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亡霊×少年少女  作者: 雨霧パレット
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22/88

大切だってことは、いまも変わらないよ

分割&改稿中!!

リハーサルを無事に終えて、本番もつつがなく終わった後、指定されているそれぞれの教室に向かった。

入学式終了後のアナウンスによると、教科書の配布やら授業についての説明やらがあるらしい。

一覇は入学のしおりにある通りの教室を、同じ制服の生徒の波に乗って進んだ。

ちなみに高等部の校舎は二つある。

第一校舎と第二校舎。

第一校舎は普通科、国文科、運動科、農業科、霊子科学科。

第二校舎は芸能科、音楽科、美術科、特進科、工業科となっている。

第一校舎が学園で一番古く、増改築がされていて広い。

ゆえに複雑な造りをしており、新入生は必ず迷うとか。

確かに迷いそうだ。地図を見ても、自分が今どこにいるのかわからなくなってきた。

この久木学園は初等部、中等部、高等部、大学部、大学院と一貫教育になっているが、例えば高等部からの中途入学も受け入れている。

しかし、相応の実力テストでふるいにかけられるため、中途入学は困難とされている。もとより久木の偏差値は県下でも最凶の部類であるがゆえに、その実力テストも暴力的な難易度だ。

そうした理由から、中途入学した生徒は「外部生」と呼ばれ、大げさだが尊敬されている。

奇しくもその外部生を代表する羽目になった一覇は、移動中も注目の的にされていた。

「ねぇ、あの人じゃん?」「うそ超かっこいい……」「クソ、いきなり目立ちやがってあの野郎……っ!」「勉強できてイケメンとか死ねよ」

――――いやはや、なんともやりづらい。

金髪碧眼はここでも、立派なトレードマークになりそうだ。

初等部からの生徒は事前に下見しているため、人波の校舎内をすいすい進んでいる。

一覇はそうした生徒を見極めて、同じ制服の者に付いていくことにした。

なんとか一覇は自分の所属するクラス、一年F組にたどり着いて、一段高い教卓から机を見渡す。

机の並び順は、標準化している名前順になっている。

思わずいつもの癖で「日向」と探しそうになり、改めて「河本」を探した。

なにせ中学時代は自由席だったので、誰よりも目立たないように隅っこの席を占拠していた。

同級生に「窓際のキンキン」とかいう不愉快なあだ名を付けられていると知った日から、無難な真ん中寄りの席に移動したのは、別にあだ名が嫌だっただけだ。他人からの評価なんて、知ったこっちゃない。むしろ邪魔なだけだ。

「席順表が教卓にある。とっとと行け、邪魔だ」

とぶっきらぼうだが親切に教えてくれる声に、礼を述べようと振り向いた。

「あ」

四季だった。

そういやコイツも霊障士専攻なんだから、そらここに来るわな。と今朝の苦々しいものとともに思い返す。

四季はふんぞり返って、一覇を見上げている。小さいのにとても偉そうだ。

その後ろに、四季と同じくらいの身長の女子生徒が終始無言で控えていた。

もしかしたら彼女なりに気配を抑えているのかもしれないが、その美貌がことごとく男子のセンサーに引っかかる。

艶めく黒髪を肩口でバッサリ切りそろえた、まつげの長い整った容姿。その肢体は細いが、程よい肉づきで妙ななまめかしさすら感じる。

とにかく美しいに尽きる、精緻につくられた人形のような少女だった。

周囲の男子陣から無言の圧力で、「彼女のことをなんでもいいから聞け」と訴えられているので、一覇は尋ねた。

「……その()、彼女?」

ぎんっ、と音が出そうなほど、四季の視線が強くなった。

男子陣からは、「いきなしその質問いくなよ俺たちにも地雷のやつやん」という一覇を殴りつけて責めたい空気がかもし出される。

前からも後ろからも横からも。(くだん)の少女からも。

四面楚歌を表現するに値する身の危険を感じて首を竦め、ささっと教卓から一歩離れた。

軽い冗談だったのに。アメリカンジョークとかそういう、小洒落たやつなのに。

四季はため息をこぼすだけで、依然として厳しい顔をしたまま踵をかえす。

「……一番後ろだ。行くぞ、()()

璃衣、と呼ばれたその少女が、従順に四季を追った。線の通った美しい声で、礼儀正しく四季に応える。

「はい、若」

若ぁ?

一覇が呆気にとられる。たぶん、イケメンが台無しのアホな顔をしていたと自覚する。

ひとまず落ち着いて、一覇は言葉の意味を推論あるいは邪推する。

ということは、だ。もしかして。

「彼女、従者かなにか?」

いやはや現代リアルでも金持ちはここまでするのか、と深く感心したというか、なんというか。

一覇の詰問とクラスメイトの視線を一身に受けてなお、四季はつかつかと自分の席に移動しようとする。

「話しかけるな庶民」

しかしツンケンしたその彼の腕を押さえ、一覇は詰問尋問を無理矢理に再開させる。

「幼なじみのよしみじゃん。昔はあんなにオレにくっついてたのに」

「なっ……」

ここでようやく、四季のしかめつらを通り越したおっかない顔が崩れて、紅潮した。

明らかに取り乱している。

ほっほう。いじる点、発見か。

一覇は内外で意地悪くほくそ笑み、調子に乗ってべらべら饒舌になる。

「『僕、一覇みたいになりたい!』なんて言ったり、稽古サボって探検に付いてきたり、逸覇に『一覇は僕のヒーローなんだっ』とかキーラキラした曇りのない目で語ったり、それから」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

ぐわしっ、と四季は必死で一覇の口を手で押さえる。相当に動揺しているのだろう、その右手に込められた力はめちゃくちゃ強い。

一覇は痛みと物理的になにも言えなくなった代わりに、にやりと底意地悪そうに笑ってみせた。

「なんだその笑いは!」

当然、四季は睨みをきかせてすごんだ。

だが四季の弱点……というか自分の黒歴史を知られたくないという思いが一覇に露見してしまった以上、逃れることはできまい。

にやり。ニヤニヤ。

口を押さえられてもなお、一覇の余裕は崩れない。それで余計に、四季の焦りが生まれる。

「だからっ!!なんなんだ!」

一覇は指で苛立って一覇の顎を押さえつけている四季の手をちょんちょん、と指す。

退けてくれれば話す、の意。四季はしぶしぶ手を離した。

「それでさぁ、四季ったら」

「やめろ馬鹿者!!!!」

口を開けばペラペラスラスラ。四季が恥ずかしいと思う『昔の自分』が、一覇によってバラされる。

肩を上下させる四季に、「もっといいネタあるんだぜぇ?」なんて下卑た笑みを向ける。

相当いじられるのが嫌みたいだ。

キャラチェンジして高校デビューしたかったのかね?思春期だなぁ。などど首をひねるも、ようやく本題を思い出した。

楽しい四季いじりはこの辺にしておいて、一覇は訊きたかったことをきく。

「三年半でずいぶん変わったな、四季。なにかあったのか?」

自分も大概だと思っていたが、四季の変わりようは異常だと思う。

大好きな歌舞伎を辞めてまで、この世界に飛び込むほどのなにかがあった。

そうとしか思えない。少なくとも一覇が知っている四季への印象は、そういうものだ。

しかし、四季は乱れた制服を手早く整えて、席順表を見に教卓へ戻っていった。

「貴様には関係ない」

「……さっき席順表見てたよね?」

指摘すると四季はまた頬と耳を紅潮させて、早くこの場を脱しようともがいている。

「一番後ろだったな!行くぞ、璃……」

「?」

四季は再び席順表に目を通して、なにかに気づいたのか、不安げに首を傾げる。

そしてとうとうというか、嫌々なのか、とりあえず一覇に目を向けた。

「貴様の名がないぞ」

「あるよ。ほれ、ここ」

一覇は窓際から二列目の一番後ろを指した。そこにはたしかに、一覇の席であると示されている。

「“河本”……?」

眉をひそめた四季に、一覇はなんの気負いもなくいつもの調子で答えた。

「あ、オレ、養子になったの。知らなくても当然か、三年半会ってないんだし」

そう。一覇は三年半前、河本家の養子になり、「日向」から戸籍上「河本」になっていた。

一覇自身も未だに慣れないし思うところはあるが、事実は事実だ。

四季にありのままを手短に伝えた。

三年半前、一覇の身に起こったすべて。それからいままでの生活。

「……それって……」

四季は少し顔面蒼白になり、一覇におそるおそるなにかを尋ねようとした。

だが

「はーい、それではご挨拶をはじめましょー!担任の間宮百々子です、よろしくね……って君たちはここでなにしてるの?」

担任の百々子がやってきたことで、教室内の空気がガラリと変わった。

クラスメイトたちは慌てて自席につき、真面目にも筆記用具を用意している者すら見受けられた。

四季の口は迷った挙句に塞がり、さっさと自席に座ってしまった。

璃衣、と呼ばれて件の美少女も後を追って自席につく。四季から近い席だ。

一覇もその姿を追ってから、何事もなかったかのように自席についた。

それからずっと、百々子の初登板すらまともに拝見せず、ぐるぐるモヤモヤと考えて込んでいた。

四季の三年間は、どんなものだったのだろうか。

四季はさっき、いったいなにを言おうとしたのだろうか。

気になるに決まってるだろう。いまも昔も、四季は大事な幼なじみなんだから。


男の子同士の距離感が難しいですね。

まだまだ続きますぞ!

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