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亡霊×少年少女  作者: 雨霧パレット
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21/88

もも姉

分割&改稿中!!

作業が追いつかないので、ゆっくり読み進めてください!

「……おはようございまーす」

教職員と手伝いの在校生が、忙しなく動き回る第一体育館。一覇は入口に顔を突っ込んで、やや遠慮がちに挨拶した。

あの後準備をしている教職員に道を尋ねて、一覇はなんとか会場である第一総合体育館にたどり着いたのだ。椋汰は校舎を探検してくると言って、途中で別れた。

ちなみに案内図によると、総合体育館は全部で五つあるらしい。高等部だけでも十の学科があるのだから当然のことかもしれないが、一覇は呆れかえってしまった。どれだけ広いのだろうか、この学校。さすがブルジョワ。

「おはよう、いっちゃん」

一覇の声に最初に反応したのは、タイトなパンツタイプの黒いスーツを着た小柄で童顔な女性教師。

化粧が薄めで、甘い茶色のボブカットがよく似合う。のほほんとした雰囲気が、彼女のおおらかな性格をそのまま表現しているようだ。

これでも第三種霊障士免許を持っているのだから、プロの霊障士に違いはない。

「もも姉」

と一覇は女性教師へ気さくに返事した。

彼女は()(みや)(もも)()、二十八歳。

ひなぎく園の卒園生で、卒園してもしょっちゅう遊びに来るので一覇たちにとっては姉のような存在だ。

面倒見もよくて優しく、みんなに慕われるのも一覇にはよくわかる。

百々子が実習生から教員になって母校である久木に就いたことは、一覇も本人からきいていた。

百々子は戯れに一覇とハイタッチを交わした。

「いっちゃん入学おめでとう!担任としても嬉しいよ」

「担任ってことはもしかして……」

言いかけて、三月の頭から言いたくてウズウズしていたことはこれか、と一覇はここで得心。

「霊子科学科霊障士専攻クラス一年生の担任でーす」

百々子はここぞとばかりに小さな胸を張り、鼻を鳴らして誇らしげに笑った。一覇は温かな拍手を送り、心の底から微笑んだ。

昇進とはめでたいことだ。とくに信頼している身内だし、下手したら自分ごとよりも嬉しいかもしれない。

ありがとう、と一覇と熱い握手を交わして、百々子は興奮からいつも以上の饒舌になる。

「それにね、第二種試験も今度受けるんだよ」

「え、まじで?」

第三種霊障士資格でも十分にプロとして認められる現状だが、一段階上の第二種資格となると、一目置かれる存在だ。

なにせ大きな任務の際には、小隊長を任されるくらいである。いまなお歴史をつくる日本軍において第三種は兵長クラス、第二種では少尉官相当に値する。

受けられる任務のランクも違うし、危険度の高さもだが当然、霊障庁から支給される給料も段違いである。

その高いリスクから、業界内では師匠の許可なく試験を受けてはいけない、という暗黙のルールが存在するほどだ。

百々子は笑顔で付け加えた。

「NARUTOでいう中忍試験だねっ!」

「…………」

なぜだろうか、一覇は急にお祝いする元気をなくした。

そういえば百々子は軽くオタクだったと、いまさらながら百々子の自宅に置かれた本棚を思い出す。わずかに空気が澱んだ。

――――でも……。

百々子の師匠は、一覇の義父である(こう)(もと)()(ひろ)だ。八尋は一覇を養子に迎えた頃に引退して、海外を飛び回って謎の仕事をしている。

ときどき園に絵はがきが送られてくる以外は音信不通だが、一番弟子の百々子とはまめに連絡をとっているらしい。

八尋は誰にでも厳しい。

その八尋がついに受験を認めたということは、百々子の実力は折り紙つきといったところだろう。

「ほんと、おめでとう」

百々子の努力が認められたと知って、思わず笑顔がにじむ一覇。百々子もことの大きさをようやく自覚して、我慢していたものがついにこぼれた。目尻には、うっすらと涙が見える。

一覇は労いの意味をたっぷり込めて、『姉』の小さな頭を優しく撫でた。

まだ出会ったばかりの頃。小学生の自分より大きかったはずなのに、いつの間にか並んでしまった日のことを、一覇は覚えている。

百々子もまた、目の前の少年が自分より小さかったときを思い出していた。

――――そうだよな。もも姉はずっと、いつでも、前を向いて走ってきた。

訓練がつらくて、自分の実力が思ったように上がらなくて、誰にも見られないようにこっそり泣いていたこと。一覇は知っていた。

それでもここまでたどり着いた理由は、間違いなく百々子の(たゆ)まぬ意志と努力からだ。

急に恥ずかしさがこみあげたのか、百々子はハンカチで目元を拭って、紅潮する頬を押さえて話題を変えた。

「それはそうと!いっちゃんもすごいじゃん、外部生で首席入学なんて。伝説のOG、(もり)()()(なえ)さん以来だって騒がれてるよっ!」

「あー……それな……」

どうも百々子は、その伝説のOGに大きく憧れている節がある。

これまでも幾度となく瞳をキラキラさせて語る様子を見てきて、一覇としてはいまさら言いづらい。

だがここで言い逃れするのも、もうやめてもいいかもしれない。一覇は意を決して、百々子に真実を語る。

「森野小苗はオレの母さんだよ」

「え、そうだったの!?」

予想通り、百々子は驚嘆の声をあげた。

森野小苗は、正真正銘に一覇の実母である。

小苗は千葉の名家である実家を飛び出して霊障士を目指し、久木学園に首席入学した。

そして霊子工学専攻の同級生だった父・(ひゅう)()(けい)(いち)と出会い、結婚したのだと聞かされている。

小苗は卒業後、霊障士として活躍し、二十一歳という異例の若さで第二種霊障士資格試験に合格した。当時でも相当に騒がれたらしく、母の名はまたたく間に広まった。

しかし二十三歳のときに一覇と双子の弟の(いつ)()を生み、アッサリと引退したらしい。

「DNAだねぇ。すごいなぁ、羨ましいなぁ」

百々子は憧れの視線を送り、ほう、とため息を吐いた。

「そ、それはそうと。入学式のリハ、まだやらないの?」

百々子を現実に引き戻すように声をかけて、一覇は鞄から書いてきた典型的な挨拶の用紙を取り出す。

百々子はハッと現実に戻り、その用紙を受け取って内容をざっと確認した。

「内容はおっけーだよ。リハはね、もうすぐやると思うんだけど……あ、(しし)()主任」

百々子は大柄な男を呼びつけた。宍戸主任、と呼ばれたその壮年の男は、百々子と一覇の姿を確認するやいなや、ドスドスと小走りで近づいてきた。

獅子のような顎髭を撫でつけながら、気恥ずかしいようにニカっと笑った。

「間宮、その”主任”っての慣れないからやめようや」

「もうっ!宍戸先生、四月付けで主任でしょ」

「おりゃ、そういうのは苦手でね……あとは間宮に任せたつもりなんだが……」

宍戸はまたしても気恥ずかしそうに顎をぼりぼり掻きながら、百々子の小さな頭をごつごつした手でぽんと撫でる。その様子は教育課程を終了してなお、教師と教え子にしか見えない。

宍戸は続いて、一覇に目を向ける。

「河本一覇、だったな。間宮からきいてるぞ、今年度の首席だってな。おまけに外部生で霊障士専攻だとか」

「は、はい。お世話になります……」

なんだか萎縮してしまう。

だが宍戸は人なつこい笑顔を向けて、今度は一覇の頭を撫で始めた。

「そう緊張すんな、こんなの序の口だぞ。()()と戦うには、これ以上の緊張が待ってんだからな……っと、逆に緊張させちまったか」

宍戸の温かな言葉に、一覇の緊張は解かれた。

宍戸は豪快にニカっと笑って、一覇の頭をぽんぽん叩いた。身長が縮みそうなほど、その力は強い。

「挨拶が遅れたな。おれは一応霊子科学科主任の(しし)()(まさ)(はる)だ。三年間よろしくな」

宍戸が差し出したゴツゴツとした逞しい右手を、握り返す。

「霊子科学科霊障士専攻一年になりました、河本一覇です。三年間よろしくお願いします」

「それじゃー堅苦しくなるが河本、リハーサルやるぞ」


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