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亡霊×少年少女  作者: 雨霧パレット
スタートラインはここから
23/88

紺碧の空に映る業

分割&改稿中!!

ゆっくり読み進めてください!

「アルバイトは未経験?」

狭くてごちゃごちゃした事務所で、一覇はパイプ椅子に礼儀正しく座っていた。

やや形式ばった質問を 投げかける四十代後半のふくよかな女性店長に、一覇はハキハキと答えた。

「いえ、中学の頃に新聞配達のアルバイトをしてました」

「その髪は……?」

「天然です!」

入学式のあと、一覇は横浜駅前までアルバイトの面接に来ていた。

ファミリーレストランのキッチン募集を求人広告で見て、応募したのだ。

十八歳で卒園して自立しなくてはいけはい施設の子供ではなく、河本一家の「子」として引き取られた一覇。

だからタイムリミットなど無きに等しく、焦る必要はないのだが、自分の支出はなるべく自分で賄いたい。

中学の頃は単に、自分はいつか「日向」に戻るのだと思って働いていたが、今は違う。

確かにある事情から戻りたいと思うが、どうせ高校生の自分程度の稼ぎでは自立など到底無理だ。

黒髪をショートにした妙齢の女性店長が、一覇の用意した履歴書を見て深く頷いた。

「明日から来れるかしら?」

「はい!よろしくお願いします!」

採用。

明日からは、勉強と二足のわらじだ。頑張るぞーっ!なんて、ややらしくなく息巻いてみる。

帰り道、一覇はスキップ気味な足取りで賑々しい路地を歩いていた。

高校生で時給八百五十円からとは、高待遇なところだと改めて思っていた。

時給から、学校の時間割を照らし合わせて、月々の稼ぎを計算していた。

八百五十円かける五時間×週四日、プラス休日は九百円かける七時間かける二日で……月に八万円か。ふむ、なかなかいいじゃないか。

取らぬ狸の皮算用、と浮かび上がったが、一覇の脳は高速で計算している。

それから月々いくら貯金に回そうか、考えをふくらませていると。

どん。

人とぶつかった。今日はいつもこんな感じだな、と自省する。

「すいません……考えごとを……」

「すまない、僕も考えごとを……」

「「あ」」

四季だった。

しかし、時刻は夜の六時を過ぎている。今日は入学式だけで、授業というものはまだない。

学校から直接面接に行っていた一覇が制服姿なのはまだしも、四季はなぜ制服のままなのだろうか。学生鞄も手に提げている。

しかも、

「ちっ」

舌打ち。

あからさまに嫌がられている。

いったいオレがなにをしたというんだ、と一覇は自覚の薄い心の叫びを上げつつ、努めて明るい笑顔で話しかけた。

「奇遇だな、四季。オレはバイトの面接だったんだけど……四季はなにしてたんだ?」

「貴様に関係ないだろう」

ですよねー。

だが、なんとなく引き下がらなかった。ここで負けたら、一生負ける気がする。

くだらない意地だと、もうひとりの自分が笑っているが、今日の一覇の口はよく回る。

「お坊っちゃんがこんな夜に繁華街なんて危ないぞー?最近物騒なんだしさ」

しかし四季もここにきて冷静さを取り戻したのか、襟首を緩めて素っ気なく答えた。

「鍛え方が違うから関係ない」

不審者なんて見つけたらぶっ殺す、とでも言いたげな鋭い眼光。えらく物騒である。

――――なんだか……刺々しいなぁ。昔はもっとこう、ほんわかーして可愛かったはずなのだけれど、この幼なじみ様は。

なにか他にいじる材料はないかと意地悪く考えていた一覇に、四季が初めて質問をした。

「校則を読んでないのか?」

「はい?」

いきなり校則の話題になり、一覇はちんぷんかんぷんだ。

四季も自分の言葉が足りなかったのだと気づき、あとから付け足した。

「校則でアルバイトは禁止のはずだ、うちの学校は」

「…………バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」

一覇の額に、脂汗がじっとり浮かんだ。

――――知らなかった。校則でそんなのあるの!?

高校は問答無用でアルバイトしていいものだと、勝手に思いこんでいた。

だってバイトはだいたい高校生からじゃん?

好きにやっていいってことだろ?じゃんじゃん稼げってことだろ?

なのになんで禁止にすんの!?明日から入るって決まっちゃったし!!どーすんの!?

渦巻く内心で慌てていたら、四季がくしゃっと、困ったように笑った。

「相変わらずだな、一覇は……いまひとつ抜けてるというか」

昔みたいに、微笑んだ。

声もなんだか穏やかで、昼間とは全然違う。温かくて、優しい。

予想外な自分の顔の緩みに気づいたのか、四季は我に返って眉根をきつく寄せた。

「話は終わりか?ならぼ……俺はもう帰」

「ストップ、ストップ!終わりじゃないよ!いろいろ積もる話があるって!マック行かない?シェイクおごるよ!」

必死になって、四季の制服のブレザーを掴み、懇願した。

もしかして……とよぎったのだ。

素っ気なくて冷たい空気は、なにか理由があって無理しているのだろうか。

本当は、一覇が知っている優しい四季が、まだいるんじゃないか。そんな気がした。

彼がここまで仮面をかぶる理由を知りたい。

三年半の溝を、少しでもいいから埋めたい。

昔と同じように、仲のいい幼なじみになれたら……。

「…………」

一覇の碧い瞳に、自分が映っているのがわかった。

怖いくらいに澄んだ、その瞳。逃れるのは、もはや無理。

彼の真剣な眼差しを、四季は真っ直ぐに受け止めることにした。


一覇が調子こくのは、実は四季にだけです。

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