3-2
お待たせいたしました
うん…内容薄いです
しかも中途半端…
「こいつらは差し上げます!」
と押し付けるような勢いでエルフの兄妹を差し出してきたヘルデを、青年はめんどくさそうに見る。
渋る青年を丸め込んだのは、ダクタロンと戯れていた少女だった。
「良いじゃない。貰えるもんは貰っときましょ」
ヘルデは助かったとばかりに顔を上げるが、
「何かあったらさっさとギルドに報告すれば良い話だし、ね」
微笑みかけられてガタガタと震える。
因みに、差し出されたイーリスは半眼でヘルデと醜男を睨んでおり、ミュゲはダクタロンに興味をもたれてプルプル震えている。
「まあ、いいか。おい、お前。次こんなことしてやがったら…」
「グァッ!」
「…あー……喰うらしいぞ」
「ヒイッ!!し、しません!絶対しませんっ!!」
ヘルデはガタガタと震えながらも何やら呪文を唱え、地面に這いつくばりながら逃げていく。
その後ろを醜男が追いかけ、その後を。
「あ」
「おいおい…」
「「………」」
ダクタロンが追いかけていく。
「食べちゃだめよー美味しくないわよー」
「そうじゃねーだろ」
遠くから悲鳴が聞こえる。
恐らく、ダクタロンが追いかけていることに気づいたのだろう。
食べられてはいないだろうが、半殺しにはなっているかもしれない。
南無南無と青年が合掌する。
一方、プルプル震える妹を支えながら、イーリスは右手首を半ばぼんやりと見ていた。
ヘルデが唱えた呪文は、確かに兄妹の主人を目の前の二人にしていた。
解放されるわけがないかと、ひとつ、ため息をついた。
暫くして、ヴィンデが戻ってくる。
雰囲気からして満足したようである。
「おかえり、ヴィンデ」
満足気なダクタロンの頬擦りを受けながら、ファイはイーリスとミュゲを見る。
「えっと、イーリスってどっち?」
兄妹は顔を見合わせ、イーリスがそっと手を上げる。
「私です」
「………おおぅ…」
「え、じゃあミュゲってのは…」
そろそろ…とミュゲが手を上げた途端、
「あんのオヤジィィィ!呪うぞコラァ!!」
「……わー……父さんたちに何て言おう…」
「戻ってこいハゲェ!!!!シバくぞオラァ!!」
「母さん怒るよなー………うわー…」
「ヴィンデ!!あのハゲ連れ戻してきて!!」
「落ち着け。ヴィンデ行くなー戻ってこーい」
叫びだすファイを押さえつけながら、スティグマがヴィンデを呼び戻し、
「頼んだ」
とファイをイーリスに投げる。
反射的に受け取ったイーリスは、目を瞬かせているファイと見つめ合う。
「やー…なんと言うか、大変申し訳ないんだけど」
「はぁ」
「貴方の主が私になってるのよ」
「……」
「あら、無反応。悪いけど、私じゃどうしようもないから我慢してね」
スキル作製に制限がかかってたなんて…
と内心しょげながら表面上は普段通りの顔をしている。
イーリスであることには問題ない。
問題なのはあの奴隷商人の思考である。
見目のいいイーリスとミュゲ。
戦闘用の奴隷としても使えるが、他の用途はもちろんある。
何を思ったのか、あの男はその“他の用途“だと判断したのだ。
あれか!?
貰えばいーじゃんとか言ったからか!?
腹立たしいと思いながら体勢を調える。
一方、スティグマはミュゲを追いかけ回しているヴィンデを宥めさすかし、半泣きのミュゲを落ち着かせる。
ヴィンデはどうやらミュゲを気に入ったらしい。
ミュゲが本気で怯えているので、近寄らないで欲しいところだが、恐らくヴィンデは聞かないだろう。
基本、ファイとラムダと自分の本能に従うのである。
「大丈夫だ。こいつは、主人の意思をよく汲み取る。襲われねーよ」
なんとかミュゲをなだめ、落ち着かせる。
そして、
「スティー、お父さんたちに説明しなきゃー」
「お前がしろっ!!」
キレた。
キレたものの、ファイに任せっきりにすると、自分の良いように事実をねじ曲げること間違いなしなので、スティグマが大雑把に報告をしておく。
『てな訳。よろし?』
『良いわけがないだろうが』
『直ぐそっち戻るから、詳しいことはファイに聞いてくれ。多分なんか考えてる』
ディガンマが溜め息をつく。
此処に来て早々、早速、このトラブルメーカーたち(他称)はやらかしてくれた。
『ラムダが心配している。早く戻ってこい』
『へーい』
軽く返事をしたスティグマは、ミュゲの髪の毛を楽しそうに洗っているファイがいるのを確認する。
次いで、視界の隅で、水浴びをしていたイーリスが歩いてくるのも。
「そろそろ出るぞ。早くしろよ」
「はぁーい」
池から上がり、濡れたミュゲの髪をスキルで一気に乾かす。
「へっ!?」
何が起こったのか分からず、目を白黒させるミュゲの手を引き、スティグマやイーリスから見えない木の陰に回る。
ミュゲの体を覆うタオルを引っ剥がし、手早く服を着せていく。
「はい、これ履いて。サイズ合わないだろうけど、少しの間は我慢してね」
「は、はいっ」
軽く髪を整えて、
「うん、バッチリ。かわいいわ」
やっぱり、美少女は何を着ても美少女だ。
うんうん、と頷いて、再びミュゲの手を引く。
スティグマの元に戻り、イーリスの髪も乾かしてやる。
一瞬驚いた様であったが、彼は何も言うことなく黙って立っていた。