2-3
メリークリスマス、です
我が家ではパーティーをする予定です
何とか落ち着いたラムダを連れて一階に降りたディガンマが始めに見たのは、一心不乱に日記を読み進めるファイだった。
どうやらスティグマは自分の役目をこなしたらしい。
そのスティグマといえば、隣で忙しく目を動かしている。
どうやらメニュー画面をいじっているようだ。
気配に敏いスティグマが、先に階段に目を向ける。
ラムダの背を押しながら近付くと、無言でお茶の準備をする。
どちらかと言うと、ファイよりもスティグマの方が気遣いが上手い。
間蓋を赤く泣き腫らしたラムダは、小さく礼を言って口をつける。
カモミールが主なハーブティー。
やはり、スティグマは気遣いが上手い。
ファイはまだディガンマたちが戻ったことに気付いていないようで、スティグマが新しく淹れたハーブティーを顔を向けずに飲む。
飲み干した。
暫くして、全て読み終わったのかファイが顔を上げる。
そこで漸くディガンマとラムダに気付き、目を瞬かせる。
「もう大丈夫?」
随分と直球ではあるが、ラムダは笑みを浮かべて頷く。
同じく笑みを返したファイは、
「これ、全部読んだのよ」
行き成りそう切り出す。
ここで一つ言うと、ディガンマとラムダが二階にいた時間は20分、降りてきてから5分程度である。
ただ、ファイの本の読むスピードと記憶力は尋常では無いので、突っ込まないのが暗黙の了解なのだ。
「で、この人、サラモエさんが晩年、過去を振り返って書いたのがこの日記で、カマドエラのことも書かれてたわ。彼が8才の時のことらしいわ」
「えらい短命だなぁ」
「サラモエさんって言うか、ここの村って魚人族たちの村みたい」
「ああ、なるほど」
短命な魚人族は、人に近い姿をし、身体の所々に鱗をもつ種族のことである。
人間に近いのが魚人族、魚に近いのが人魚族なのだ。
「『大光暦481年、我らが交族が姿を消した。何処へ行ったのか、誰も知らない。もしかすれば、彼らしか知らない場所へと向かったやもしれない。それからは、我々の文明は停滞するばかりである』」
「「………交族?」」
「覚えていないか?始めのチュートリアルでは絶対出てきてるが」
「「……」」
黙って顔を見合わせる母と息子に、父と娘は溜め息をつく。
「私たちの権原は?」
「権限?」
「権原!どうして私たちが国のお偉いさんたちと直ぐに会えたりした?」
「プレイヤーだから?」
「なんか特殊な種族って設定だったから?」
ラムダとスティグマは各々が思い付くことをさらりと答える。
余り考えていない。
「スティグマ正解」
ディガンマの言葉にラムダはしょんぼりすると、
「ラムダのも強ち間違いではない」
顔を輝かせる。
母に甘い父に呆れた眼差しを送りつつ、ファイはそれに同意する。
「強ち、ね。ゲームの設定で、私たちは交族って種族で、不思議な力を持つって言ってたじゃない」
周りから称賛されていたが故に、王族とも簡単に会えたのだ。
鋭耳族と違い、交族は他の種族と多くの交流を持っていた長寿の種族だと。
「長寿?」
「だってほら。現実の一日はゲーム内の四日だったじゃない」
「あ、そう言えばそうだったわね」
「なるほどなー」
二人は平生考える必要のないことはすっぽり忘れてしまうらしい。
「それで、つまりそのサラモエさん?が言うには、プレイヤーたちが急に居なくなったってことだな?」
ファイは、こくりと頷き、どうしていつもそう敏くないのだろうかと思った。
ファイに言われたくはない。
「何かあったのかしら…」
「そこは考えても仕方がない。余り気にするな」
ディガンマに、はいと返したラムダは、やはりディガンマはカッコいいと頬を赤く染めた。
交と書いてジンゲンと読む
引きこもりのエルフなど、色々な種族と交流が盛んだからっていう安易な理由
ジンゲンは人間の別読み