第三部
〜戦場の女神〜
「ユニコーンさん、ありがとうですわ」
「ガルぅ〜♪」
ドルシェとユニコーンは、西の宮殿にすぐに辿り着いた。宮殿は静けさを保っている。
「門番もいないのかしら?」
ドルシェは、辺りを見回しながら銃を取り出す。
「お前…ら」
不意に下から声がする。ドルシェが下を向くと、ユニコーンの下敷になっている兵士が睨んでいる。
「さすがユニコーンさんですわ!私より先に敵を攻撃するなんて素敵だわ!」
「ガル?」
ドルシェは、ユニコーンの首に抱きつく。
「ガルぅぅぅぅぅぅ〜」
「てめぇら!俺をシカトしてんじゃねぇ!(怒)」
「うるさい男は嫌われますわ」
ドルシェは、銃のグリップを使って一撃かます。気を失う兵士。ドルシェは、軍服のマークを見る。
「カルバンの兵士ですわ。将軍の予測は当たったみたいですわね。ユニコーンさん、私は中に入ってカルバンを捕まえてきますわ。あなたは、ここで待っててちょうだいね」
「ガルッガルッ」
「あら?手伝ってくださるの?」
「ガルぅ♪」
「それじゃ、魔弾には気を付けるのですよ。それと、兵士は動かされているだけですから、命を奪ったらダメですわ。それと、制限時間は、11分ですわ」
「ガルッ」
ユニコーンを見て、ニッコリ笑うドルシェ。
「お前ら!手をあげろ!」
兵士達が集まりだす。
「もう、おでましですわ」
「ガルルン!」
ユニコーンは、一瞬で兵士の前に到達して足蹴りを喰らわす。
「ガル」
「わかりましたわ。ここはお任せしますわ」
ドルシェは、時計をセットして、宮殿の中を目指す。
「待て!」
ドカッ!
ドルシェに狙いを定めて銃を向けた兵士は、ユニコーンの足蹴りの前にひれ伏す。
「こいつ…ユニコーンか!?」
「ユニコーン!?伝説のユニコーン!?」
「何でこんな所にいるんだ!?」
兵士達が次々に伝説の生き物に驚嘆する。ユニコーンは、そんなのお構い無しで、一瞬で兵士の前に辿り着き、足蹴りをかましていく。
「動きが見えないぞ!!」
総勢30人いた兵士は、三人になっていた。兵士に動揺が走る。
「ガルぅ♪」
ユニコーンは、踊る様に楽しむ。
「に、逃げろぉーっ!」
三人は逃げ出すが、ユニコーンから逃げられない。一瞬で一就された。
「…つ…強い…」
「ガルッ」
ユニコーンは、宮殿を見つめる。
「ガル?」
宮殿の最上階で、こちらを見ている男がいた。カルバンだ。
(面白い生物が迷い込んだな…)
無事に宮殿に潜入したドルシェは、長い通路を走る。
(中は南の宮殿よりも広いですわね。西の宮殿の方が偉いのかしら…?)
ドルシェは、装飾などを見ながら、宮殿の上下関係などを考えてみる。
「いたぞ!不審者――ぐっ!?」
後ろで声がした瞬間に、すぐに振り向き銃を撃つ。兵士の右肩に命中する。
「時間は無駄に使えませんわ」
ドルシェは、捨てゼリフを吐いて、前を向いて走り出す。
「こっちだ!」
「階段をおさえろ!」
慌ただしい兵士達の声が行き交う。ドルシェは、出くわす兵士達の右肩を狙い撃ち、確実に仕留める。
「カルバン将軍!不審者です!真っ直ぐに将軍の部屋を目指していると思われます!」
「不審者?センサーは、反応しなかったのか?」
「はっ!突然現れた、と監視兵からの報告がありました!」
「外のユニコーンか?一体、何者だ?」
「恐らく、クレス将軍の特殊部隊かと思われます!」
「クレスの部下か…更に、面白い。ビルダーの部隊を向かわせろ」
「ビルダー大佐の部隊ですか!?」
「何か不満でもあるか?」
「いや…大佐の部隊が出る程では…」
「だから、お前は連絡係なんだ。クレスの部隊は、そんなにヤワじゃない。私は誰が来ても、本気で相手をする。それが勝者の必須項目だ」
カルバンは、兵士を睨む。
「も、申し訳けございません!すぐに連絡致します!」
兵士は、逃げる様に部屋を出る。
「馬鹿者が。しかし、クレスの部隊が来たとなると、少々、厄介だな…。西は、特殊部隊が来ないはずだったが…?」
カルバンは、携帯を取り出して、電話をかける。
「私だ。お前らの出番だ。敵はクレスの特殊部隊だ」
「了解。状況は全て把握しております。すぐに行動に移ります」
「頼もしい限りだな。頼んだぞ」
カルバンは電話を切り、ワインを飲み干した。
「いいか!敵は女兵一人だ!カルバン将軍の部屋に行くには、このロビーを通らなければ行けない!よって、ここで総攻撃に入る。敵が入ってきたら、即攻撃だ!」
ビルダーは、自信を持ってると言わんばかりの声で、作戦を話す。
「イエッサー!」
統率された兵士達の掛け声が響く。そして、ロビーの吹き抜けの通路を覆い尽す。
「くっくっくっ…完全に逃げ道なしだ。ここで手柄を立てれば、昇格間違いなしだな…」
(女性に総攻撃なんて、失礼ですわ)
ドルシェは、既にロビーのドアまで辿り着いて、盗聴していた。
(一気に行くしか無さそうですわね)
辺りを見回す。そして、一点で視線が止まる。その先には、一枚の扉がある。ドルシェは、中へと入って行く。
「…」
部屋には何も無い。ドルシェは、壁の前に立つ。そして、バズーカー砲を背中から取り出す。
轟音二発。
一発目の砲弾は壁を破壊する。二発目がロビーの一本の柱を破壊する。ドルシェは、立て続けに砲弾を発射する。そして、次々とロビーの柱を破壊する。
「通路が崩れたぞ!」
「た、助けてくれぇーっ!」
「落ちた兵士を助けろーっ!」
壁の向こうから聞こえる兵士達の叫び声。
「一体、何が起きているんだ!?」
ビルダーは、突然の攻撃に動揺する。柱が壊された事によって下に落ちる兵士達は、完全に統率力を欠いている。
「このままではマズイ!お前ら!自分の持ち場に戻れぇぇぇ!」
ビルダーは怒鳴るが、兵士達は、崩壊する通路から逃げる事で精一杯だった。
「あ゛っ―――!!!!!!!!」
とうとう、ビルダーのいる通路の柱も砲撃を受けて崩れる。
「お前ら!私を助けっ――!」
必死にしがみついているビルダーの目の前で、殆んどの通路が一斉に崩れていく。
「そ…そんな…こんな作戦ありなのか…」
愕然とするビルダー。
「さぁ、行きましょうかしら」
ドルシェは、壁の穴から飛び出る。そして、軽快なジャンプで瓦礫を足場に、一気に二階の通路の残りに辿り着く。
「だ、誰だ!」
逃げてる最中の兵士が、ドルシェに気が付く。
「あら。やっぱり気が付きまして?」
ドルシェは、上段蹴りを顔面に叩き込む。兵士は、一発でノックダウンした。
「その女が侵入者だ!可愛いが侵入者だ!」
ビルダーが、今にも落ちそうな体勢で叫ぶ。
「私は可愛いよりも美しいの方が良かったですわ」
体術で、兵士を倒していくドルシェが、ビルダーを睨む。そして、銃を撃つ。
「な、な、何て事を!?ギャ――――!!!」
ビルダーは、手前の着弾に驚いて、思わず手を放してしまった。そして、姿が見えなくなった。
「大佐ぁ!?」
部下達の視線が、下に落ちた大佐の方に向かう。その隙を突いて、残りの兵士を全て片付ける。
「皆さん、死なないで良かったですわね」
ドルシェは、手を降りながら先へと進み始めた。
「余計な時間を使ってしまいましたわ」
時計の針は、スタートから三分を経過しようとしていた。
「そこまでだ」
声と同時に、轟音が鳴り響く。ドルシェは、宙返りをして避ける。
「ほぉ?よく避けたな」
再度、轟音が鳴る。今度は、前へ飛込む。しかし、次の攻撃が来る。ドルシェは、防戦を強いられる。
「随分、派手好きな人がいたものですわ」
ドルシェは、連続する砲撃を見事に交しながら言う。
(おかしいですわ…姿が全く見えない…)
周りに目を配るが、狙撃している姿が見えない。
「探しても無駄だ。我々は、お前には見えん」
(我々って事は、複数…!)
ドルシェは、時計を見る。
「一分で終わらせますわ」
「その余裕が、何処まで続くかな?くっくっくっ…」
「何処まで?言ったはずですわ。一分で終わらせると」
「ほざけ!女だとて容赦せん!」
数ヵ所から砲撃が始まる。ドルシェは、その全てを避ける。ドルシェは、拳銃を取り出して、弾が飛んで来た方に応戦する。しかし、壁に穴を開けただけだった。
「お前がどんなに早く撃とうとも、我々には当たらないぞ!」
勝ち誇る見えない敵。
「冗談は、姿を見せてからにして欲しいですわ」
ドルシェは、カートリッジを取り替える。そして、天井のスプリンクラーを狙って撃つ。
「水なんかでは、我々は見えないぞ」
「それはどうかしら?」
ドルシェは、スプリンクラーに再度、撃つ。すると、スプリンクラーから出る水が、赤色に変わる。
「な、何だ!?」
見えない敵が動揺する。
「ペイントスモーク弾ですわ」
何も無い空間に、複数の人間の形が現れる。すかさず、カートリッジを変えて、右肩を攻撃するドルシェ。透明だった敵が、次々と姿を見せる。そして、倒れていく。
「み、見事だ…お前が噂の戦場の女神だな…」
「戦場は余計ですわ。それよりも、一つだけ教えて欲しいですわ。どうやって姿を消したのかしら?」
ドルシェは、銃口をボスらしき男に付き付ける。
「フン…それは言えないな」
男は、右肩を押さえながら不適な笑みを見せる。
「そう言うと思いましたわ。他の兵士さん?この人が話してくれないから、一人づつ消えて頂くわ」
ドルシェは、他の兵士の方へと移動する。そして、倒れて蹲っている兵士に照準を合わせる。
「ハッタリは通用しないぞ?」
男は、ドルシェを睨む。
「あら?ハッタリじゃありませんわ」
ドルシェは、兵士に発砲する。兵士は動かなくなる。
「き…貴様ぁーっ!」
男は、怒りを露にする。
「さぁ、答えなさい」
ドルシェは、冷静に返す。
「貴様は、血も涙も無いのかっ!」
「もう一度、言いますわ。答えなさい」
ドルシェは、次の兵士に狙いをつける。
「くっ…。これだ…このブレスレットによって、光の屈折を引き起こして見えなくなる」
ボスは、これ以上、部下が死んでいくのを我慢出来ずにカラクリを話す。
「ありがとうですわ」
ドルシェは、ニッコリ笑う。そして、死んだ兵士の所に行く。
「…?」
ボスは、その光景を見ている。
「兵士さん?起きる時間ですわ」
死んだ兵士の頭を、銃のグリップで軽く叩く。
「ん…ん?ヒィー!」
目を覚ました兵士が、ドルシェに殺されると思って恐れる。
「失礼ですわ。レディが起こしてあげたのに。もう一度、寝てなさい」
ドルシェは、グリップで後頭部を殴る。気絶する兵士。
「どういう事だ!!」
ボスが怒鳴る。
「びっくりしまして?私が撃ったのは、これですわ」
ドルシェは、銃から弾を取り出す。
「な…!?ペイント弾!?」
驚くボスを見て、ニッコリ笑うドルシェ。
「説明ありがとですわ。あなたの言う通り、ハッタリだったのですわ」
ボスは呆然とする。
「それじゃ、皆さんサヨウナラ」
「待て!ブレスレットを持って行かないのか!?」
「必要無いですわ。それにセンスが無いですもの」
ドルシェは、踵を返して走り出す。ボスは、後ろ姿を見つめる。
「待て!持ってけ。我々の完敗だ」
ボスは、ブレスレットをドルシェに投げる。
「ありがとうですわ」
ドルシェは、再び走り出す。
「戦場の女神…なるほどな…負けたのに、悔しくもない。不思議な気持ちだ…我々…特殊舞台は完敗だな…強さも機転も桁外れだ」
「カルバン将軍!全てのエリアを突破されました!」
連絡係の兵士が、慌てて入って来る。
「突破されただと…?」
カルバンは、怒りが込み上げて来る。
「ビルダー大佐の部隊は、完全に撃破されてしまいました!」
「もう良い。下がれ」
カルバンは、椅子から立ち上がる。
「しょ、将軍!?」
兵士は、動揺する。
「お前らには、任せられん。消えろ」
カルバンは、兵士に銃を向ける。
「将軍!?何をするつもりですか!」
兵士は後退り、足がもつれて転ぶ。
「もう用が無い――という事だ」
『バリィ―――――ン!!』
派手にガラスが割れる音が響く。
「ガルぅ〜♪」
ガラスを割った犯人は、ユニコーンであった。
「強化防弾ガラスに変更したはずだが…伝説のユニコーンには、関係なかったようだな」
カルバンは驚きもせずに、冷静に冷徹な視線でユニコーンを睨む。
「ガル…ガル…」
ユニコーンは、突撃体制に入る。
「まぁ待て。私のペットにならないか?私は、もうすぐで世界を支配する存在になる。悪い話だとは思わないが?」
「ユニコーンさんは、私の友達ですわ。あなたの様な方には、不釣り合い過ぎますわ」
ドアの方で声がする。ドルシェだ。
「ガルぅぅぅぅ〜!!」
ユニコーンは、ドルシェを見てはしゃぐ。
「特殊部隊をよく振り切ったな。ドルシェ君」
カルバンは、臆する事なく言う。
「特殊部隊?そんなのいませんでしたわ」
「そんなはずはない。私の特殊部隊は、史上最強かつ完璧だ」
カルバンは、苛立ちを見せる。
轟音一発。
「ぐっ!卑怯だぞ!?」
ドルシェの銃弾は、カルバンの右肩を撃ち抜く。
「卑怯?武力を持たない市民を盾にして、欲望を満たそうとしている人に言われたくないですわ」
ドルシェは、更に左肩を狙い撃ちする。
「ぐはっ!ま、待てっ!取引きをしよう!」
カルバンは、床にうずくまりながら言う。
「取引き?まずは市民がシェルターに入れる様にしなさい」
「わ、わかった!」
カルバンは、床を這いずりながら電話の受話器を取る。
「私だ!早く私の部屋に来い!敵だ!…な…何…?既にやられた…?」
カルバンは、受話器を落とす。
「見えない兵士の軍団を倒したのか…?」
ゆっくりとドルシェの方を向くカルバン。
「見えない兵士さん達は、下で降参しましたわ。あの兵士さん達が特殊部隊だったのですね。でも、今は関係ありませんわ。取引き不成立で、あなたには消えて頂きますわ」
ドルシェは、カルバンの頭に狙いを定める。
「た、助けてくれっ!わ、私を殺したら、シェルターの解放は無いんだぞ!?」
後退りしながら、命乞いをするカルバン。
「あなたがいなくても、他の兵士さんに頼みますわ」
ドルシェが引き金を引こうとした瞬間。
「ガルっ!!!!」
ユニコーンの蹴りが、カルバンを捉える。
「――!!ユニコーンさん!?」
予想しなかったユニコーンの攻撃にドルシェが驚く。
「い…痛い…頼む…助けてくれ。シェルターの解放はする…」
カルバンは、涙を流しながら言う。ユニコーンは、無線機を口でくわえて、カルバンの前に持って行く。
(ユニコーンさん…私が冷静じゃなかった事に気が付いた?)
ドルシェは、ユニコーンの行動を眺める。
「ガルっ!」
「わ、わかった!」
カルバンは、完全に服従していた。
「…私だ!すぐに全シェルターを、市民に解放するんだ!すぐだっ!」
「それだけじゃダメですわ。市民が混乱しない様に、兵士の誘導をつけてくださる?」
ドルシェは、銃口を額に付き付けて言う。そして、ユニコーンを見て、いつもの笑顔を見せる。
「ガルっ♪」
(やっぱり…いつもの私なら、すぐに額を狙ったりしないですものね…)
ドルシェは、反省しながら再び、カルバンを睨む。
「はいっ!言います!全兵士は、市民の安全を確保しつつ誘導に全勢力を傾けろっ!わかったなっ!」
カルバンは、ちらちらドルシェとユニコーンを見る。
「カルバンさん?核はどうなさいましたの?」
「核まで知ってるのか…いや、知っていたんですか!?」
「早く言いなさい」
ドルシェは、また銃口を付き付ける。
「はひっ!核はバミューダ海域に持って行きました!」
「あら?それは、ご苦労様ですわ」
「へっ?」
カルバンは、現在の状況をわかっていなかった。核を保有して隠したつもりだったが、結果して国の手伝いをしていた。
「それでは、ユニコーンさん行きましょう」
「ガルっ♪」
「ま…待て!?身柄拘束とかしないのか?」
「…今は、あなたを相手にしている暇は無いのですわ。予定よりも四分もオーバーしたのですから。拘束して貰いたければ、勝手にどうぞ?」
ドルシェは、ユニコーンに跨り、時計を見ながら言った。
「……」
唖然とするカルバン。
「さぁ!ユニコーンさん!三十分まで、後、二十分しかありませんわ!飛ばしてクレス将軍の所まで、お願いしますわ!」
「ガルぅぅぅぅ〜♪♪♪」
ユニコーンは、一気に消えて行く。
「ソルジャー聞こえるか?」
クレスは、出発前の準備をしている。
「聞こえてますよ」
「こいつで、火山の穴を塞ぐには、どの角度だ?」
「正直言って、厳しいです。唯一ある角度なら、穴の中の山頂側に突っ込んで、運がよければ崩れた山頂で埋まるかも…です」
「よし。それで行こう。」
クレスは、コクピットに乗り込む。
「しかし、その角度だと脱出しても穴に落ちてしまいますが…」
「その時は諦めるさ」
クレスは、全く動揺しない。
「…将軍。やはり、作戦を変えるべきです。今、将軍がいなくなったら、軍の統率も乱れます。何よりも我々が――」
「ソルジャー。私は死ぬつもりはない。ドルシェが必ず帰ってくる」
「しかし、ドルシェからの連絡がありません。間に合わない可能性の方が高いんですよ!?」
「大丈夫だ。私が信用出来ないか?」
「…わかりました。脱出ポイントで確実に脱出して下さい」
「うむ。さぁ行くとするか」
クレスを乗せた機体は、ゆっくりと動き出し、離陸する。
「ソルジャー。皆に伝言を頼む」
「はい」
「敵は化け物だ。最悪を想定して最善を尽せ。そして、何が何でも生きて、明日を迎えろ――だ」
「了解しました…何か別れの言葉みたいですね」
無線の向こうのソルジャーの声が、悲しみに満ちているのがクレスにも伝わった。
「そう悲観するな。悲しむのは、私が死んでからにしろ」
「クレス将軍…」
(この地点で、ドルシェが来ないという事はダメか…)
クレスは、辺りを見回す。
「脱出ポイントまで、後、何秒だ?」
「十秒です。」
「カウント頼んだぞ」
機体は、穴の上を通過する。
「五秒…四秒…三…二…一…脱出です!」
「…どうやら、死神に好かれたみたいだ。脱出回路が作動しない」
クレスは、脱出ボタンを何回も押すが、反応しない。
「将軍!?」
「まぁ、この方が正確になる」
「何を言っているんですか!!早く脱出して下さい!!!」
ソルジャーは怒鳴る。
「ソルジャー、伝言頼んだぞ!」
「将軍!将軍!返事をして下さい!」
『ガゴぉぉ―――――――!!!!!!!』
強い衝撃音と爆発音を最後に通信は途絶える。
「将軍……」
ソルジャーの目から、涙が溢れる。そして、通信機の前で敬礼をした。
「ギリギリ間に合いましたわ!」
爆発と炎上する山を見て、呟くドルシェ。
「間一髪だったぞ…」
「ガルぅ〜♪」
「無事なら良いですわ」
正に衝突の瞬間――ユニコーンは、角でガラスを割り、将軍をくわえて救出したのだ。
「ドルシェ。カルバンの軍を制圧できたのか?」
「えぇ、もちろんですわ。市民のシェルター移動も始まっています」
「見事だ。見事だが、そろそろ俺を降ろしてくれないか?」
「ギャル?」
ユニコーンに、咥えられたままのクレスは懇願する。
地上に降りた二人と一匹は、火口を見詰める。
機体の爆発で、山頂が崩れ始めたのだ。土砂は、穴をどんどん埋め尽していく。
「将軍の作戦は、成功みたいですわ」
「ギャンブルみたいな物だったがな」
ドルシェは、少し微笑んで携帯を取り出す。
「ソルジャーさんかしら?作戦は、成功ですわ。将軍の救出もご心配なく」
「ホントか!?…良かった…ドルシェ、お疲れ」
ソルジャーの声は、安堵に満ちていた。
「お礼は、ユニちゃんにお願いしますわ」
「ユニちゃん?」
「私達の新しい仲間ですわ。ユニコーンのユニちゃん」
「ははは。今回の作戦の立役者だからな」
「ガルっ!」
「何故、私の部隊は、本当に特殊な奴等の部隊になるんだ?」
クレスは、隊員の面子を思い出しながら呟く。
「あら?楽しい方が素敵ですわ」
ドルシェの言葉に、肩を竦めるクレスであった。
〜闇の力〜
「なぁ、マーズ」
「あん?」
「何で、俺達、走ってんだ?」
「宮殿を目指す為だろ。頭悪ぃな」
「そうじゃねぇ!瞬間移動で一発なんじゃねぇのか!?」
「甘いな。宮殿まで瞬間移動で体力使ったら、その後が歩けねぇ」
「威張るなよ…使えねぇ力だな」
「ダガース。我慢してね。また寝られたら困っちゃうから」
「リトちゃん、ひでぇ…俺って何だか、可哀想だな…」
二人と一匹は、宮殿を目指して走る。
「こりゃまた強そうな敵だな」
マックスターは、祭壇の間にいる異形の生物を見上げる。その姿は、巨人と言っても過言でない大きさだった。
「人間国宝に指定してやりたいな」
ハワードは、巨人を見ながら皮肉を言う。
「だが、視覚的には悪くないな」
巨人は、人間と変わらない姿をしている。
「ホントだな。魔弾が効けば良いが…」
ハワードは、ガトリング砲を撃ち鳴らす。しかし、さっき同様、弾は床に散らばる。
「やっぱり駄目か」
ハワードは、バズーカに切り替える。
「弱き人間よ…あがくな…結果は、見えている」
巨人は、見下ろしながら言う。
「しかも、言葉喋るのかよ」
マックスターは、驚く。
「下等な生物だけに…行動も下等だな…」
「お前に言われたくない!」
マックスターは、斬り込む。
「言ったはずだ…無駄だと…」
巨人は、手のひらをマックススターの方へ向ける。すると、刹那、閃光が辺りを覆う。
「マックスター!」
閃光が消え、目の前にあるのは壁に激突して、自分の剣で串刺しになっているマックスターだった。ハワードは、その光景を見て、心から怒りが込み上げてくる。
「てめぇ…!」
ハワードは、バズーカ砲を、怒りに任せて撃ちまくる。しかし、届かない。
「お前も死に急ぐか…」
巨人は、また、手のひらを向ける。
「同じ手を喰らうか!」
ハワードは、ジャンプする。そして、巨人の頭上から、バズーカ砲を撃つ。
「やはり…下等生物だな…」
巨人は、頭上にいるハワードを睨む。
「ぐっ…!!!!!!!!」
ハワードは、何が起きたか把握出来ない。ただ、睨まれただけで、天井に激突した。落ちて行くバズーカ砲。
(近付く事もできねぇ!何か良い手は無いのか!?)
「お前に手段は無い…あるのは、死の弾劾だけだ」
巨人は、更に指をハワードに向ける。指の先から、光線がほとばしる。そして、ハワードの胸を貫いた。
「そ…そんな…」
ハワードは、マックスターの方を見る。動く気配もない。
「く…そぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全ての力を振り絞るハワード。
「せめてもの情けだ…」
巨人は動き出す。ジャンプをしてハワードの前へ詰め寄る。
「俺達は死なねぇ!!」
ハワードは、天井から抜け出して、落下して行く中で、ガトリング砲を構える。そして、目の前にある、巨人の顔面に超至近弾を打ち込む。
「オォォォォォォォォぉ!!!!」
雄叫びをあげ落下しながら撃ち続けるハワード。しかし、巨人は、平然とハワードの落下に付いて行く。
「さらばだ。人が産みし欲望の存在よ」
巨人は、ハワードを挟むように、手をかざす。一瞬だった。手のひらの間で閃光が走り、ハワードは黒焦げとなり床に落ちる。
「哀れなり…小さき存在よ…」
静かに着地をした巨人は、マックスターの方を見る。
「まだ…生きるか…」
マックスターは、自分に刺さった剣を抜こうとしている。
「友のもとへ行くが良い…」
巨人は指先から、光線を発射する。光線は、マックスターの額を貫く。そのまま、マックスターは動く事はなかった。
「いよいよ…浄化の始まりだ…」
不意に止まるマーズ。
「ダガース」
「あぁ。無茶苦茶、嫌な予感がするぜ」
マーズは、携帯を取り出す。
「ソルジャー。他の奴等は無事か?」
「将軍とドルシェは連絡が付いたが、ハワードとマックスターが音信不通だ。恐らく、異空間に紛れ込んでいる」
「妙に胸騒ぎがする」
「将軍に報告する」
「あぁ。頼んだぜ。こっちは、時の神殿まで、あと少しだ」
「わかった。マーズ気を付けろ。敵は化け物のようだぜ」
「そのようだな」
「あと、将軍から、生きて明日を拝めとの事だ」
「死ぬつもりは、さらさらねぇ。安心しろと言っておいてくれ」
「明日、自分で言えよ」
「ふっ…そうするか。じゃ、頼んだぜ」
「任せろ」
二人のやりとりを不安そうに見詰めるリト。
「仲間に何かあったの?」
一瞬考え込むマーズ。しかし、真実を伝える事にする。
「北の宮殿に向かった仲間が音信不通らしい。連絡だけは、マメにする奴等だけに気掛かりだな」
マーズは、北の方角を見詰める。
「何も無ければ良いけど…」
リトは、見知らぬ二人の安否を気遣う。
「大丈夫さ。俺らは、どんな状況でも死なない様に訓練されているんだぜ?」
ダガースが、元気付けようとする。
「こらっ!ダガース!俺の台詞と役を取るんじゃねぇ!(怒)」
「下心を作らなくちゃ、台詞を言えないヤツに決め役なんかねぇんだよ!」
「んだとぉ!?」
『ゴツン!』
リトの一撃が飛ぶ。二人は、地面にひれ伏す。
「もう!マーズの仲間は心配だけど、私達が行かなくちゃ本当に終わっちゃうのよ!?」
「最近のリトちゃん…だ…」
「あぁ…そして、逞しくなったな…」
「同感…」
「クレスです。カルバンの一件と火口の処理は完了です」
「カルバンの件の報告は受けている。ご苦労だったな。市民もだいたい非難完了だ」
「核の方はどうですか?」
「無事に全弾、港を出発出来そうだ」
「それは何よりです。我々は、これより北の宮殿に向かいます。現地調査しなければならない事が出来ました」
「そうか。軍隊の非難勧告まで、一時間程だ。それまでには戻るんだぞ?」
「了解しました。大統領も、早めの非難が宜しいかと」
「お前達が戻ってきたらな」
「…わかりました。では」
クレスは、電話を切る。
「大地震の準備は、順調のようですわね」
ドルシェは、銃の手入れをしながら言う。
「あぁ。とりあえず、北の宮殿に行く。ソルジャーの報告が気になる」
「わかりましたわ。将軍、ユニちゃんで宜しいかしら?」
ドルシェは、銃をホルスターに仕舞いながら言う。
「…乗る物がないからな。頼んだぞ、ユニコーン」
「ガルっ♪」
「将軍、ユニコーンじゃなくて、ユニちゃんですわ」
「どっちでも良い。行くぞ」
「まぁ。愛想の無い事…」
二人は、ユニコーンにまたがる。そして、一気に北の宮殿を目指して消えて行った。
「本当に早いな」
クレス一行は、北の宮殿に辿り着いた。
「将軍、人の気配がしませんわ」
「…だな。中に入るぞ」
「ユニちゃんは、ここで待っててちょうだいね」
ドルシェは、ユニコーンの頭を撫でる。
「ガル」
二人は、宮殿の敷地内へと歩き出した。
「将軍、化け物の残骸ですわ」
二人の前には、ハワードとマックスターが壊滅させた怪物の破片が散乱している。
「どうやら、ここも襲われたみたいだな」
「だけど、二人の姿がありませんわ」
「近道もあるみたいだし…中か」
クレスの視線の先には尽く破壊された壁があり、祭壇の間までの近道を示していた。
「まぁ、親切ですわね」
ドルシェは、二階のバズーカによる穴を見詰める。
「…」
「どうやら、祭壇の間に行けば、全て解りそうだな」
「そのようですわ」
二人は、宮殿の中へと入って行った。
〜人〜
「やっと、辿り着いたな」
マーズは、そびえ立つ神殿を見上げる。
「ここに、お兄様もいる…」
リトは、ヤーヴェと会える事に期待を膨らませる。
「どうやら、ただでは入れてくれねぇみたいだぜ?」
ダガースは、周りを見渡す。リトには、何も見えない。
「リトちゃん、ダガースは鼻が利く。早く入るぞ」
マーズは、リトを促す。
「俺が相手しててやるから、さっさと行ってきな」
ダガースは、扉に背を向ける。
「ダガース!一緒に中に入れば大丈夫なんじゃないの?」
リトは、ダガースを説得しようとする。しかし、聞こえないフリをする。
「マーズ。リトちゃんを任せたぞ」
「…わかった。後で、ドッグフードたらふく食わせてやっからよ」
「犬の食い物なんか食えるか!早く行け!」
「へいへい。ドッグフード嫌いの犬も珍しいぜ…」
マーズは、扉を開く。
「行こうぜ、リトちゃん」
リトは、ダガースの後ろ姿を見ながら中へと入って行く。
「ダガース!死なないでね!」
リトは、抑えきれない不安を言葉にする。
「マーズを宜しくな」
(逆だろ…(= =;))
「さぁ、そろそろ姿を見せな!盗撮野郎!」
「野郎じゃないわ。せっかく茶番劇を最後までやらせてあげたのに」
ダガースの前に現れたのは、グラマラスな女だった。
「女かよ!?また、やりにくいヤツが出てきたぜ」
ダガースは、容姿を見て露骨に嫌がる。
「私に性別なんて無いわ。名前はクレオパトラ。聞いた事があるでしょ?」
「クレオパトラ!?って、あの古代のクレオパトラか!?」
「そうよ。この時代にも名前が残ってて光栄ね」
「ってか、性別、女じゃん…」
ダガースは、よっぽど女と戦うのが嫌らしい。
「『人』は死んだら、男も女も関係ないのよ。無に帰すの。まぁ、獣人のあなたに話しても無駄でしょうけどね」
「ムッ…人と人間の話位知ってんぞ!?」
馬鹿にされた事に腹を立てるダガース。
「ハインズに聞いたのね。じゃ、『人』にも二通りあるのも知っているかしら?」
「二通り?…男と女」
「…無駄だったようね。もう良いわ。死になさい」
クレオパトラは、人差し指を前に出す。
(爪長っ!)
クレオパトラの爪は、長くなり過ぎて綺麗に巻かれている。しかし――
「あぶねっ!」
クレオパトラの爪は突然動き出して、ダガースを襲う。間一髪避けるダガース。
「一度避けた位じゃ終わらないわよ?」
次々に伸びて襲ってくる爪。ダガースは、全てかわす。
「気持ち悪いヤツだな!?動物相手に飛び道具は、汚ねぇぞ!」
「地上は、私達の物よ。邪魔な存在は消えなさい」
「二通りの意味が解ったぞ!お前らは、時の女王のグルだろ!?」
ハインズも人だったが、明らかに違う。ダガースは、避けながら叫ぶ。すると、攻撃が止む。
「その通りよ。馬鹿な祖先が神に背を向けていなければ、私達は人間なんかに殺されずにすんだのよ」
「ハインズは、地球を守りたがっていたぞ?」
「そんな輩もいたわね。彼等は、『人間』との共存を考えているのよ。でも、私達は、『人』だけの世界を望んでいるの」
「勝手に決めるなよ…」
「勝手じゃないわ!いい?人とは『破壊の使者』と呼ばれた神の遣い。本来の目的は、地上を神に還す為の制圧。それが、事もあろうに、4人の使者が、地上を自分達の物にしようとしたのよ。それが私達の祖先の『人』。時を支配した使者が、怒りの身を委ねる気持ちがわかるわ。神に背を向けてまで創った地上が、これなんですから」
「そいつらだって、地上を理想郷にしたかったんだろ?形は違っても、お前らと同じ思いなんじゃないのかよ!」
ダガースは、反論する。
「馬鹿ね。『神の遣い』の思考は、全ては神の為よ。しかし、『人』は、神と人の為だわ。この違いが人間を生み出したのよ。そして、人間は、都合の悪い人を葬ってきたのよ。だから、人間に葬られた『人』は、時の支配者に忠誠を誓ったのよ」
「逆恨みかよ。人も人間と変わんないねぇ」
ダガースは、皮肉を込める。
「今の言葉、撤回しなさい」
クレオパトラの表情が変わる。
「嫌だね。お前こそ地獄に帰れよ!」
ダガースの口から、火の玉が飛ぶ。クレオパトラは、手で払う。
「やっぱり、これじゃ効かないか」
ダガースは、威嚇するポーズをする。
「獣人。もう遊びは終わりよ。消えなさい!」
クレオパトラは、左手を天にかざす。すると、雷がダガースのもとへ落ちる。間一髪で避けるダガース。
「何だ!?」
「私は、東の宮殿に葬られたクレオパトラ。天の力を借りるのに苦労はしないのよ」
雷は、スピードと威力を増して、ダガースに襲い掛かる。
「ちょっと、煽り過ぎた…かな?」
ダガースは、焦りを覚えた。
「誰もいないね」
リトは、螺旋階段を登りながら言う。
「神殿って、普通、何人位いるんだ?」
「この規模だと、五百人はいてもよさそうだけど…」
「もしかしたら、地震に備えて避難したんじゃねぇかな?」
マーズは推理をする。
「そうかもね。でも、法王様はいると思うよ」
「お偉いさんって、真っ先に逃げるイメージがあるんだよなぁ」
マーズは、軍部の何人かを思い浮かべる。
「法王様は、立派な人だよ。どんな人の話でも聞いてくれるんだから」
「へぇ。まさに仁徳者だな」
リトが、後ろをチラチラ見てるのに気が付くマーズ。
「何か変か?」
「…うん。さっきから誰か付いてきてる気がするんだけど…気のせい?」
(やっぱ、良い勘してるぜ…)
「まぁ、宮殿の瓦解を考えれば、何かが来てるかもな」
マーズは、平然を装う。リトは納得していない感じだが、マーズに付いて行く。
「それにしても、長い階段だなぁ。法王は、最上階か?」
マーズは、上を見てウンザリする。
「最上階は、儀式の間だから、その下の階が法王様がいる部屋だよ」
「たいして変わらねぇ…(-.-;)」
二人は、階段を登り続ける。不意にリトが立ち止まる。
「リトちゃん、どうした?」
振り向くマーズ。
「何かおかしいよ。いくら何でも、階段長すぎるよ」
リトは、異変に気が付く。マーズは、携帯を取り出す。
「また異空間かよ。勘弁してくれよな」
マーズは、周りを見る。
「時間の無駄だ!出て来い!」
「…地上を汚す者よ…お前に用はない。消えろ。」
何処からか声がする。
「生憎だったな。俺だけ帰る訳にはいかねぇんだなぁ」
マーズは、辺りを冷静に見る。
「そこか!」
手のひらから、光の矢が飛ぶ。
「――!?」
光の矢は、壁の手前で爆発する。煙が消えてくると、声の主が現れてくる。その姿は、人間と何も変わらない。
「ほぉ。精霊使いか…」
「ちげぇよ。ただの人間だ。そういうお前は、『人』か?」
「…私は、カエサル。そこまで知っているならば、話は早い。罪深き人間よ、消え失せろ!」
「リト!俺から離れるなよ!」
カエサルは、剣を抜く。一気にマーズ達との間合いを詰める。
ガキッ!
カエサルが降り下ろした剣を、リトに羽織らせていた革ジャンで受け止める。
「――!」
カエサルは、一旦退く。
「驚いたか?まさか、革ジャンに止められるとは思わなかっただろ」
マーズは、革ジャンを広げる。ただの革ジャンだ。
「どうやったの?」
リトも驚く。
「じきにわかるさ…今は秘密にしておくぜ…」
(決まった…( ̄ー+ ̄)ニヤリ)
「…どうせ、風の力とかでしょ…」
「何でわかったんだ!?」
「…アホ」
マーズは、うなだれる。
「頑張って、間一髪で捉えたのに…」
「わかったわよ!後で沢山聞かせて貰うか――!」
カエサルは、二撃目を仕掛けてくるのが目に入るリト。今度は、先程よりも数段早い。
「ちっ!これでも喰らえ!」
マーズは、光の矢を何本か放つ。カエサルは、全て剣で払う。そして、マーズの前に到達する。
「今度は手加減せん!」
カエサルは、剣を思いっきり振り下ろす。
ガキッ―――ン!!
「ぬぅっ!?」
カエサルの表情が固まる。
「予想外だったか?未練たらしのカエサル?」
マーズは、不適の笑みを溢す。またもや革ジャンで止めたのだ。リトは、完全にやられると思って塞ぎ込んでいる。
「我の一撃を止めた事には驚いた。だが、スピードに遅れ気味だったぞ?」
「そこに気が付くとは、お前も結構やるじゃねぇか」
「その潔さ、気に入った。本気で相手をしてやるぞ」
カエサルは、剣を収める。そして、両腕をクロスさせて力む。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「今度は何やるんだ?」
マーズは、カエサルの姿を見つめる。そして、リトの手を引っ張る。
「行くぞ、リト!」
「ちょ、ちょっとマーズ!?」
リトは、突然に引っ張られ焦る。カエサルが、段々と赤味を帯びてくる。
「今しかねぇ!はっ!!」
マーズとリトは、カエサルの前から消える。
「―――!?」
カエサルは、さすがに驚きを隠せない。
「瞬間移動?うぉのれぇぇぇ!!!何処に行ったぁぁぁ!」
怒りに荒れ狂うカエサル。溜め込んだ力が、一気に放出されて、異空間を破壊する。
「危なかったぜ。あんなマッチョな怪物、まともに相手してられっか」
マーズとリトは、正常な空間に帰り着いた。
「カエサルって、古代のカエサル?」
「あぁ、多分な。大方、人間に殺された『人』が、復讐する為に、時の女王と手を組んだんだろ。ハインズとは、明らかに違っていたしな」
「何で、こんな事になっちゃったんだろ…?」
「…こんだけ長い時間かけりゃ、歯車が狂う事もあるさ」
「悲しいね…」
「そうでも無いぜ?今回の事で、人間は多くの事を学んだんじゃねぇか?問題は、この後にどれだけ生かせるか?だろ。だが、全てを終わらせられたんじゃ解決はしねぇ」
真顔で話すマーズ。
「そうだよね…終わりが始まりじゃないよね。変えなくちゃ始まらないんだよね」
「そういう事だ。さぁ、マッチョなカエサルが来る前に行こうぜ」
「うん!」
二人は、現実の階段を進み始めた。
「遅かったか…」
「…。二人の冥福を祈りますわ」
クレスとドルシェは、祭壇の間で、ハワードとマックスターの遺体を発見した。
「致命傷は精霊の力みたいですわ」
「精霊?怪物が精霊を操れるのか?」
「わかりませんわ。この二人をここまで出来る存在も考えられませんわ」
「…いや…いる」
クレスは、エイシスが葬った怪物を思い出した。
「どうやら、相当に危機的な状況のようですわね」
ドルシェが珍しく深刻なセリフを言う。
「仮に怪物がいたとして、二人を倒して何処に行く?」
「神殿…?」
「いや、違う。まだ崩壊していない西の宮殿に行くんじゃないか?」
「そうですわね。行きますか?」
「行くのは、私一人でいい。お前は、時の神殿に向かうんだ」
「…?」
「推測に過ぎんが、宮殿の共通項目は、古代文明が栄えた場所だ。恐らく『人』が作り、人間が滅ぼした場所だろう。西も古代文明が栄えた形跡がある場所だ」
クレスは、ハワードの亡骸にジャンパーをかける。そして、マックスターの遺体の方へと歩く。
「時の神殿は違う――という事ですわね」
ドルシェは、ハワードのランチャーとバズーカを彼の横へ置き、亡骸の側でしゃがみこむ。
「その通りだ。あそこに文明があったという史実は無い。東はクレオパトラ、北にはツタンカーメン、南が、カエサル。そして、西には、最後の『人』の王のクフ王が眠っているはずだ。奴らの誰かが、クフ王を解放する為に、西に向かう可能性は高い」
クレスは、マックスターを刺している剣を抜き、落ちてくるのをしっかりと受け止める。
「すまなかったな…お前達が先に死んでしまう事になるとは…」
マックスターの頭を撫でるクレス。まるで、自分の子供を寝かせる様に…。
「ドルシェ。神殿に向かってくれ。マーズ達が危ない。西のクフ王は、私が何としても止める」
「でも、将軍の言う様に誰かが向かっていたら…?」
「心配するな。お前は、マーズ達と合流するんだ。『人』の復讐を止めるんだ。それが、終末を止める最後の手段かもしれん」
クレスは、マックスターを抱きかかえ、ハワードの横に二人並ばせてあげる。
「…わかりましたわ。それでは、ユニちゃんと一緒に、西の宮殿経由で送りますわ」
ドルシェは、立ち上がる。
「頼んだぞ」
「だけど、その前に…」
ドルシェは、マックスターの斬魔刀を腰にかける。そして、ハワードのバズーカ砲と自分のバズーカ砲を交換する。
「…?」
クレスは、ドルシェの行動を見つめる。
「彼等も仲間ですわ。きっと一緒に戦いたがっていますわ」
二人の装備をしたドルシェは歩き始める。
「そうだな…。連れて行ってやれ」
クレスは、ドルシェの姿を見て納得をする。仲間の大切な物を守る。それが道具かもしれないし、心かもしれない。クレスの部隊は、そんな心意気を持っていた。
「行くか…こんな戦い、終わらせてみせる…」
クレスは、心に新たな誓いを立てた。
「カルバン様!早く我々も避難しないとマズイです!」
カルバンは、ワインを飲む。
「退却は、お前達が先に済ませろ。私は、しばし優雅な時間を楽しむ」
「しかし――!」
「私に逆らうのか?」
カルバンは兵士を睨む。
「は、はいっ!すぐに退却致します!」
兵士は、走って部屋を出る。
「クレスの部隊とは大違いだな…」
カルバンは、肩の傷を触りながら外を見る。空は、厚く黒い曇が、覆い始めていた。
「さて。終末を楽しむとするか…」
ワインを一口飲み、葉巻きを吹かす。
どごぉぉぉぉぉん…!
下の階で爆発音がする。宮殿が大きく揺れる。
「ぬぅ!?」
カルバンは、机にしがみつく。
「何事だ…?」
おぼつかない足取りで部屋を出て行く。
兵士が一人、走ってくる。
「将軍!敵の襲来です!」
青ざめた顔で兵士が叫ぶ。
「敵の襲来!?クレスの部隊か?」
「違います!巨人です!総員で応戦していますが、攻撃が効かないという情報が入っています!」
「巨人…。いよいよ始まったか…!いいか!お前らじゃ歯も立たん相手だ!撤退する様に見せかけて捕まえろ!私も行く!」
カルバンは、走り出す。
「しょ、将軍!?」
兵士は、カルバンの後を追う。
「この部屋が法王の部屋か?」
「うん」
マーズは、ドアを蹴り壊す。部屋の中は静まり帰っている。
「ん?誰だ!」
部屋の中央にたたずむ人影に気が付くマーズ。リトは覗きこむ。
「お兄様…?」
その姿は、まさしくヤーヴェであった。
「リトか…よく来たな」
リトが前に出ようとした瞬間をマーズが止める。
「何かおかしい」
マーズは、周りを確かめる様に見渡す。
「あれは間違いなくお兄様よ!」
「…リトちゃん落ち着くんだ。俺が聞いてる兄ちゃんなら、こんな所で油売ってるヤツじゃないんじゃねぇか?しかも、この部屋は異空間だ」
マーズは、構える。
「そんな…あれが幻…?」
リトは、たたずむヤーヴェを凝視する。
「リト。その男は誰だ?」
ヤーヴェは、マーズを見る。
「俺よりも、お前は誰だよ?」
マーズは、すかさず聞き返す。
「失礼した。私は、リトの兄のヤーヴェだ」
リトには、上から下まで兄のヤーヴェに見えていた。
「俺は、マーズだ」
「どういう経緯か知らないが、これは私達、兄弟の問題だ。帰ってくれ」
「お兄様!マーズは、私を助けながら、此処まで連れて来てくれた恩人です!」
「ここからは、その優しさが命取りになる。事態は、そんなに甘くない」
「お兄様!どうしたんですか!?まるで、別人です!」
リトは、必死に訴える。
「無駄みたいだぜ。こいつ目がマジだ」
マーズは、ヤーヴェを睨む。
「何があったのですか!?」
「…マーズとか言ったな。此処まで、妹を連れて来てくれた礼を言う」
「お前は何を企んでんだ…?」
マーズは、直球勝負に出る。
「時の女王には勝てない。希望は絶たれた」
ヤーヴェの言葉は、二人を釘付けにする。
「どういう事…?」
リトは、言葉の意味を求める。
「これが答えだ――」
ヤーヴェの体が、空中に浮く。
そして、鈍い音と共に破裂する。
「い…いやぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」
飛び散る返り血を浴びながら、リトは絶叫する。マーズは、動じない。
「悪趣味だな…マジでキレたぜ…?」
マーズは、床に手を付く。
「はっっっ!」
気を吐く声と同時に、電気が床から天井に向かって走る。
「壊れろっ!!!」
法王の部屋が、崩れ始める。すると、部屋の下から違う部屋が現れてきた。
「お兄様…」
リトは、ショックから抜け出せていない。
「リト!ヤーヴェは、死んじゃいねぇ!諦めるなっ!!」
マーズは、心なく立ち尽くすリトに激を飛ばす。
「でも…でも、目の前で…」
リトの瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
「まやかしだ。異空間だから出来る芸当だ」
マーズの言葉に表情が固まる。
「まやかし?嘘なの?」
「あったりめぇだ。人間のヤーヴェが異空間を作る理由がねぇ。悪趣味な『人』が、やりそうな手段だぜ」
マーズは、崩れ終わった空間を見渡す。先程の空間とは違う景色に変わっていた。
「舐めやがって…」
マーズは、辺りに殺気などが無い事に気を配る。
「マーズ!」
リトが呼ぶ。振り向くマーズ。
「どうやら、完全に出し抜かれたぜ、ハインズ!」
マーズとリトの先には、ハインズがいる。
「出し抜いたのではない。事情が変わったのだ」
「くだらねぇモン見せといて、事情もクソもあるかよ?」
マーズは、光の矢を放つ。ハインズは、素手で受け止める。
「退かぬか…それも良かろう。相手になるぞ!」
弓矢を素早く取り出すハインズ。そして、一気に矢を放つ。
「はぁっ!」
マーズは、右手を振り上げて風を巻き起こす。矢は風に飛ばされる。ハインズは、怯まずに突撃してきた。そして、剣を抜きマーズに襲いかかる。
「おせぇ!」
マーズは、右手から炎を発射する。
「ちっ!」
さすがに、ハインズは避ける事を余儀なくされる。
「やはり、想像以上に厄介なヤツだな」
ハインズは、弓をひく。
「だが、風の精霊の力を借りた一撃をかわせるか?」
矢の周りを空気が渦を巻き始める。
「避けるなんて、めんどくせぇ事はしねぇ。潰すだけだ」
マーズは、腕をクロスにする。
「面白い。地上と最後の別れを楽しめ!」
ハインズは、矢を放つ。空気の渦は、矢を回転させて威力を増す。まるで、竜巻を纏った矢のようだ。
「んなもん、ちっとも驚かねぇ!」
マーズは、クロスした腕を開く。クロスの形をした光が、竜巻の矢とぶつかり、激しく爆発する。リトは、吹き飛びそうになり、必死にドアの縁に捕まる。
「本当に風の力を潰すとは…」
ハインズは、目を丸くしながら驚嘆する。
「まだだ。てめぇの事情が何だか知らねぇが、俺の前で、女を泣かせた罪は重いぜ?」
二人は睨み合う。
「二人ともお願いだから止めて!」
リトは、心から叫ぶ。誰も無事で済まない事態が起こる事に、不安を抱く。
「リト様。残念ですが、これ以上は先に進む事は叶いません」
「ハインズ!何で!?あの時のあなたから感じた、地上を守りたい、という意思は嘘だったの!?」
「…」
「答えなさいよ!私には、あなたが泣いている様に見えるのは何故なの!?答えてよハインズ!」
「…リト様…逃げて下さい…」
「…え?ハインズ…?」
ハインズは、下を向いたまま動かない。
「…」
マーズは、無言で見つめる。
「ハインズ!どういう事なの!?」
「…」
ハインズは、何も喋らずにリトの方を見る。その顔は、悲しみに満ちていた。
「…リトちゃん。行こうぜ」
「マーズ?」
マーズは、リトの肩を抱えて向きを変える。
「ハインズ。おめぇが言いたい事はわかった。俺達に任せておけ」
「お前なら理解してくれると思っていた。力になれなくてすまん」
マーズは、親指を立てて返事を返す。二人は、法王の部屋をあとにした。
「頼んだぞ…マーズ…!」
『やはり…そうなりましたか…』
「時の女王…!」
『肉体も魂も還りなさい…』
「ぬぉぉぉぉぉっ――!」
ハインズの周りの空間が歪む。
「必ず…必ず!マーズとエイシスがお前を倒す!」
『私は時を支配する者…何人も私を止める事は許されません…』
「ぐっ…がはっ…!」
ハインズの体が薄れて行く。
「取り込み中に悪いな」
そこにいたのは、マーズであった。
「マ………ズ?」
『…』
「そいつは、今や立派に俺らの仲間なんだわ。貰って行くぜ?」
マーズは、容赦なくハインズの方へと近付く。
「お前…し…ぬぞ?」
体全体が、歪み始めるハインズ。
「よく考えてみたら、ムカムカしてきてよぉ。顔も知らねぇ、何万…いや、何十万歳かのババァに転がされてるってのが納得いかねぇってなぁ」
マーズは、ハインズの周りを、帯電している電気で隔離する。そして、ハインズの胸ぐらを掴み引っ張り出す。
「なっ!?」
『…!』
「驚いたか?さっき、帯電した電磁波で空間を破壊出来る事がわかったからな。これで異空間の問題は解決だ」
ハインズの体が、元に戻る。
「更に言うと『人』は、異空間でしか存在出来ねぇだろ?」
マーズは、得意気に話す。そして、大きな声で更に言う。
「やぃ!時の女王!リトの兄ちゃんを人質にして、こんなザコを操った位じゃ、俺からリトは奪えねぇし殺れねぇぞ!更に言うと、リトの兄ちゃんは、そんなに甘かねぇぜ?今から行ってやっから、若い女にでも化けて待ってな!」
「リト様は何処だ?」
ハインズは、リトの姿を探す。
「見えねぇだろ?だが、ちゃんといるぜ。安心しろ。ちなみに俺には見えるけどな」
『神に逆らう異端の者…その罪は死より重い…』
「笑わせんなよ?『神』だと?神の『元パシリ』が神とか言ってっと、俺の『女神リト』が怒るぜ?」
『くだらなすぎるわ…ここで消えなさい…!』
「嫌だね」
辺りが、眩いばかりの閃光に埋もれる。
『…!?』
法王の間に三人の姿はいなかった。