^m^*) ムフッ」

ダガースは、ハインズの方へ寄る。

「ハインズ…今、リトちゃん…チューしたのか?」

「さぁな。俺にも見えん」

「絶対にしたんだぜ!?ずりぃ〜っ…!(怒)」


ゴツン!


リトの鉄拳が、ダガースの頭のテッペンに落ちる。

「見えないの…ずるい…(泣)」

「マーズ。勝気はあるのか?」

ハインズは、和やかなムードを描き消す。

「勿論あるぜ?」

マーズは、自信満々に言う。

「そうか。ならば、私はリト様を神格界へ導く…必ず!」

「おう。とりあえず任せたぜ。早く行きな。マッチョのカエサルは、頭来てんぜ?」

マーズは、カエサルを見上げる。

「私が、簡単に行かせると思うのか?」

カエサルは、階段に火の玉を発射する。

「残念だが、簡単に行けるみたいだぜ?」

マーズは、両手を広げて風を巻き起こす。風は、火の玉を描き消す程の勢いを見せる。その間に、ハインズ達は、姿が見えなくなる。

「異端の者…!」

「俺と戦いたかったんだろ?あと、その呼び方やめてくんねぇかな」

マーズは、不適の笑みを溢す。

「先程は出し抜かれたが、今度は、そうはいかないぞ!」

カエサルは、地に降りる。地響きがする。

「やる事が派手だぜ」

マーズは、構える。

「行くぞ!異端の者!」

カエサルが突進してくる。

「その呼び方やめろっつうの!」

マーズは、床に手を付き、電磁波を発生させる。電磁波は、カエサルめがけて動き出す。そして、カエサルを捉える。

「ぬるいわぁ!」

カエサルは、電磁波を弾き返す。

「じゃぁ、お熱いのどうぞっ!」

マーズは、両手を重ね合わせて、大きな炎を作る。巨大な炎は、カエサルを完全に包み込む。

「ぬぅぅ…利かぬっ!」

またもや、マーズの攻撃を弾き返すカエサル。

「ありゃりゃ。熱いのも気に召さなかったみたいだな」

マーズは、溜め息を吐く。

「このカエサルの肉体は、例え神でも、傷付ける事は出来ん!」

「面白れぇ。傷付けたら、神以上って事だな」

マーズは、部屋に飾ってある剣を手に取る。

「血迷ったか?そんな剣では、傷処か、我の炎にも勝てんぞ?」

「能書きはいいから、早く来いよ?」

マーズは、中指を立てて、クイクイとゼスチャーする。

「…死ねっ!」

カエサルの手から炎の玉が発っせられた。マーズは、上段の構えをする。

「はっ!!!」

気合いと共に剣を振り下ろす。火の玉は、見事に斬り裂かれた。

「何!?」

カエサルは、その光景を見て驚嘆する。

「炎の攻撃が何だって?」

剣からは、水が滴り落ちている。

「水の精霊か…!」

「火には水だろ?水の切味は良いぜ」

マーズの剣は、水が流れている様に見える。

「更に面白い。このカエサルが、これ程の精霊使いと対峙する事になろうとは…」

カエサルから、込み上げてくる衝動が伝わってくる。

「うりゃっ!」

マーズは、剣を振るう。猛スピードで、水の柱が床を切り裂きながらカエサルに向かう。

「はっ!」

カエサルは、ジャンプして避ける。

「水を差す様で悪いが、俺は精霊使いじゃないぜ?」

マーズは、剣先を床に立てて言う。

「構わん。異端の者よ。この攻撃を受け止められるか?」

カエサルの剣が、炎を帯びていく。それは、炎の剣というよりも、炎のムチの様に自在に形を変えている。

「勝手に受け止めるとか決めんじゃねぇよ」

マーズは、ふくれっ面をする。

「味わうが良い!炎縛地獄を!」

カエサルの剣が伸びて、マーズに向かってくる。マーズは、後方に飛んで避ける。剣先は、床を溶かす。

「どんだけ熱いんだ!?」

マーズは、溶けた床を見ながら驚く。

「まだだ」

床を溶かした剣先が、マーズに向かって動き出す。

「なっ!?」

マーズは、辛うじて横に避ける。

「追跡センサー付きとは、豪勢なこった」

マーズは、剣に力を込める。すると、剣の水が激しく吹き出す。

「炎VS水の第2ラウンド開始!ってところだな」

炎の剣が、マーズに向かって来る。マーズは、剣を構える。そして、床に突き刺す。

「!?」

カエサルは、マーズの行動に目を見張る。床からほとばしる水柱は、マーズと炎の剣の間に壁となった。

「さぁ、おいで。炎ちゃん!」

マーズは、剣を構える。炎は、水柱に突き刺さった。水が蒸発する音が激しく聞こえる。

「馬鹿め…」

カエサルは、念を込める。炎の剣は、三つに分かれる。一方は、水柱を右に曲がり、マーズの左側に出る。もう一方は、左に曲がり、マーズの右側に出た。

「そう来たか」

マーズは、左右の剣先を交互に見る。炎の剣は、同時にマーズに襲いかかる。マーズは、後ろにバク転をする。水柱の勢いが弱くなる。三つの炎は、また一つになった。

「なかなか早い反応だな」

カエサルは、余裕の顔を見せる。

「お前程じゃないさ」

マーズは、突破口を探す。

(あの剣は厄介だぜ…)

マーズの目に一つの物がうつる。

(灰皿はフタをする事…)

「あったじゃ〜ん…( ̄ー+ ̄)ニヤリ」

「何がおかしい?そろそろ、最初の苦しみを味わって貰うぞ」

「最初って何だよ!?ってか、拷問いくつも考えてるんじゃねぇ!!」

カエサルの剣が動き出す。スピードが、今までで一番早い。

「人間の話くらい聞けっつうのっ!」

マーズは、高くジャンプする。剣の動きが止まる。

「?」

マーズは、剣を見下ろしながら様子を伺う。

「うそっ!!やばっ!!!」

剣が、網状になって襲ってきた。

「最初の苦しみだ…」

マーズを炎の網が取り囲む。炎の網は、瞬間移動をする時間を与えない。

「くそ――あちっ!ぐわぁ――――!!!」

マーズを包む炎の網。炎と煙で何も見えない。

「最初の苦しみとは、この世で味わう欲望の炎だ」

カエサルは、燃え行くマーズを見ながら呟く。

「次の苦しみは、後悔の炎」

カエサルは、更に炎を強くしていく。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

マーズの叫び声が狂気を帯びる。

「苦しめ…異端の者よ。そして、この地上に生きた事を後悔するがよい。最後の炎は、憎悪の苦しみだ。お前を産んだ親を恨め。お前を生かした地上の生物を恨め。そして、こんな時代を作り上げた人間を恨み、人間を作った人を恨むが良い」

カエサルは、更に炎を作り出す。その炎は黒く、燃えているのかもわからない程であった。

「地獄の炎は、暗闇に潜む黒い炎。罪人は、知らぬ間に燃え尽きるのだ」

黒い炎は、カエサルの手を離れる。赤い炎と黒い炎が混ざり合う。周りの空気をも吸い込み燃えていく。

「うぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

マーズは叫ぶ。

「まだ生きていたか。だが、もう終わりだ」

「それは、どうかな?」

「―――!?」

冷静なマーズの声がする。

「なかなかの演技だっただろ?」

カエサルは、炎を睨む。炎は、激しく燃えている。

「どういう事だ…?」

「こういう事さ」

炎の中からマーズが出て来る。

火傷一つ負っていない。

「馬鹿な!何故!?」

「馬鹿は、お前ら『人』だ。異空間ってのは、便利なんだぜ?」

カエサルは、マーズの周りを凝視する。

「まさか…異空間の中に異空間を作ったのか…!?」

マーズの体の周辺が光っている。

「まぁな。この空間は、普通の世界との接点を、光の速さで絶ってるだけだろ?ならば、異空間の中でも、同じ事は可能だろ。そして、通常の世界では、触れる事も触れさせる事も出来ない――」

マーズは、動揺しているカエサルに一気に近付く。

「おのれぇーっ!!」

カエサルは、慌てて炎の剣を動かす。

「おせぇよ」

マーズは、カエサルの前から退く。

「!?」

炎の剣が、燃え尽きる。

マーズは、再び、カエサルに近付く。マーズの剣が、カエサルの腕を切り落とす。

「おっと。神以上になっちまったけど良いのか?」

マーズは、剣を肩に掲げて余裕を見せる。

「何故、炎が消えた!?」

カエサルは、ただの剣先をマーズに向ける。

「いちいち説明するの面倒くせぇなぁ…」

マーズは、露骨に嫌がる顔をする。カエサルは、斬りかかってくる。マーズは、剣で受け流す。

「炎が無くなったら、余裕が消えたんじゃねぇか?」

マーズは、カエサルの表情を見逃さない。

「殺す!殺す!」

カエサルの目が血走っている。マーズは、冷静に力を溜める。

「そろそろ終わりにしようぜ?」

マーズの剣が、水から光輝く色に変わる。


「その色は…!?」

カエサルは、透き通り光る剣を見て動きが止まる。

「なかなかの輝きだろ?」

マーズは、剣を振るう。光の破片が飛び散る。

「何故…何故だ!何故、神の剣をお前がっ!」

カエサルは、取り乱す。マーズの剣に、覚えがあるらしい。

「神が頂点を極めた時に、天使が希望を託して、光を集めて作った剣だったっけ?」

マーズは、一歩づつ近付く。カエサルは、同じ距離を保ちながら後退る。

「ありえん…我々が、存在すら確認出来なかった神具が…」

「とりあえず、時間ねぇから終わりにするぜ?」

マーズは、カエサルの懐に飛込む。一文字斬りが炸裂する。突差に剣で防御するが、マーズの剣は、カエサルの剣をあっさりと斬る。カエサルの胸には、一文字の傷が付く。傷口と剣を交互に見る。

「私が…私が負けるのか…!?」

霧の様に消滅して行くカエサル。マーズは、その姿を見つめながら言う。

「俺の相手に、お前じゃ役不足だったな」

カエサルは、マーズを睨みながら、霧と化して消滅した。

「ふぅ。ヤバかったぜ…(-.-;)」




〜太陽の意思〜




「リトちゃん、兄ちゃんは見付かったのか?」

ダガースは、見えないリトに聞く。

「…」

「…」

リトもハインズも沈黙になる。

「あれ…?」

「ダガース。やめとけ」

ハインズが悟らせる。

「どうやら、兄は時の女王に、捕まっているみたいなの」

「リト様っ!?」

「いいの、ハインズ。私、仲間を信じたいから話す」

「リト様…」

「さすが、リトちゃん!じゃ、一つ聞いておくかな。兄ちゃんは、術者なんだろ?」

ダガースは、リトが見えなくてキョロキョロしながら言う。

「えぇ。炎を扱う術者よ」

「だよなぁ?この宮殿に入ってから、術者の雰囲気とか匂いがして来ねぇんだよな」

ダガースは、またもやキョロキョロする。

「それって…来てないって事?」

「そんなはずはない!私は、この目で見た!」

ハインズは、自分が見た映像を思い出す。

「異空間に閉じ込められてるから、匂いがしないとかじゃないの?」

「最初からなら、有り得る話だけど…それにしても、リトちゃん見えないと話にくいなぁ…」

ダガースは、キョロキョロしながら、リトを探す。

「私が、異空間に入り込まない様にしてあるみたい。しばらく辛抱してね」

「アイツは、もうちょい気を利かせて行動すりゃいいのに…」

ダガースは、愚痴を溢す。

「あっさり上まで来れたわね」

二人と一匹の前に現れたのは、ダガースに消されたはずのクレオパトラだった。

「爪女!」

ダガースは、伸びる爪を思い出す。

「失礼な獣人だね。私の名前は、クレオパトラ。世界で1番美しく権力のある女よ」

「クレオパトラ!?」

リトは、驚きを隠せない。

「傲慢なだけじゃねぇか…。しかも、世界って何処だよ…余計に萎えるぜ…┐(-O-;)┌」

ダガースは、余程、女と戦うのが嫌らしい。

「リト様。ダガースと先に行って下さい。私は、アレを倒してから参ります」

ハインズが弓をひく。

「ハインズ…」

「リトちゃん、行こう。ここは、ハインズに任せようぜ」

ダガースは、リトに決断を促す。

「わかったわ。ハインズ、上で待ってるから」

リトは、前へ歩き出す。

「リト様!」

「…?」

「上で何が起きようとも、リト様の神を…友を信じて下さい!」

「――!…わかったわ」

「なかなか良い事を言うじゃねぇか…」

ダガースは、横目でハインズを見る。

「女がいるみたいだけど、見えないねぇ。どんな手を使ったか知らないけど、この攻撃は避けきれないわよ?」

クレオパトラは、指を前に出す。何本かの爪が伸びて、更に放射状に拡がり、ダガースの辺りに襲いかかる。


「パシュ!」


ハインズの弓が、正確にクレオパトラの爪を襲撃する。

「キィ―――!!!またしても、私の爪がぁぁ!!許さない…許さないわぁぁ!!!!」

「大事な爪なら、攻撃に使うべきでないな」

「俺と同じ事を言ってやがる…」

しらけるダガース。

「ダガース!今のうちに行くんだ!」

ハインズは、次の弓を準備しながら、ダガースに叫ぶ。

「そうはいかないよ!」

クレオパトラがダガースの方へ移動しようとする。

「クレオパトラ。この世に、未練を残すのは止めておけ」

ハインズは、クレオパトラに向けて矢を射る。クレオパトラの動きが止まる。

「くっ…思い出したわ。お前は、あのハインズだね?って事は、奈落の女神も来てるって事かしら?」

「エイシスの事か?知らんな」

「ふんっ…嘘付きだね。まぁいいわ。私達『人』の祖先の中で最も許せない『人』。まずは、お前から死になさい」

爪が複数で飛んでくる。ハインズは、見事なスピードで、全ての爪を破壊する。

「全部の爪を破壊してくれたね…フフフ…フフフ…」

クレオパトラは、指を眺めて笑い出す。

「今度は、血迷ったか?」

ハインズは、弓を構える。

「その逆よ」

クレオパトラが一気に動き始める。ハインズは、怯まずに弓を放つ。華麗にかわすクレオパトラ。

「私の武器が、爪だけだと思うのかい?」

クレオパトラは、余裕の笑みを見せながら、雷を呼び起こす。

「なにっ!?」

雷は、神殿の天井を突き破ってハインズに襲いかかる。間一髪で避けるハインズ。

「驚いた?威力も変える事が出来るのよ。次は外さないわよ?」

「…」

「雷の餌食になりなさい!」

クレオパトラは、手のひらをハインズに向ける。

「攻撃をすれば、お前が消えるぞ?」

ハインズは、弓をひく。

「負け惜しみかい?雷は、光の早さを持っているのよ?弓をひいた状態で、避けられるかしら?」

クレオパトラの周りに、黒いモヤがかかり始める。そのモヤの中で、雷が発生して低い音を轟かせ始める。

「まずは、雷の爪跡よ」

「!?」

ハインズの腕に、無数の焼け跡と傷が付く。

「見えないでしょ?あんたが、私の爪を破壊したから、見えなくなったのよ」

(どういう事だ?)

ハインズは、周りに気を集中する。

「次、行くわよ」

クレオパトラの言葉と同時に、切り傷が増えて行く。

「くそ…」

ハインズは場所を移動するが、切り刻まれていく。

「雷の爪跡からは、逃れられないわ。さぁ死になさい!」

黒い霧が、更に拡がる。すると、ハインズの傷が増えていく。しかし、ある事に気が付いた。

(そういう事か…!)

ハインズは、矢を何本か床に突き刺す。

「何の真似だい?」


「クレオパトラ。その位にしておけ。タイムオーバーだ」

ハインズは、逃げるのを止めて弓を掲げて、クレオパトラを狙う。

「――?ハッタリは、通用しないわよ?」

クレオパトラは、ハインズの行動に一瞬とまどうが、攻撃を続ける。

「どういう事!?」

クレオパトラの攻撃が、全てハインズの手前――いや、床に刺した弓の所で止まる。

「見えない攻撃の媒体は、飛び散った爪。そして、散らばった範囲を計算すれば、後は、避雷針の役割を立てれば良いだけの事」

「おのれ…おのれ…」

「今度は、太陽の意思から受け継いだ力を見せよう」

「おだまり!そういう事は、この攻撃を止めてからいいな!」

クレオパトラの周りの黒いモヤが、形を変えていく。

「お前にこの技を使う事になるとはね」

モヤが成した形は、人の様な形をしている。

「悪魔との盟約を交したか…」

ハインズは、影を睨む。

「時の女王を利用して、この世を無に帰して、我々が奪う算段よ」

「なるほど…だが、時の女王が、お前らに殺られるとは思えないが?」

「私達は、勝てるわ。クフ王のピラミッドを忘れたのかしら?」

「ピラミッド…?」

「そうよ。あのピラミッドこそが、時の女王…いえ、神々を地に封じ込める為の装置よ」

「聞いた事はある。しかし、あのピラミッドは失敗策になったはずだが」

「足りない物があっただけよ。そして、それは成就したわ」

「霊魂の数か――」

「そうよ。しかも、純粋な人の魂よ」

「お前達が求める理想は、何処にある?」

ハインズの弓が紅く染まり、炎を帯びる。そして、矢はその熱さ故に蒸気を発する。

「理想?元々、地上は私達の物なのよ。私達の所に戻る事が、一番の理想よ」

クレオパトラの影の瞳が光り出す。

「やはり、お前達は何も理解していないようだな。お前達の理想は、今終わりを告げる」

ハインズの矢が、蒸発して消える。

「はははっ!矢が熱さに耐えきれないとは情けないね!終わりを告げるのは、お前だよ!」

クレオパトラのモヤの影が、雄叫びを上げる。雨の様に降り注ぐ雷。

「ぐっ…!」

まともに雷を何発も受けるハインズ。しかし、弓を引く体制は崩さない。

「ほぉら!早く避けないと丸焼けだよ!まぁ避けられないだろうけどね!」

いつの間にか、影がハインズの足首を掴んでいる。

「太陽の意思とは、全ての平等を願う意思!太陽の意思とは、己を燃えさせる事で存在を示す意思!」

蒸発した矢が、姿を現す。それは、先程の矢とは全く別物と化していた。矢の先は、太陽の様に爆発しながら燃えている。

「そして…太陽の意思とは、悪しき者を退ける神の意思!」

矢を放つハインズ。放たれた矢の衝撃で、足首を掴む影が消え去る。

「な…なんなの!?」

クレオパトラは後退る。雷が一瞬にして消え去る。

「雷曇が太陽に勝てるとでも思っていたのか?」

太陽の矢は、一気に影を貫き、掻き消す。そして、クレオパトラの腹に直撃する。

「そんなぁぁぁぁぁ!!!!」

断末魔の叫びを上げながら、消えて行くクレオパトラ。

「太陽の神の元で、懺悔するがよい」

ハインズの弓が正常に戻って行くと同時に、静けさが戻る。




人の敗北




「さぁて、さっきのお礼をさせて貰うぜ?」

マックスターが、斬魔刀を振り回す。

「さっきの分だけじゃ済まさねぇ。借金作らせてやる」

ハワードもランチャー砲を掲げる。

「哀れな奴らだ…」

サタンアメンは、首の辺りで親指を右から左へ流す。

「サタンアメン。私は、行くぞ」

「クフ王、わかりました。下等生物は、私が始末致します」

「逃げる気か!?」

ハワードは、ランチャー砲を発射する。しかし、クフ王は姿を消し、弾は壁で爆発する。

「ちっ…!」

ハワードは、サタンアメンに向けて、立て続けにランチャー砲を発射する。

「無駄な事を…」

サタンアメンは、弾を腕で弾く。

「甘いぜ?」

ハワードが放った弾は、弾道を変えてサタンアメンに向かう。

「ぬ!?」

サタンアメンは、不意打ちとなった弾を避けきれずに、もろに右肩に直撃する。右肩がえぐれる。

「『人』が放つランチャーの感触はどうだ?」

ハワードは、次の砲撃をしようとする。

「『人』だと…?何処までも下等な生物が…調子に乗るなぁぁ!!」

サタンアメンの雄叫びが、宮殿を揺るがす。すると、肩の筋肉が盛り上がり、傷が消えていく。

「すごい再生能力だな」

マックスターは、サタンアメンを観察する様に眺める。

「お?本気モードか?」

「そうでなくちゃ、戻って来た意味がない」

マックスターは、斬魔刀を振りかざして突進する。

サタンアメンの額のコブラが動き出す。

「気持ち悪い蛇だな!」

マックスターは、サタンアメンの額めがけて、横一文字斬りをかます。サタンアメンのコブラは、口で斬魔刀を受け止める。

「残念だったな。お前達の攻撃は通用しない」

「それはどうかな?ハワード!」

「了解。地獄のランチャー砲行くぜ!」

ハワードは、ランチャー砲を発射する。

「はっ!」

サタンアメンは、気合いで砲弾を吹き飛ばす。

「隙ありっ!」

気合いを抜いた瞬間を狙って、コブラを切り落とす。

「ぬっ――!?」

不意打ちに驚きを隠せないサタンアメン。

「お前らって、ホントに自信過剰だよな」

マックスターは、刀を床に立てながら言う。

「まだまだ、倍返しにも達してないぜ?」

ハワードは、ランチャーを構え直す。

「許せん…ここからは、本気で行く…」

サタンアメンが、目を見開いた瞬間に、ハワードの前に到達する。

「甘い!」

背中から、マックスターが斬魔刀を振るう。サタンアメンは、読んでいたかの様に、避けながらマックスターに、何かを投げつける。

「?」

マックスターの服には、紫の果物の果肉の様な物が、ぶつかり破裂する。

「ただの果実ではない。死の果実だ。永遠の果実の糧となれ!」

果実は、一気に服を腐らせて皮膚に到達する。

「くそっ!」

マックスターの体内に果実は、入っていく。

「マックスター!一気にケリ付けるぞ!」

「そのようだな!斬魔刀の奥義を見せてやるぜ!」

「それも叶わぬわ!」

サタンアメンは、呪文を唱える。すると、マックスターの体内に入った果実から、いばらの様な物質が生えてくる。

「ぐわぁぁぁ!!」

傷口からの激痛に叫び声をあげる。

「ちっ!」

ハワードは、ランチャー砲を撃つ。サタンアメンは、腕を振って弾くと同時に、果実を投げつける。

「あぶねっ!」

ハワードは、反射的に避ける。

「まだだ」

サタンアメンが、呪文を唱え始める。

「何、よそ見してんだ?」

マックスターは、いつの間にか、サタンアメンの背後を取る。いばらは、体の自由を奪っていく。しかし、そのいばらをひきちぎる。血が吹き飛ぶ。

「ぐっ…妖魔退散!」

斬魔刀が紫に光り出す。

「破魔滅殺!」

ハワードもランチャーを放つ。砲弾が白く光り、帯を残像として残す。

「お前らの攻撃は、お見通しだぁ!」

サタンアメンの黄金のマスクが閃光を放つ。不意を突かれた二人は、思わず目を閉じる。

「な…??」

目を開けたハワードは、目の前にいるマックスターに驚く。

「空間を縮めた…のか」

そこには、斬魔刀が肩から食い込んだハワードと、ランチャーの砲弾を腹に喰らって穴が空いているマックスターが対峙していた。

「死に行く下等生物に語る必要はあるまい…」

黄金のマスクが光り出す。

「くそ…俺らじゃ勝てねぇのか…」

マックスターは、薄れてゆく自分の体に力を込める。

「消えろ…」

先程の閃光が辺り一面に、ほとばしる。

「余計な時間を食ったな…」

サタンアメンが、消えた二人を確認して去ろうとした瞬間――

「まだですわ」

寝ていたドルシェが立ちはだかる。

「下等生物、死に急ぐか…」

サタンアメンは、ドルシェをさげすむ様に睨む。

「この世に生きる者達に下等も上等もありませんわ。あるとすれば、あなたの様に心を持たない者こそが、下等生物ですわ」

「人間ごときが何を抜かす…もう良い…お前も消えるのみだ…」

「いいえ。消えるのは、あなたですわ」

ドルシェは、意識を集中する。

「…?」

「待たせたな。始めるか?」

ドルシェが、エイシスに変わる。

「お前はエイシス!?何故、此処に!?」

「お前ごときに説明する必要はない」

「面白い…奈落の女神…勝負だぁ!」

サタンアメンの黄金が光る。次の瞬間に、その閃光がかき消される。

「ぬぅ」

エイシスの剣は、光すら切り裂く。

「サタンアメン。悪いが、私は、お前に構っていられる程の暇じゃない。すぐに終わらせる」

エイシスは、剣を構え直してサタンアメンを鋭い視線で突き刺す。

「我々は、お前から受けた屈辱を忘れた事はない。悪魔よりも神に恨みを持つ堕天使を手に入れた我々が、負けるはずがない!」

サタンアメンは、呪文を唱える。

「神の…匂い…」

「神の…光…許さん…」

エイシスの周りには、数百の異形の者が現れる。エイシスは、それらをぐるりと見渡す。

「こいつらは、堕天使の中でも、オシリスにすら裁かれなかった堕天使…すなわち、肉体を持つ天使だ…」

「説明はいらない」

エイシスは、剣を天に向けて瞳を閉じる。

「お前の得意の『光』と『闇』も通用しないぞ…行け!異形の者達よ!」

サタンアメンの掛け声と共に、異形の者達が動き始める。

「行き先が見えぬ者達に告げる!我は太陽より舞い降りし『人』だ!お前達を冥界の連鎖に導く事も出来る!それでも、太陽の意思を汚す事を望むなら滅びる為に戦え!私は前へ進むのみ!」

エイシスの剣が、金色に光り出す。

「ギャ―――――!!!!!」

異形の者達が、エイシスをめがけて、一斉に襲いかかる。

「哀れなり…欲望の者達…!」

エイシスは、金色に輝く剣を振りかざす。金色の光は、放射状に拡がり、流れ出る様に金色の水平線を作りあげる。金色の光に包まれた異形の者達は、叫び声をあげる間もなく、一瞬にして消滅していく。

「これが噂の黄金の太刀――」

サタンアメンは、超破壊能力を持つエイシスの攻撃を間の当たりにして呟く。

「サタンアメン。死すらぬるい存在のお前に、本当の光の太刀を見せてやろう」

エイシスは剣を構え、一気に間を詰める。

「――!!!」

サタンアメンは、余りの速さに声すら出ない。

「これが、光りの太刀だ」

エイシスの剣が、激しく光り出す。振り切られた剣から、光が閃光の刃の様に飛び出す。

「ケタ違い…」

サタンアメンの額から、まっすぐに切傷が出来る。傷口から漏れる光。

「次に会う時は、必ず…」

「安心しろ。次は無い」

エイシスは、更に背中から、両刃の槍を取り出す。

「この槍こそが、人が作りし『神の槍』だ」

槍の刃が、それぞれ金色と黒色に光る。

「何故だ!?何故、神は、我々ではない人を選ぶ!!」

サタンアメンの顔は、憎しみに満ちている。

「神が選んだのではない。お前らが、自ら神に背を向けただけだ」

エイシスは、槍を軽く回す。

「終わりだ。サタンアメン。神の槍により、存在を消滅させるがよい」

エイシスの槍の刃が光り出す。

「私が負ける…?過去と同じ繰り返しとは…」

「人間は、確かに愚かだ。だが、我々『人』と違って、『優しさ』を持ち合わせている。この感情があれば、変わる事も出来るかもしれない」

「無駄だ。所詮、人間は自分達が一番可愛いのだ。」

「残念だが…過去にしがみつく『人』にエデンは、耳を貸さない」

エイシスは、槍をサタンアメンの胸に突き刺す。

「クフ王が…必ず…必ず、時の女王を解放…」

サタンアメンは、霧の様に消えていく。最期までエイシスを睨んで。

「まずは、一人…。ドルシェ。もう暫く、体を借りるぞ」

エイシスは、光の残像を残して消える。




〜終末の刻み〜




「大統領!核の運搬は、全部完了しました!市民のシェルター移動も完了です!」

指令室の全員が、喜びで沸き上がりどよめく。

「喜ぶのは、まだだ。これより我々もシェルターに移動する。時間が無い。急げ!」

ゼビーは、指令室からの撤退を命令してドアの方へ向かう。

「大統領!どちらへ?」

側近は、大統領の行動に気が付く。

「執務室に戻るだけだ。ギルバート、君は私の側近としての役目は終わった。ここからは、自分の護衛と皆の安全を最優先にしろ」

側近の顔色が変わる。

「まさか…大統領は、残るおつもりですか…?」

「まだ戻らぬ仲間を待たねばならぬ」

「しかし!時間がありません!」

側近は、声を大にして叫ぶ。周りの兵士達が、どよめく。

「勘違いするな。私は生きる為に仲間を待つのだ。仲間との約束を果たせなければ、国を市民を向かせる事など出来ない」

「しかし…」

「生きて大統領を続ける為に仲間を待つ。これで充分じゃないか?」

ゼビーは、側近の肩を軽く叩く。ゼビーは、側近が涙を堪えて震えているのがわかった。

「さぁ、避難を開始だ!」

大統領は、最後の指令を出して執務室に戻る。


人間が予測する終末まで、あと五分…



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