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3.とんでもハプン!!

 一面草原だった場所から一転――

 赤や青、緑や紫、橙や黄色、といった色とりどりのタイルが顔を見せ始めたかと思いきや、辺りは一面にオシャレ通りになった。

「こんにちは僕、お酒どう? 今日は格別に良いのが入ったんだ、安くしとくよ?」

 と妖美な眼差しで俺を見てくるお姉さんは黒のワンピースでエロカッコイイし、

「らっしゃーいい! 杖! 魔法の杖いらなーい!? 最近売れなくてもう半額セールなんだよー! 誰か買ってよー! じゃないと父ちゃんに怒られるー!!」

 と泣きながら接客しているワンパク坊やは尖がり帽子に赤い鼻、まるでピエロのような恰好だし、

「あれ! キャメルじゃーん! どう? いい器具が揃ってんだけど?」

「ごめんね、また今度! いつもありがとー!」

「あいよ! またご贔屓に!」

 とノコギリと鉄の棒を振り回すおっちゃんは上半身裸なのに、刃物をクルクル回したりしてなんだかとても危ないし……。

 まぁ一言で言ってみれば、少し見ただけでも、この場所が非日常だと分かり、誰が見てもここは異世界だと分かる――そんな光景が目の前のありとあらゆる所で広がっているのだ。

 瞬間、ドンッと誰かとぶつかる。

「すみません!」

「こちらこそ」

 会話を交わした相手は、半透明の二息歩行する狼だった。

「な、なにあれ!!」と驚愕する僕に、

「あ、狼人間さんだ」とキャメル。

「狼人間!? いるの!?」

「いるの?っていたじゃない、さっき~! トモって面白いこと言うね」

「じゃなくて! 半透明なの!?」

「最近月が出てないからね、魔力が落ちてるの」

「そういう問題かよ!」

「そうだよ〜だから曇りや雨が続いたらもう大変で! あ、そうそう!

 魔力増強剤も残り少なくなってたんだった! 在庫がヤバイよ~今日あたりはたくさん患者来そう!」

 そう言い、近くの店に入るキャメル。看板には「薬剤師限定入店の薬屋、調子の悪い人お断り」と俺でも読める様に書いてあった。にしても、そんな薬屋が成立するとはさすが異世界。日本じゃ考えられないことだ。

「お待たせー! さぁ帰ろう!」

「おー」

 見るとキャメルの腕の中に、これまた大きな紙袋。俺は籠を持ち替え、「ん」とその袋を抱えた。

「え、トモ重いでしょ? いいよ、悪いよ」

「いいって。俺バカだけど力だけはあるし。それに、いつも一人ならあんま買い物出来ねんじゃね? 俺が持つから好きなだけ買えよ」

「え、いいの?」

「いいぜ? せっかくだし、俺も色々な店見たいしな」

「あ、ありがと! トモって本当優しいね!」

 まるでスキップするように駆け出したキャメルは「すみませんー!」とあちらこちらの店に顔を出し始めた。

「お、もう手に持ってる。え、それも買うのか? え、それも!?」

 しまった、言ったはいいものの持てなかったらどうしよう。カッコ悪すぎる!!

「にしても、”優しいね”か」

 いつも男子に囲まれていたせいか、そんな言葉は聞いたことがない。

 ん? ちょっと待てよ。

「もし、キャメルが彼女だったら、友達にすげー自慢できるんじゃね? 例えば――」


 猫科ニンゲン、黒い猫耳を持ちピンク髪の異世界薬剤師二十二歳! ちなみに起業してまーす★


「……ナイナイナイナイナイナイ!!

 っつーかどんなスペックだよバラバラすぎるわ!!」

 せめて猫耳メイドカフェでバイトしてますって方がまだ話が通じるわ!!

「つーか友達に会うってこと自体無理だしなー。

 あいつら、元気でやってんのかな?」

 ふうと一息ついたところで、近くにあったベンチに座る。幸い、Tシャツにジーパンという動きやすい格好をしているわけなんだけど、日頃の不摂生が祟って足が疲れた。

「俺もいよいよおっさん、てか?」

 冗談めく笑ったところで、あるものに気づく。

「ん? これって」

 店のウィンドウに貼り紙がしてあり、大きな顔写真とこういった言葉が書かれていた。


『勇者あらわる! あの未開のダンジョンへ、いよいよ明日!!』


「勇者、ダンジョン、ねぇ」

 異世界へは来たものの、そういった、いわゆる王道のものとは全く縁がなかったなー。どうせこういうのって、イケメンに限られる―とか、チートとかそんな条件がついてんだろ。

 ため息交じりに顔写真を見る。

「んんん!!!?」

 そこで見たのは、イケメンはイケメンでも、そのイケメンはただのイケメンではなく、

「村田? にすっげー似てる……」

 こっちにはいるはずのない友達の顔に瓜二つなのだった。

「……まさかな」

 俺は死んだけどあいつは死んでないし!

 あいつも来たなんてことはないだろう。

 有り得ないし!

 まあ異世界ってのは面白いけど、こんな奇妙なことがそう何度も怒るわけじゃないし!

 例えば、フリフリなワンピースを着た女の子が大きな目玉を三つ手に取ってどれにしようかなーとか必死に悩んでいるとか、そんなことないない、


「トモー、この三つの中だとどれが新鮮に見えるー?」

「は!?」

「私的には左だなぁ、ほら、この艶がいいし白目がきれい! 余計な毛細血管が浮き出てないのがいいよね~部屋に飾りたいくらいだよ!」

「もう好きにして!」

 そのあとも、トリの丸焼きを見て「肩甲骨の部分はありますか?」とか綺麗な羽が並べてあったら「この中で一番長寿の羽を。え? 生きてる? じゃあ抜いてきてください」とか、強烈な言葉を連発してくれるもんだから、俺の中で勇者の写真のことはキレイさっぱり忘れられていた。


 そして俺の両手にも頭にも、足にも、何も乗らなくなったという時にキャメルの買い物は終わったらしく、

「おまたせ! じゃあ帰ろっか!

 帰ったら温かい人魚紅茶淹れるね」

「いえ普通のコーヒーでお願いします」

 そして俺たちはやっと岐路につく。

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