第2話
クリスマスの夜空に鈴の音が舞う。
端から端へと素早く。それは踊りだった。
回り、跳ね、姿の見えない踊りだった。
そりの姿は誰も目で追うことができない位に早かった。
しかし、もしもそれが出来たならば、
そりに乗るサンタクロースの姿を見ることができただろう。
そりを引くトナカイの鼻はやはり赤かった。
人間たちは知らないだろうが、赤い鼻をもつトナカイの一族は、
もうこのトナカイのたった一頭しかいない。
そのトナカイの名前は、レッドと言った。
「おい、サンタクロースどうしたんだい?
私がこんなに張り切っているのに、お前さんはもう一歩も
前に行きたくないと言うのかい?」
「そうだよ、レッド。僕はもうどこに行けばいいのか判らないんだ」
サンタは浮かない顔をして言った。
「だってそうだろう。 僕の事を誰が待っていると言うんだい?」
「なんて事を言い出すんだい、今日はクリスマスだよ」
トナカイのレッドは驚いて夜空のど真ん中でそりを止めた。
今日はクリスマスの夜。満点の星空。
眼下には街の夜を穏やかに照らす明かりが点々と灯っているのが見える。
街が健やかに眠っているのがよくわかった。
「誰にプレゼントをあげれば良いのだろう。もう誰も僕のプレゼントなんか待ってやしない」
「そんな事はない、何かあげれば子供たちは喜ぶに決まってるじゃないか。
これまでずっと、そうしてきただろう?」
レッドはそうサンタクロースに言った。
「違うんだレッド。
僕は子供たちの夢を育てるようなプレゼントがしたいんだよ」
「そう、ずい分やってきたね。
スポーツ選手になりたい子供たちにボールやシューズをあげたりしたじゃないかい」
レッドはやれやれという顔をしていた。
トナカイはサンタクロースの忠実な部下でなくてはならない。
だがレッドは違った。
若いサンタクロースに向かって忠告をする事もあるトナカイだった。
「そうだ、僕は夢を育ててきた。
ピアニストになりたい子供のためにし小さなピアノを贈ったこともあった」
サンタクロースは月明かりの空中で、眼下の街を見下ろした。
「皆の夢を育てた。子供たちは輝いていた。
毎年僕は夢を育ててきたんだ。 だけど・・・」
サンタはうつむいた。
それを見てレッドがため息をついた。
「それが今は、変わってしまったというんだろう?」