2-1
ファイはポツンと一人、森の中にたっていた。
「どこよ、ここ」
ここに至るまでを思い返してる。
待ち合わせに来なかったラムダを探しに、街の中に引き返した。
目撃証言を聞いて回りながら、彼女を探すこと30分。
困惑顔の彼女を初めに見つけたのはファイで、手を振ったのだ。
後ろから、スティグマとディガンマもやって来て、反応の無いラムダに3人で駆け寄った。
けれど。
そう、行き成りノイズが入ったのだ。
驚いて、足を止めて。
目の前が真っ暗になって。
「どうなってるの…」
行き成り見知らぬ森に放置されれば、誰しもが呆然とするだろう。
唖然と動かなくなったファイは暫くの間その場にたたずんでいた。
『おい、和泉。生きてるか』
『生きてるわよ、失礼ね!
…優河!?』
『遅い遅い』
スキル《テレパシー》で話しかけられたファイは、聞きなれた声に反射的に噛みつき、少しして辺りを見回しながら声を上げる。
『ねえ、今どこにいるの?そっちは無事?お父さんとお母さんは?』
『落ち着け。こっちは無事、母さんも無事、今べそかいてる。父さんは知らん。お前、今どこにいる?』
『森』
『いや、座標を聞いてんだけど』
『あ、そうね、えっと…N4(3621,3276)よ』
『OK.すぐ行く、動くなよ』
通信が切れて、辺りは静かになる。
最も、スティグマの声は脳内に響いていただけで、ずっと辺りは静かだったのだが。
「少しくらい、動いてもいいよね」
動くなと言われたのだが。
地図を見ると、今ファイがいるのはそれなりの広さの森の中。
そして、街道が側にあるのを見つける。
この辺りに中々の要所があるのか、街道の幅はかなりある。
木が疎ましいが、のんびり歩くのも疲れるので、スキル《駿足》で街道まで一気に駆け抜ける。
何度かぶつかりそうになりながらも、ギリギリで避ける。
森を抜けたファイは、軽く、本当に軽く驚く。
あれ?
なんか、やけに街道広くない?
地図を見たときも思ったのだが、この街道、不自然過ぎるくらいの広さがある。
昔、小さな村があり、家が建ち並んでいたと言われれば、納得するくらい。
辺りを見回し、観察していたファイの耳に、早馬の足音が聞こえてくる。
「《隠形》」
直ぐ様スキルで身を隠し、馬が来るのを待つ。
しかし、背後で草の擦れ合う音がし、
「っ!!」
「ファイか?」
慌てて振り返ったファイに声をかけたのは、
「な、何だ。お父さんか」
ディガンマだった。
このスキルは、プレイヤーには直ぐに分かるようになっているのだ。
そして、ディガンマも蹄の音が聞こえたのか、ファイと同じく《隠形》する。
南から駆けてきたのは、赤と黄色の鎧を身に纏う、騎士であろう男が通りすぎて行く。
「…お父さん」
見送った後暫くして、ファイが渋面をディガンマへ向ける。
「…どうした」
「今の家紋、見たことある?」
「家紋?」
現実の家紋を知るはずがないため、ゲーム内の家紋を思い浮かべてみるが。
「全ては覚えていないが、思い出せる中にあの家紋はないな」
「そう、やっぱり。私、各国の紋章院を見て回ったんだけどね」
「全部か?」
「うん。まあ、許可貰ったり貰わなかったりしたけど」
つまり、忍び込んだりしたのだろう。
ゲーム内に大陸は一つしかなく、島すら存在しないのだ。
不可能ではない、不可能ではないのだが。
変なところに情熱を掛ける。
ディガンマは内心呆れながら続きを促す。
何となく、予想はつくが。
「うん、でね。見たこと無いわけ、あの家紋」
やはり。
記憶力には自信のあるファイの記憶に無い家紋。
先ほどのおかしな現象。
見覚えの無い景色。
それでも似たような大陸の形。
「…取り合えず、二人を待とう」
考え込み出したファイの意識を引っ張り上げる。
渋面がハッと我に返る。
「ん、そだね」
考えても仕方がない。
気を取り直したファイの頭に、ディガンマはポンと手を乗せた。
そして髪をグシャグシャにする( -`ω-)✧