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gomibako

要するに

作者: 北田啓悟

 初めに平成二十四年時点における引きこもりの人口を述べておくと一億三千人中なんと六十三万人もいるといわれていてこれは約二百人に一人の計算となるわけだからその割合をもってすれば不肖私がそのうちの一人になるのも不承不承ながらも納得できないことも無いのではと結論づけられる。


 むろん好きで家に篭っているのかと問われれば決してそうではないと口では答えるだろうもののより正確な回答をさせてもらえるなら漫画やゲームなどに費やす時間こそは疑いようもなく至福であるけれどその後に襲ってくる虚無感までもを思慮の対象内に加えればやはり働かずに年中のんべんだらりと過ごすのは些か人間としての恥を覚えなくもないわけなのだがだからといってやおらハローワークにでも行けと助言されたとしてもコミュニティー能力の欠如した今の状態ではそれを打破することも非常に厳しいと目算されるわけでこんな私が外出したとなればオヤ貞子が現れたゾと街の噂になるかもしれなくて詰まるところ仕方なさ八割楽しさ二割という分配で今の生活に甘んじているのだと私は答えるだろう。母は「ふざけんな」と怒鳴るだろう。


 前述の通り私の興味の対象は目下漫画とゲームの二つに絞られていてとくにゲームをするのが昨今の強烈な生き甲斐であり人生のどこで差が付いたのかはわからないけれど仕事持ち彼女持ちさらには高いコミュニティー能力の持ち主である兄上と二人で協力プレイなり対戦プレイなりに及ぶ土曜日の深夜は一週間におけるご褒美といっても過言ではない特別な日だ。


 そんなわけで前々からプレイしたいと全身をうずうずさせて楽しみにしていた期待のゲームソフトを何本か腕に抱えて兄の部屋を訪れたところ私のふわふわした意識は不意に墜落して見るも無残に大破してしまったのだがこれがどういうことなのかと説明するといつも私だけを迎え入れてくれる優しい優しい兄上が今日は見知らぬ女性を連れ込んでいて何やら和気藹々な趣でティーをブレイクしていたのである。


 え?


 野生界に生きる動物にも引けを取らない本能的な逃避を発揮して開かれたドアを放置したままマイルームにダッシュしつつも先ほど目にした現実を素早く認識した私の頭が弾き出した結論は恐らく兄上は噂に聞いていた彼女といちゃいちゃしていたのだろうという忌まわしき現実でありそれも土曜深夜という私の一番のワクワクタイムに狙ってやってのけられたのだというもしかして私に見せつけるためにこのタイミングでいちゃいちゃしてらしたのと被害妄想に及ぶほどのショックを抱えた末に私はベッドの中に逃げ込んでお気に入りの抱き枕をギュゥとハグしながら震える身体を落ち着かせることに努めた。


 え~ん。え~ん。


 およそ十七歳という純情を忘れつつある年齢であるにもかかわらずか弱き乙女のように泣きじゃくって頭の中にいる兄上をなんどもなんども責めはしたものの最終的に行き着いたところはついに自分に愛想を尽かしたのだという自責の念に至り深い絶望のなか兄上を振り向かせるためにはどうしたらいいのだろうと考えたところやっぱり働くしかないのかなぁと恐ろしき選択肢が頭によぎったけれど首をブンブンと振ることでその選択肢をどこかへ消し去り今の私を保ったままで兄上を振り向かせたいという折衷案を十五分ほど模索したところで何だか眠くなり結論が出ずじまいのまま不貞寝しようと思った矢先部屋にコンコンというノックの音が響き渡り誰じゃと思って布団から顔を出したら豈図らんや先ほど目撃した彼女さんが私の部屋に侵入してきたではないかこれには妹ちゃんもビックリだぁ。


 家族以外の人間と久方ぶりに相対したことで強烈な恐怖を覚えその恐怖といえば十七歳だというのにお漏らしするんじゃないかと危惧するレベルの恐怖だったから何用じゃ早う言わぬかと混乱していたのかおじゃる丸のような口調で質問してみたところ彼女さんは兄上から私のことを聞いていたらしく小動物をあやすかのような母性的口調を武器にしこちらにジリジリと近寄ってきたものだから平和的解決言い換えれば和解を目的としているのだなと直感的に理解し私としても無用な争いは避けたいのでその交渉に乗ってやろうかと思いはしたもののやはり長年家族以外の人間と話していなかったことによるブランクが来てしまったのか身体の震えが収まらず何も悪いことをされていないのに急に泣きたい衝動に襲われそれが彼女さんをもビックリさせるという悪循環が繰り広げられたところで颯爽と現れた我らが兄上がコミュニティー能力の高さを活かし女二人を落ち着かせるというイケメンな活躍の末私と彼女さんはなんやかんやあってゲームをすることになった。


 ゲーマー魂に火が付いた私は不得意そうな彼女さん相手にも一切の容赦をすることなく連戦連勝を記録してわぁ妹ちゃん強いねぇという事実上白旗をパタつかされたところで何だこの人あんまり怖くないじゃないかと意識するようになりゲームを終えてからのトークもなんだか面白くなって人が苦手という引きこもり特有の悩みも思いの外理解してくれて話をするとどうしても長くなりがちなのは自分の気持ちを遠まわしにしてしまうからだと指摘されてそれではどうすればいいかと考えたところ素直になればいいのではないかという結論に至った。


 要するに、人と触れ合うのは楽しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ホントに長い話だった…
[良い点] 最高です。北田兄吾っぽい。技術もあるし情感もある。憧れます。 [一言] 次の作品も期待しています。
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