第5話
目が合って、そしてじっと二人は見つめあっていた。
女の子の瞳は黒く深く、まるで海の底を見ているように
計り知れない。その中に異なる世界を包み込んでいるようだった。
髪は黒く長く月明かりで黒曜石のように潤いを保ち艶やかですらある。
確かにレッドの言うとおり美しい女の子だった。
驚いてサンタクロースは窓を抜けて外へ出ようとしたが、
なぜか女の子の姿を見ていると一歩も動けないのだった。
女の子は目の前の人影をみて、この人は誰だろうと考えていた。
そしてこう言った。
「あなたは誰?」
サンタクロースは何も答えられないでいた。
「私ね、サンタクロースなんて信じていないのよ。
たぶん、朝になったらこれは夢だったと思うでしょう。
きっと、これは夢だから、明日になったらどんな夢だったかも
思い出せなくなると思うわ」
後ろから引っ張るような力が働いた。サンタクロースがレッドに
外へ引き戻されたのだ。
「何やってるんだい。人間に姿を見られるなんて。
だから、最初に見惚れるなって言ったじゃないか」
サンタクロースは人間と出会ってはならないのです。
「悪かったよ、レッド。でもね、あの女の子さ・・・」
「どうせ、可愛い顔だったとか言うんだろ」
レッドは鼻から湯気を出して言った。
「違うよ、あの女の子なんだか夢を今にも失いそうに見えたから」
「そうなのかい?・・・」
再び走り出したそりを引くレッドはそれ以上は何も言わなかった。
先程の赤い屋根の家は遠ざかり、二人は次の目的地へと向かう。
サンタクロースはあの女の子の事を忘れられなくなっていた。
いや、実はあの女の子の方も暗がりの中でみた誰かの事を
忘れることが出来なくなってしまったのだった。