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DiffErenCeScapE  作者: 有紗
第1章
10/11

3-1

 ミュゲは兄の背中を見つめながら、ひたすら今の状況を呪っていた。

 どうしてこんなことになっているのか。

 どうしてこんなところにいるのか。

 兄が止まったのを同じくして、ミュゲの足も止まる。

 ミュゲの薄い金色とは違い、兄の髪は焦げ茶に近い金色をしている。

 本来は美しい兄の髪は、汚れてボサボサしている。

 ああ、どうして。

 何度も何度もその言葉が頭を支配する。

 ああ、どうして。



「この辺りだったか?」

 下卑た笑みを浮かべる醜男が、後ろを振り返りながら問う。

 小男が同じような笑みを浮かべながら頷き、歩みを止めていた馬を歩かせる。

 二台の馬車を先導する醜男は、目を凝らしながら先を照すも、道は完全に途切れている。

 馬車で通れそうにない。

「どうだ?」

 後ろの馬車から50代の男が顔を出す。

 豊かな髭を蓄えた男は、醜男が首を振ったのを見て周りの護衛たちに合図する。

「出ろ」

 前の馬車のドアを開け、青年を引きずり出した護衛は、青年にすがり付く少女を無理矢理馬車に押し戻す。

 醜男がニヤニヤと笑いながら、引きずり出された青年の周りをぐるぐると回る。

 さも嬉しいと言わんばかりの表情だ。

「さて、イーリス。ここに見覚えは?」

「………等しく、森」

 醜男はその答えが気に入らないとばかりに、舌打ちをして声を荒げる。

「森なのは分かってるっての!この森がお前の産まれたとこかって聞いてんだよ!何のためにここに連れてきたと思ってんだ!お前らの里帰りじゃねーんだよ!」

 怒鳴り声を聞いているのかいないのか。

 青年は真っ直ぐ前を見たまま、再び口を開く。

「森は森。我らは森を等しく愛す。それが故郷か否かは問題ではない」

「んだと!?」

「落ち着いて親分!殴っちゃ不味い。ヘルデ様にバレるぞ」

 小男や護衛が慌てて間に入る。

「おい、ヘルデ様に報告しろ」

 護衛の一人が後ろの馬車に近づき、顔を出したヘルデにやり取りを報告する。

 それを見ながら、醜男は腹立たしげに青年を睨み付ける。

 青年とその妹を捕まえてから5年もの間、二人して黙りを決め込んでいた。

 やっと妹を痛め付けて吐かせた、ほんの少しの森の情報を手にここまで連れてくることができた。

 邪な考えを持つものは、エルフの森に入れたとしても里にはたどり着けない。

 エルフが共にいない限りは。

 そう、今までとは違いこの兄妹がいる。

 やっと大量のエルフを捕獲することができるのだ。

 成功すれば大量の金が手に入る。

「……ククッ」

 思わず笑みが漏れる醜男を、エルフの青年は冷たい目で見つめていた。

「もし、たどり着いたとしても……」



 男たちは呆然とそれを見ていた。

 大きな木を中心とするエルフの里を。

 誰一人としていない里を。

「…どういうことだよ」

「これはっ…」

 イーリスは目を細め、里を見回す。

 覚えがあるような、ないような。

 隣のミュゲも同じように思ったのだろう、辺りをキョロキョロ見回している。

「お兄様」

「ああ」

 小さな声で短いやり取りをする。

 ここにはもう同族はいない。

 どこかへいってしまった後だ。

 大慌てで里を駆け回る男たちを見ながら、安心したような、悲しいような。

「クソッ折角のチャンスだってのに!」

 醜男が怒鳴り散らし、ヘルデが憤怒の表情を浮かべた時。

「何のチャンスなわけ?」

「まさか、親の許可なしに保護下にある子供を拐おうなんて考えてねーよなぁ」

 いつのまにか巨木の側に現れた、マントを被った少女と青年に、ヘルデは後退りしながら首を振る。

 異様な威圧感に、足が震えている。

 明らかに年下な二人組が、命を脅かす恐ろしいものに思えるのだ。

 それはヘルデ以外も感じたようで、何人かは気を失ってすらある。

「な、なななな…」

「まーまー落ち着けって。お前さんら、奴隷商人で間違いねーよな?」

 へたり込んだ醜男の前に屈んだ青年は、声朗らかに話しかける。

 コクコクと頷いた醜男は、ヘルデの後ろに逃げ込む。

 ヘルデは半泣きになりながら、懸命に手を振る。

「ま、待ってくれ。わしらは、別に、そんな……なあ、頼む、誰にも言わないでくれ。なあ」

「だから落ち着けって。少し人の話を聞こうぜ」

 青年が微笑んだような気がして、ヘルデは少し力を抜く。

 が、


 グオオオオオオォォォォ


 怒号が辺りに響き渡り、意識のあった護衛や小男が気を失う。

 エルフの少女はへたりこんでしまい、妹を守るように青年もしゃがみ辺りを警戒する。


 ドオオオオォォォォン


 地が割れるような音がして、ダクタロンと呼ばれる大型のモンスターが空から落ちてくる。

 風のマナを纏う、白地に黒い縦の亀裂の模様と鋭い爪や牙を持つダクタロンは、座り込む者たちをジロジロ見ながら、巨木にもたれ掛かっている少女に近寄る。

「おかえり、ヴィンデ。ちゃんと良い子にしてた?」

 少女の唯一見える口元は嬉しそうに弧を描いており、自身の肩の高さにあるダクタロンの顔に頬擦りをする。

「ヴィンデ。そこの人間たちは、まだ・・食べちゃだめよ。スティーが良いって言ってからね」

 少女に言われても、視線は気を失っている餌に向かっている。

 ヘルデと醜男はガタガタと震えだす。

 当然だろう。

 ダクタロンはB級モンスターで、草々お目にかかれるものじゃないのだ。

 ましてや、それを使役するなどあり得ない。

「脅すなっての」

 とぼやいた青年は、ため息をついた。

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