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DiffErenCeScapE  作者: 有紗
第1章
5/11

2-2

廃村に来た。

先ほど街道を通った騎士が来た方向に向かうと、二十軒程の廃屋がギリギリ形を留めていた。

無事スティグマとラムダと合流し、(ばっちり怒られた後)一先ず休むことになったのだ。

不法侵入になるが、気にせずに一軒に入っていく。

「ねえ、この日記見て」

家のホコリを払い、食事を済ませた後、ラムダは一冊の古い本を何処からか持ち出してくる。

「日記?」

「それがどうかしたの?」

お茶を飲んでいた三人は、視線をラムダへと向ける。

ディガンマの隣に座り、日記をパラパラと捲る。

「この家にすんでいる人が、ご先祖様の日記を調べてたみたいなの。最古の日記がこれ」

三人は大して興味がなさそうに、ふーんと相槌などをうつ。

その反応が不満なのか、ラムダはジト目を向ける。

「あら、凄いんだからね。この日記、900年前のものなのよ!」





「「は?」」

「………」

ファイとスティグマは唖然とした表情を浮かべ、ディガンマは硬直し、

「ズズ…」

お茶を啜る。

「ラムダ」

「なあに?」

ディガンマに話しかけられた故か、名前を呼ばれた故か、ラムダは満面の笑みを浮かべる。

「それは、本当か?」

「ええ、何でも、この日記は大光暦たいこうれき423年に書かれたもので、今は大光暦1300年頃みたい」

確かに、この廃村の家々はそれほど草臥れていない。

まだ放置されて十数年しか経っていないのだろうから百年までは差がないはず。

それにしてもだ。

「待って!お母さん、今何て言った!?」

「?この日記が大光暦423年に書かれて、今は1300年頃よって…何かあった?」

ファイだけでなく、ディガンマまでも眉間に皺を寄せている。

ラムダはスティグマに顔を向けるが、ひょいっと肩を竦められるだけ。

残念ながら、スティグマの記憶力は自慢できない。

重苦しい雰囲気のまま、ファイが口を開く。

「さっき、知らない家紋を着けた騎士が走っていったのよ」

「うん?…え、知らない?お前確か家紋全部調べるとか言ってなかった?」

そう、その間にスティグマは鍛練に鍛練を積み重ねたのだ、確かに。

時には巻き込まれもした。

「それに、私たちが居たのって、たしか大光暦381年よ。カマドエラの戦いが380年にあったんでしょう?」

スティグマやファイはまだゲームを始めていなかったときの話だが、古参のディガンマは勿論知っているため直ぐに頷く。

滞在国が攻められた故に、急いで移動したのを覚えている。

プレイヤーは、戦いに纏わるクエストがあるにはあるが、基本的にゲーム内の戦い自体に参戦してはいけない。

国同士の戦いはゲームの世界観をよりリアルにするための演出だ。

親しかった兵士が亡くなったプレイヤーもおり、ゲーム内でも平和活動をしそうになっていたほどである。

運営陣がそれを目指した節もあるという。

閑話休題。

「明らかに、おかしい」

ディガンマは、そう呟いた後ラムダを盗み見る。

青い顔で日記を見つめている。

漸く、どういうことか気付いたようだ。

「全員、ログアウトを確認したか?」

三人は息を飲む。

動揺していたのが分かる。

なぜログアウトを初めに確認しなかったのか。

その場で三人がメニュー画面を見るが、ログアウト欄が見つからない。

「え…」

「なに、これ」

「………」

ファイとスティグマは絶句し、ラムダの顔はいよいよ青を通り越して白くなっている。

ディガンマは何となく予想はついていたことなので、他の三人よりは動揺が少ないが、流石にきついものがある。

ラムダから日記を取り上げると、それをファイに渡す。

ファイがキョトンと見上げてくるが、その視線を受け流し、ラムダを立たせる。

「上にいる。何かあったら呼べ」

こくんと頷くスティグマは、女性二人よりは大丈夫そうであった。

それに頷き返し、泣きそうなラムダの肩を抱きながら二階に上がる。

スティグマはその二人が消えるまで見送り、隣に座るファイを見る。

まだ状況が分かっていないらしい。

「母さん、多分自分の所為だと思ってる」

その言葉に、ファイがひゅっと息を飲んだのが聞こえる。

確かに、切っ掛けはラムダのスタート画面の不調の件からだ。

「でも!…それが原因じゃあないじゃない」

「そーだよ。けど、やっぱ自分の所為かもーとか考えんじゃね?」

確かに。

心配そうに二階を見上げるファイに、

「取り合えず、お前はそれを読め」

「あ、うん」

スティグマは自分の与えられた仕事をこなす。

ファイを考えさせてはいけない。

土坪に填まる可能性が高いからだ。

「……」

黙々と日記を読み始めたファイを横目に、スティグマは宙を見つめた。



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