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亡霊×少年少女  作者: 雨霧パレット
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20/88

幼なじみとの再会

分割&改稿中。

ゆっくり読み進めてください。

校門をくぐってこの時期らしさ溢れる桜並木をしばらく歩くと、教職員が揃ってクラス表の貼り出し作業を(おこな)っていた。ちょうど、入学式の会場になる総合体育館の場所がわからなかったところだ。

一覇は総合体育館の場所を尋ねようと、その教職員たちの元へ駆け寄ろうとした。そのとき。

どんっ。

前方不注意で、人にぶつかった。

いつもは必要以上に気にしているのだが、今日はいくつかの要因がある興奮のせいか。いくらか気が散っているらしい。

一覇は素直に軽く会釈した。

「あ、すいません。オレの不注、意……で……」

ここで初めて相手の顔を見たのだが、驚きで言葉が消えてしまった。相手も誰とぶつかったのかまだ気づいていないらしく、堂に入った実に綺麗な礼を返してきた。

「いや、すまない。僕……じゃない俺が悪かっ……」

「「…………」」

この瞬間で、お互いに、相手が誰かわかってしまった。

相手は少年だ。

背は一覇より低く、青みがかった長い黒髪を左横に赤い髪紐で大人しめに結んでいる。金の瞳はややつり上がり、太く短い特徴的な眉も同じように強気に引き結ばれている。

藤のお香を焚いているのか、その身体からふわりと華やかに漂う。

一覇と同じ制服を着ていなければ、誰もが少女と見まごうほどに美しい顔立ちをしている。そこはかとない和の雰囲気を醸し出しているからか、桜がよく似合うほどに儚く可憐だ。

一覇はこの少年を知っている。記憶のなかよりわずかに尖った印象だが、間違いない。

懐かしい彼の名を、久しぶりに口にした。

「四季……」

彼は()(くら)四季、同じく十五歳。端的に説明するとしたら、一覇の幼なじみだ。そして彼は

「すげー、歌舞伎役者の矢倉四季じゃん!さっすが久木!!えと……えと、サインください!」

一覇を呼んであとから戻ってきた椋汰が割り込んで、思いっきりミーハー心で鞄からいそいそとノートの切れ端とペンを取り出す。

そのペンとくしゃくしゃの紙片を差し出された四季はというと、一覇の顔を見て頬を赤くしたり青くしたりとめちゃくちゃ忙しくしている。

そう、彼は有名な女形歌舞伎俳優だ。テレビで観ない日はないほど人気で、高校は久木学園の芸能科に進学が決まっていたはずだ。

一覇も受験が終わって暇なときにそのテレビニュースを観て、よく覚えていた。なのに。

なぜか、いま目の前にいる四季は、一覇と同じ制服を着ている。

一覇は霊子科学科霊障士専攻。国内でももっとも狭き門として有名な学科だ。

中途転科や自主退学がほかの学科より多いものの、卒業生のおよそ百パーセントが一線級の霊障士として活躍する、エリートの中のエリート。

入試は面接の一次入試と筆記の二次入試のほかに、三次入試として適性検査がある。いわば簡単な実技試験だ。

霊子科学科と一口にいっても、一覇のように霊障士を目指す生徒と、霊子科学を利用した霊子医療や霊子工学など、方向性は様々だ。だが共通項といえば『霊子との親和性がある』=『霊能力がある』者が必須条件であるがゆえ、特別に三次入試の時間を設けているのだ。

本当のところは三次ではなく、一次に回すべき項目であることは、ちょっと考えれば誰でもわかることだ。だがいまだ国による法整備が完璧でないがゆえ、こうしたややこしい順番となっている。

とはいえ来年度からそれも見直し、制度が一新されるらしいので、一覇たちのときのような混乱はもうなくなるだろう。もしかしたら、今よりもずっと候補生が増えるのではないかとも、一部では期待されている。

そんないまだ混乱している国内でも、四季の家————矢倉家は有名な歌舞伎一座である。しかし一方で、絶対血統家で唯一、鬼の血を引いた家系としても有名だ。

絶対血統家とはつまるところ霊障士の、あるいは陰陽師の本家である。

土御門家————日本でもっとも高名の陰陽師である()(べの)(せい)(めい)を祀る(こう)(づき)家を中心にした結城家、矢倉家。霊障士三大ギルドといったところか。

国内でも霊障庁の高官らが一目置いているらしいし、コネクションもバッチリ。エリートの中のエリートとは、彼らのことだろう。

だから四季に霊能力があると言われても不思議ではないし、能力があるのは彼の瞳の色でわかる。

瞳の金が鮮やかであればあるほど、鬼の血が濃いらしい。と、その昔に四季本人から訊いていた。

ゆえに四季は周囲から霊障士としての活躍を期待されていた。だが本人は歌舞伎の方が性に合っているといって、霊障士としての訓練をまったく受けずに育っていたと一覇はきいている。なのに。

何故、そんな彼が、霊子科学科の、しかも霊障士専攻の制服を着てここにいるのか。

「ひ、久しぶりだな、四季」

とりあえず思いっきりテンプレートな挨拶をする。

彼と会うのは実に三年半ぶり。しかも理由が理由とはいえ、彼にはなにも告げずに別れたのだ。

手紙や電話で連絡することも考えたが、考え始めた時期が時期だったので、ここまでずるずるしてしまった。なんとなく気まずいのは当然といえよう。

案の定、四季からの反応はない。というか、心なしか四季の肩が震えているように見える。怒り?怒りかこれは。

「元気にしてたか?びっくりしたなぁ、四季と会うなんて!……なぁ?」

「…………」

無言。でもめげない。きっと四季も感動と戸惑いとか、そういう複雑な気持ちでいるんだよ、たぶん、メイビー。とか自分に言い聞かせてみる。

引きつった笑顔で、なおも一覇は会話を望んだ。

せっかくの幼なじみとの再会だ。とりまく環境と過去にかかわらず、もう少しだけでもなごやかにしたい。

「ま、まぁ会う可能性はあるよな!四季は芸能科に行くって、めちゃくちゃニュースになってたし!でも……なんで霊子科に転科?してるの?」

と、ここでようやくまともな反応が得られた。だが一覇が想像、そして希望していた方向性とは真逆だ。

四季はふんぞり返って腕を組み、いかにも嫌味っぽく冷笑した。

「……はっ、わざわざ貴様に教える義理はないな」

「………………」

え?ナニソレ?

「貴様」?何様?何様なの?というか最初から感じていたけれど、なんだか昔と印象が違うような気が……。

などと一覇が戸惑いを隠しきれずにいると、四季はツンツンとした物言いで問う。

「用事は終わりか?」

「いや……最初から用事は特にありませんが……」

「なら行かせてもらう。時間を無駄にした」

ツンツン、と擬音が似合いそうなほどに(きびす)をかえして去っていく四季の背を、一覇は唖然と見送るかたちになった。そして心で思う存分に、叫んだ。

――――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?

あれ、あんな奴だっけ?三年で人ってあそこまで変わるもんなんだな。というかというか……

ム・カ・つ・く。

拳がみしりと、音を立てる。呪詛のような怨み節が、ここぞとばかりに炸裂する。

「なぁ一覇。一覇って矢倉四季の知り合いなの?」

椋汰は残念そうにノートの切れ端とペンを鞄に仕舞い、一覇に問いかける。しかし一覇には、椋汰を相手にするような精神的余裕はなかった。

鮮やかな桜色が舞い散る景色のなかで、一覇の背負う空気だけがおどろおどろしい暗黒と化してちぐはぐに浮き上がっている。


まだまだ続きますぞ!

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