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取り合えず一話のせます
お待たせして申し訳ありません
日本某所。
とあるマンションの一室で、二人の男女がパソコンに顔を突き合わせていた。
「岡村くんが言ってたって、ホントにやるわけ?あの岡村くんよ?大丈夫なの?」
「お前な、岡村になんか因縁でもあんのかよ。あいつ性格悪いけど根は良いやつだし、流石に変なのは教えないだろ」
和泉は眉間にシワをよせ、
「別に悪い人だとは思ってないよ。でも、岡村くんって、一風変わってるじゃない。しかも、携帯常備って…何なのよ」
「だーかーらー、クイズに正解しなきゃヘッドに繋げれねーんだってば。俺が問題読むから、お前が検索して答えを教える。OK?」
優河はそういうと、ベッドの上に置いてある、二つのヘッドをみる。
十三年前に発売され、瞬く間に普及されたバーチャル・リアリティー・オンラインゲームの必需品。
あのヘッドが無ければバーチャル・リアリティー空間に行くことができない。
因みに一年前、ヘッドの第三作が発売され、パソコンからソフトをダウンロードせず、ソフトを直接ヘッドに差し込めれるようになった。
しかし、あまりにも多くの人に第一作が普及し、パソコンとヘッドを繋げなくてもよい第二作や、第三作はなかなか普及しない。
もちろん、優河も和泉も第一作派だ。
二人はそのバーチャル・リアリティー・オンラインゲームを漁るのが好きだ。
優河は特に、習い事が無いときはほとんどゲームの世界に没頭している。
二人に『DiffErenCeScapE』を紹介した岡村も、廃人並だ。
それは勉学にも影響を受けており、みごと岡村は受験に失敗した。
最近は自重しているらしい。
そしてその、優河の現クラスメート兼和泉の中三時クラスメートの岡村が紹介した第一作、第二作対応ゲームは、何かしらのクイズに正解してからヘッドを繋ぎダウンロードできる手筈になっている。
クイズといっても、一般人が調べても直ぐに分かる程度だ。
しかしそれでも、和泉の精度の良い女のカンが先ほどから煩い。
優河を止めろと言っているのだ。
「でも!…なんか、嫌な予感がする」
「不吉なこと言うなって。大丈夫だよ」
「う、うん…」
恐る恐る頷く和泉の頭をポンポンと軽く叩き、
「うし、んじゃ行くぞ!」
「OK!」
「第一問、三位一体論を唱えた西方キリスト教会最大と言われる教父は?」
「アウグスティヌスね。この間倫理で習ったわ」
「第二問、古代エジプトの天空神ヌートの夫ゲブは何神?」
「大地神。先生が雑談で言ってたわ」
「第三問、ペスト菌のおよその大きさは?」
「確か1nmだった。うん、絶対そう」
…………
「第十問、モーツァルト毒殺容疑をかけられ、今だ謎が解けていない人物は?」
「サリエリ。アントニオ・サリエリ。最後で有名どころ来たわね」
「何なの、何なのお前。やだ、怖い」
「んなっ…!失礼ね!」
結局、全問携帯を使う前に和泉が答えてしまい、優河は涙目で幼馴染みから距離をとる。
和泉は一度優河に噛みつき、けれど、
「一発補助なし正解率0%…一発補助あり正解率13%…」
攻略サイトの一ヶ所を指差す優河に何も返せない。
在らぬ方へ視線をさ迷わせた後、
「偶々よ!」
と言い張った。
そして、和泉の異常さ以外、おかしなところはなかった。
だからなのか、和泉も優河も嫌な予感についてすっかり忘れてしまった。
こうして、文化祭の終わった5月下旬、二人の『DiffErenCeScapE』ライフは始まったのである。