再会
俺の処女作
大学一年の時にサークルで書いたけど、内容が合わないと思ったのでお蔵入りした話
それがNPCの中から発掘されたので、何となく載せてしまった
何でこんな話書いたんだろう?
痛い!痛い!痛いっ!
朝眠りから醒めた私に襲ってきたのは、絶え間ない激痛と周りに誰もいないという孤独感、そして兄が死んだという逃れようのない現実。
私は二週間前に最後の家族を失った。
母は私を産んだときに死に、父は母の死に耐え切れず、しばらく私たちを育ててから自ら命を絶ったらしい。
その後はよくある話。
親戚の家をたらい回しにされて、やっと叔父の家に住ませてもらえるようになったけれど、いきなり仲良くなれるわけもなく、そこでは私と兄は浮いた存在だった。
なんとかして家族として認めてもらえるように買い物の手伝いをかってでた私と兄だったが、買い物の帰り信号が変わるのを待っていたところに軽トラックが突っ込んできた。
兄は即死だった。
私は少しの擦り傷と打撲だけで済んだ。
あの瞬間兄が私のことを庇ってくれなかったら私はこの世にいなかっただろう。
しかし兄の死は私にはショックが大きすぎた。
地面に広がる赤い染みと拉げた手足、現実とは思えない状況。
私の血のつながった最後の家族、慕っていた兄の死がもたらしたのは、言語障害というものだった。
言葉を忘れたわけじゃない、ただどう喋ればいいのかわからなくなってしまっただけだ。
しかしそう思うのは自分だけ。
社会の反応は冷たかった。
親戚の家からはさらに浮いた存在になり、私はこの一週間で新聞配達のバイトをクビになり、新しい仕事を探そうにも話せない私にできる仕事は限られてくる。
工場や厨房などの、お客と話す機会がない仕事しかできない。
しかも職場で話せない、ましてや子供の私はよりいっそう孤独を感じるだろう。
それらを思うと……辛い。
泣きたくなってくる。
しかしの生活費のこともあるので、仕事をしなければならない、けれどしたくない。
思考はループし続ける。
兄が死んで一週間と三日たったその日、私は追い討ちをかけられるように体の具合が悪くなった。
これ以上叔父に負担を掛けたくないので病院に行こうか迷ったけれど、あまりに辛かったので意を決して行くことに決め、自宅から徒歩10分の病院に向かって歩き出した私は、いつもの思考のループに捕らわれて兄の命を奪った車に対する注意を損なった。
気付いた時には鉄の塊がもう目の前に来ていた。
大きなブレーキ音と激しい衝撃。
痛くはなかった、むしろ少し嬉しかった。
これで兄の元へ行けると本気で思ったからだ。
しかし意識が戻ったときに、私の目の前にいたのは兄ではなく、白衣をきた医者だった。
医者の話を聞くと、私はふらふらと道路に出ていき車に轢かれたそうだ。
怪我は大きなものから小さなものまでたくさんあったらしい。
今は麻酔が効いているから痛みはないだろうが、今夜はとても辛いだろうという医者の言葉も聞いてはいたが理解はしていなかった。
その時はただ兄の元へ行けなかったという失望でいっぱいだった。
しかしたとえ理解をしていなくとも、夜にくる痛みは避けられるものではない。
その痛みは想像を絶するものだった。
麻酔が弱まってくるにつれて体の中を針で突くような痛みが襲い掛かってくる。
私は耐えられなくなって枕元にあるナースコールを何度も押し続けた。
看護士さんがきたのは、初めの痛みの七分後だったがその間はまるで時が止まったかのように感じていた。
看護士さんに自分の怪我の状態を教えてもらって、この痛みの理由をようやく理解する。
右上腕二等筋断裂、左足靭帯損傷、頭蓋骨骨折……etc
生きていることが不思議なくらいの大怪我だ。
その話を聞いた後看護士さんに痛み止めをしてもらい、その日は眠りに堕ちた。
翌日からはまるで地獄だった。
朝昼晩体中に激痛が走り、痛み止めなしには動くことすらできない状態。
しかしそんな中ひとつだけいいことがあった。
突然兄の姿が見えるようになったのだ! 声は聞こえないがそこに兄がいるというだけで痛みは弱まり、心は満たされていく。
朝起きて兄に微笑みかけ、看護士さんに痛み止めを打ってもらい、兄に向けてのメッセージを紙に書いて見せて過ごす。
地獄の中に一筋の光明が見えた様にも感じた。
しかし入院してから三日目、兄が見えなくなってしまった。
私は激痛を堪えながら車椅子で病院中を探し回ったが、夜になっても見つけることができなかった。
こうして私と兄は二度目の離別。
この別れに私は耐え切れなかった。
死のう、死んで兄に会いに行こう!
その日私はどうやって死のうか考えながら夜を過ごした。
今日で兄が死んでから二週間。
今日もまた痛みで目が覚めた。
兄が見えなくなったというのが心に大きな穴をあけていたために、いつもの痛みより骨身にしみる。
しかしその痛みも今日で終わりだと思うと少しだけ気が楽だった。
一晩悩み抜いて、死ぬ方法をオーソドックスに風呂場で手首を切ることに決めたのだ。
迷いはない、恐怖もない。
ただ少しだけたまにお見舞いに来てくれた親戚の人と病院の人に罪悪感は残るけれど気にしない。
「今そっちに行くからね」
声にはできなかったけど、私はそう言った。
私はゆっくり手に持ったカッターを手首にあてて、一気に引く。
水に混ざっていく自分の血。
まるでカフェオレの様だ……混ざって溶けて流れ出る私の命。
人肌ほどのお湯に包まれて静かに私の命が終わっていく。
だけどこれで兄と同じ所に………そう、これからはまたずっと一緒。
瞼が重い。
もう時間かな?
ゆっくり目を閉じ、視界が黒に染まると私の意識も水に溶けた。
意識を失う瞬間兄が隣で泣いてる気がした。
なんかごめんなさい




