流れ星が伝えたいこと
分割しております(*´∀`)
柔らかな冷たい風が、頬を優しく撫でる。
————体が……温かい。
まるで、誰かに抱かれているような感じだ。
五感が徐々に戻ってくる感覚。ざわざわと喧騒が耳に触れた。
一覇はそっと目を開ける。すると滲んだ満点の星空が浮かんでいるのがわかる。
「ここは……」
左手で前髪を払おうとする。しかし、その左腕に明らかな異変を感じた。
持ち上げてみると、上着を脱がされてシャツの袖を捲られたそこには薄紫色をしたチューブが刺さっていた。
これは確か、霊子専用の輸液チューブだ。霊子が不足したときに使われるもので……
「……菜奈っ!?」
と、先ほどの戦闘を思い出し、彼女の名を呼びながら起き上がった。
だが体が妙に揺れるので、慌ててバランスをとろうとする。救急車に設置されているストレッチャーに乗せられているのだと気づいた。
「ぐっもーにん一覇!調子はいかがかね?」
菜奈の声だ。
いつもの軽口に安心して振り向くと、気を失う前に見た、左腕をもがれた痛々しい姿は変わらなかった。猫っぽい可愛い顔も。
菜奈も一覇と同じように、ストレッチャーに乗せられていた。
変わったものといえば、服を捲られて右腕に繋がれた薄紫色のチューブ。
その先を辿ると、計器類がいくつもついた複雑な機械に繋がっていて、もう一本チューブが繋がれていた。それを辿ると自分の腕に————
「くそっ……!」
一覇はそこでようやく思考が追いついた。
おそらく、菜奈が言い出したことだろう。
だからこそ悔しい。彼女にそこまでさせるなんて、自分が情けない。
チューブを引き抜こうとする一覇の右手に、ふわりと菜奈の右手が重なる。
彼女の手は数時間前と違い、ひどく冷たかった。
「菜奈……?」
菜奈はなにも答えず、ただ夜の空を見上げた。北の空にひとすじの流れ星が見えた。
流れ星は思っていたよりずっと遅く、涙のように輝いている。
幾光年、幾千年ものあらゆる時空を超えたその光は、菜奈になにかを訴えているように感じられる。
かたわらにいる少年を見やる。溢れそうになる涙を必死にこらえるけれど、やっぱり止まらなかった。
「……ごめんね」
一覇の頬をするりと撫でる。
最後に流れ星に願うこと、それだけ許してください。
————「君と生きてみたい」なんて、叶わない願いだから……。
「……“一覇”」
女神みたいな美しく儚い微笑みと一緒に、一覇の唇に柔らかいものが触れられた。
————せめて君だけは、生きて。
「 」
「……!!」
菜奈はオレンジの美しい燐光をはかなく残して、このせかいから消えた。
横浜に新年を告げる船の汽笛とともに、空から雪が静かに降り注ぐ。
オレンジの淡い光が、雪と一緒に一覇の上に降りそそいだ。
しんしんと、ただしんしんと。
それらは一覇に優しいメッセージを送っているように、ゆらゆら揺れて消えていった。
まだ続くよヾ( •́д•̀ ;)ノぁゎゎ




