求む!条件(極狭)に叶うヒト!…真剣なんだけどなぁ~
長らく間が空いてしまいました…ナニモイエナイ
自覚させてから折るべきか。先に摘んどくか。それが問題だ。
目の前の会話を静かに見つめながら、ライトはそんな事をぼんやりと考えていた。
彼の目の前では、今まで同じ講義を受けていた二人が、出された課題について激論を交わしていた。
「だから対比はリュウの種子とサットヴァで11:26の割合を崩したらこの後の分離で上手くいかないわよ?」
「でもその対比じゃ錫も鉛も触媒に使えないぞ?」
「触媒はそれだけじゃないでしょう?何でそこでティンクトラ使っちゃダメなのよ!?」
「教材には錫か鉛の触媒の記載しかないだろう」
「教材の記載は必要最小限で応用出来なきゃ意味ないのよ?」
「教材にあるもののみで最高ランクを造る方が制約があって楽しいじゃないか」
「そんな拘り1人で作業する時だけにしてちょうだい!」
普通に作るのはつまらない、という何とも自信に満ちた返答にライトは内心で苦笑した。
まぁ、確かに優秀なヤツだから出来るだろうが、変人ぶりが伺えるな、と思いながら彼らの激論を見守った。
彼らの会話は専門用語が飛び交い、講義をとってない人間には付いていけない。
何となく分かる範囲で判断するにルベドというものを作るという課題が出たらしい。
その作業をマグヌス・オプス(大いなる作業)というらしいが…素人にはついていけない世界だ。
『錬金』というのだから、最終目的は恐らく太陽の花を作る事だろうが、全くもって素人にはさっぱりだ。
激論を交わして入るが、彼らの雰囲気は楽しそうで、リィナは本当に調合という作業が好きなんだろうな、と思わせる雰囲気だ。
一人でやれ、と言いながらも彼の出すあれこれな拘りに簡単な実験を繰り返しながら合理的に判断して折り合いをつけようとしている。
実験室で行っていた講義が終わった後、そのまま議論に流れ込んだから、機材は揃っている。
一方の彼は調合も確かに好きなんだろうからそれもあるが、楽しそうなその理由はそれだけではないことが見てとれる。殆どの人が気付かないだろうが、アレは半分はリィナをからかう為にしているのだろうと、次々と無理難題を口にする彼を見ながらライトは確信する。
まぁ、あの反応は面白いからね、と身に覚えのたっぷりとあるライトは思う。
そうして、本人も無自覚だろう、彼がリィナをからかう理由も正確に把握している彼は、さてどうしようか、と思考を巡らせた。
最終的にリィナにちょっかいをかける害虫を駆除するのは変わらない。
重要なのは自分がいかに楽しめるか、だとライトは内心で思う。
フォルテは自覚させてから折った方が楽しいから放置している。
あのシーリンは、現時点で対応を保留中だ。
徹底的に駆除するか、ある程度遊ぶか。
他のシーリン達の対応も見た上で決めようと思ってはいる、が、基本排除。
周辺を若干うろちょろしているが、あれからリィには一切近付けさせないでいる。
それ以外の輩は楽しくも何ともないので即、徹底的に駆除している。
さて。
この彼は自分を楽しませてくれるのだろうか。
ライトがそんな事を考えながら、表面上は爽やかな、微笑ましいものを見つめるような表情で密やかに彼女達を観察していると、突然リィナが焦った様子でライトを振り返った。
相変わらず良い感だ、と思いながら、ライトはにこやかにリィナに問いかけた。
「どうしたの、リィ?」
「…や、何か今背中ぞわっと…な、何でもないわ!うん。何でもない」
「変なやつだなー」
リィナはひきつった表情でごまかすように首を横に降りながら否定した。
そんなリィナを見て、からかうように変人(確定)がそう言ったが、リィナはそれに反応せず、疲れたようなため息を一つついた。
「このまま議論しててもらちが明かないわ。先ずは明日までにお互い構想の概略を考えましょう?というか、こだわりを全て挙げてきてくれるかしら、フロウ?」
あなたのこだわりを一々聞く気力が無くなったわ。
とぼそりと口のなかで続けたリィナは、先に行くわ、と二人に背を向けながら言葉を放り投げると、そそくさと逃げるように歩き出した。
「え?ちょ、リィナ!?」
変人(確定)が、若干慌てて声を掛け、追いかけようと立ち上がりかけたが、ライトがその前に彼の額を押さえて止めた。
のんびりとした力ない動作に見えたが、彼が焦って立ち上がろうとしても全く動けなかった。
「これ、コツがあってね。例えば非力なリィナがやったとしても立ち上がれないから」
にこやかに言うライトを、彼は不機嫌な感情を隠すことなく睨み付けた。
「離せ」
「うん。僕の言いたいことが終わったらね」
払いのければ良いのに気付かないのかな、案外抜けてるな、と辛辣な事を胸中で呟きながらライトはにこやかな表情のまま続けた。
「空気読もうね」
「……はぁ?っつ!」
一言で言いたい事を要約して告げると、一瞬だけ力を込めて頭をわし掴むと、手を離して歩き出した。
振り返らずヒラヒラと手を降りながら、じゃあね~と能天気な挨拶をするライトを数秒呆然と見送った変人(確定)だったが、はっと我に返り、なにするんだ!と声を荒げたが、その数秒で既にライトは視界から消えており、端から見ると間抜け以外の何者でもなかった。
斯くして、ライトの興味をそそらなかった彼は、即座に駆逐された。
後にフォルテに顛末を語り、皆骨なさすぎてつまらない、と締め括り、彼を盛大に呆れさせたのはまた、別の話。