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身辺雑記。  作者: 石榴
7/25

だって楽しいからね。

間が相手すみません…

「そうだ。薬草採りに行こう」


どこをどうしたらその結論に辿り着く?


不意に落とされた一人言に、ライトは内心でそう突っ込みを入れた。


「リィは本当に面白いね」


思考回路が。

内心でこっそりつけ加えて、人の良さそうな笑顔でライトは言った。


先程からリィナの言動を視界の隅に入れていたが、さっぱり理解出来ない。

リィナは先程己の爪を見詰めて、「伸びてるから切らなきゃ」と呟き、爪切りを探しだした。

そして棚を漁っていたかと思ったら、(おもむろ)にそう宣言したのだ。

本当にどんな思考回路を辿ったのか気になる。



少女の言動といい、行動といい、端から見ていて予測がつかない事が良くある。

一応一般常識と呼ばれるものは持ち合わせているし、曲がりなりにも学園に所属しているのだから集団行動も対応出来る。

それ故、大抵は予測の範囲内の反応を返す。

それはそれで愉快な反応ではあり、見ていて飽きない。

けれどたまに予測の斜め上の言動をする少女はそれ以上に面白い。

それに少女は感情がストレートに外に出る。

喜怒哀楽のはっきりしたその表情を見るのも面白い。

だから、ライトはついついリィナにちょっかいをだしてしまう。


勿論、口にする言葉に嘘はない。方便は使うが。

リィナが可愛いと思うのも、本当だ。

自分以外でリィナにちょっかいだす存在は消えれば良いと、素で思う。

シスコン上等。とライトはそう思う。


だってその方がリィナを存分にからかえるのだから。



若干どころか大分黒い思考を展開しながら、けれど表面上はにっこりと裏など全くないような良い笑顔でライトはリィナを見つめた。

途端、リィナが不振そうに軽く眉をしかめた。


条件反射のその反応に、内心苦笑をもらしながらライトは表情はそのままに、口を開いた。



「リィってば、そんな顔しても可愛いね」

「…っ」



リィナはその言葉に心底嫌そうにげんなりとした表情を浮かべて、無言で居間を出ようとライトに背を向け扉に向かった。


反応を返すからいけないんだ、よしスルーだ。スルーしよう。



そんな少女の内心の呟きが聞こえてくるような分かりやすい反応に、ライトの笑みが深まる。

その瞬間、不穏な気配を感じたかのようにびくり、と動きを止めてリィナが振り返った。

その顔には警戒心が溢れ出るほど浮かんでいて、ライトは更ににっこりと笑った。

生来の感の良さか、それとも物心つく前から側に居るからか、他人なら分かる筈の無い己の笑顔の違いに敏感に気付くリィナに嬉しくなる。



「どうしたの、僕のリィ?」



普段なら、誰がライトのよ!?と鼻息も荒く噛み付くように反論されるのだが、今回のリィナは、ライトの様子に頬を引きつらせながら用心深く口を開いた。



「い、いいえ。な、んでもない、わ」

「何だか顔色が悪いよ、リィ?風邪でも引いたかい?ああ、大変だ!今すぐベッドで横にならなきゃ、安静にしてないと駄目だよリィ。僕がずっと付きっきりで看病してあげるからね、僕のリィ。大丈夫。寂しく何て無いからね」



不自然な区切り方でぎこちなく喋るリィナを面白そうに見つめていたライトだったが、何とかリィナがしゃべり終えると、早口で畳み掛けるように一息にまくし立てながらリィナに歩みより、腕一本でリィナを子供だっこの要領で抱えあげた。



「何するのよ!」



ライトの素早い動きに対応しきれず、抵抗もせず抱えあげられたリィナは一拍遅れて非難の声をあげた。



「さぁ、ベッドまで抱っこしてあげるからちゃんと大人しく寝てようね、僕のリィ?」



にっこりと擬音が聞こえそうな程完璧な笑みを浮かべながらライトは優しく小さな子供を諭すような口調で返した。

リィナは怒気を堪え、普段より低い押さえた声音で感情を押さえ込むかのように殊更ゆっくりと喋りだした。



「ねぇ、ライト?貴方の妹の頼み、聞いてくれる、かしら?」

「可愛い僕のリィの頼みを僕が聞かないことなんて無いだろう?」

「聞いてな…っ…い、いえ、そうね。可愛い妹の頼みだもの。聞いてくれるわよね」


けろりと告げたライトの言葉につい反応しかけたが、何とか堪えリィナは最後まで言い切った。



「ねぇ、私元気なの。別に風邪もひいてないわ。健康だし今日は休日だし天気も良いし、在庫も補充したいから、薬草採りに行きたいの」

「うん。良いんじゃない?」

「だから寝てなく…っえ?そ、そうよね。良いわよね!じゃあ…」


行ってくるね。

そう続けようとしたリィナの言葉に被せるようにライトは素早く言った。



「僕も付いていくよ?1人じゃ危ないからね」



楽しそうに言うと、ライトはリィナを抱えたまま歩きだした。

その際、部屋のすみに常備している装備を手に取るのも忘れない。

その装備はライトのものだったが、採取するために必要なものは揃っている。



「離してよ!私の荷物!」

「リィナの装備は、僕がいるから必要ないでしょ」

「必要よ!何勝手な事言ってるのよ!?降ろしてよ!」

「だーめ。危険だからこのまま行くの」

「高々そこの裏山に薬草採りに行くのに何処に危険が有るのよ!」

「足場良くないし、リィが転んだら危ないでしょ」

「何処のコドモ!?」

「リィは危なっかしくて僕は何時も心配なんだよ?」

「だから何処のコドモよ!私は幼児じゃないんだからね!一人で行くんだから離してよ!」



怒りで頬を染めたリィナの様子を内心面白く眺めながら、ライトは心底心配そうな表情で言い募った。



「昨日寝ぼけて階段踏み外しかけたでしょ?無理して抱えた荷物で前が見えなくてぶつかって荷物散らばった事もあったよね?ついでにこの間何もない廊下で転けてたでしょ?」

「……ぅぅ」



言い返せないリィナはひくり、と頬をひきつらせ、悔しそうに唸りながらライトを睨み付けた。

羞恥で頬が染まったままライトを睨み付けるその様は、どこのお約束かと問わずにいられない位、可愛いとしか言い様の無い表情で、ライトは満足そうに笑った。



「さ、明るい内に帰ってきたいからさっさと出かけようね」

「……片腕で抱えあげて歩けるとか、おかしいわよ」

「ちっちゃくなったリィ抱っこしたのが楽しかったからね。クセになっちゃったかな」



悔し紛れに毒づいた小さな言葉に、ライトはにっこりと爽やかな笑顔を浮かべて返答し、今度こそリィナは言葉も出ず撃沈した。



もうやだこのシスコン…。



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