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夏休み中、優河はずっと和泉の家にいた。
両親が7月上旬から海外へ仕事で行ってしまったからである。
優河の家事スキルは一般高校生より遥かに高く、主婦と肩を並べられるだけある。
しかしそれでもやはり心配事があるため、夏休み中だけでもと、幼馴染みの和泉の家へ預けられた。
といっても、和泉の家は優河の住むマンションの近くの一軒家なため、何かにつけて家に戻っている優河は、その日も丁度家へ帰っていた。
昔のゲームを掘り起こし、やりたいものだけを持って家を出る。
「あれ、優河。家に戻ってたの?」
「おお、お疲れさん。ちょーっと、これをな」
進学校に通う和泉は希望補習の帰りで、優河の手の中のゲームを見て呆れた顔をする。
「あのねぇ、いい加減に宿題しないと母さんに怒られるよ」
「大丈夫、これはお前がいない時用。隠せばバレない」
「はいはい」
和泉の親がいるときの殆どが、和泉が家にいる時。
二人揃えばバーチャル・リアリティー・オンラインゲームをしている。
そのため、親からしてみればずっとゲームをしているように思う。
もちろん昼間にやっていると親にはいう。
しかし、和泉がいない午前中を優河が勉強だけで潰すことは、飽きてしまって不可能。
よって、ゲーム時間を挟みながら午前中を潰そうと考えたのである。
因みに、鍛え上げられた精神力で、優河のゲーム時間のコントロールは上等である。
和泉としては、その精神力を集中力に使えば良いと思っている。
家について、昼食を手早く済ませた二人は、競うように階段を駆け上がる。
和泉の部屋に飛び込み、片やベッドに寝転がり、片やソファーに寝転がる。
準備は整った。
ログインし降り立ったのはとある街の一角。
和泉-ファイの隣には優河-スティグマもいる。
「じゃあ行くか」
「そだね」
西洋の街並みはいつも二人のテンションを上げる。
開始直後、スクリーンショットでバシバシ撮ったのを覚えている。
メールを見て駆け付けてきた岡村-ヤタークも呆れた顔をしていた。
二人は1ヶ月に一回開催される、初心者対象救済イベントでー二人が二日間オールしてー手に入れた空飛ぶ絨毯などの特殊アイテムや、冒険者ギルド連合、生産者ギルド連合主催のイベントで入手できるレアアイテムなどを色々掻っ払っていった。
クイズ故か、プレイヤー数の少ないDiffErenCeScapEプレイヤーは団結力が強い。
全体の底上げに力を入れ、vs.運営感がビシビシしている。
月1であるバージョンアップがそれに拍車を掛けており、初心者対象救済イベントも参加するように口を揃えて言う。
素直に従った末の結果に、周りは少し呆れていた。
段々と力を付けていき、8月中旬には、古参廃人には及ばないものの、ゲーム内の有名人にも認められるほどになった。
スティグマは戦法という戦法をすべてこなし、鍛治や建築にも手を出した。
ファイは魔法を制覇し、調合や細工など細かいものを好んだ。
ソロだとバランスが悪すぎるが、二人はいつも一緒にいたため、周りが気付かぬ内にチートになっていた。
もちろん本人たちも、もしかしてとは思っていたが、レベルが高く有名人に認められたと言えど最高レベルまでにはとうてい及ばないため、それほど気にしていなかった。
初めて突っ込んだのは、ヤターク。
ちょっと待てとモンスターを容赦なく薙ぎ払う二人を止め、珍しく常識人のように懇々と教えを説く。
いかに二人がチートに近いかを、人間を辞めたような動きをしたスティグマと有り得ないほど魔法を連発したファイに、膝を付き合わせながら必死に説いた。
「いいか、お前らは一度自分達がいかに変か見直してみるべきだ。DiffErenCeScapEを勧めた側としては、何か責任を感じる」
「む…だってなーDiffErenCeScapEほど自由にできるゲームってねーもん。ついついテンション上がっちまうんだよなー」
「そうそう。こう、何か血沸き肉踊るっていうか、ね」
「沸くな踊るな」
次回も早めに投稿できるように頑張ります…!