急転直下過ぎだし
「っきゃあぁっ」
何時かの再現のようにその部屋から悲鳴が上がった。
∞∞∞∞
フォルテに抱え上げられたリィナは不機嫌そうな様子を隠すこと無く周囲に撒き散らしていた。
「何でフォルテにまで子供抱っこ…うぅぅ…」
「遅いから」
「歩幅が違うんだから仕方ないでしょ!」
「抱えた方が早い」
「実利一辺倒な発言すぎ」
「当然だ」
「……どこまでも本当にライトの友達よね」
何なのよその傍若無人なマイペースさ加減はさぁ…
ぶちぶちと肩口で呟くリィナに無言で面白そうに視線を向けると、直ぐに無表情に戻り前を向いた。
目指す部屋に辿り着き、フォルテはリィナを抱えていない方の手でドアを開くとリィナを降ろした。
「ありがと、フォルテ」
その言葉にフォルテは片眉を器用に上げて答えた。
何だかんだ言いながらもリィナはこんな時素直にお礼を口にする。
たまに恥ずかしいのかそっぽを向きながら言い捨てるような態度の時も有るが、基本は目を見て礼を言う。
それを見ると、フォルテは何時も複雑な気分になる。
リィナのそれは本人の気質にも依るのだろうが、ライトの影響が大きい。
憤慨したり、邪険にしても結局リィナにとってライトが『特別』だという証のようで。
微笑ましいような、可愛らしいような…けれど微かに不快感も抱く。
人付き合いが苦手な自分と比べて羨ましいと言う感情も有るし、そうやって素直な感情を向けて来ることを嬉しいとも思うし。
複雑過ぎる上、全ての感情を自覚しきれていないフォルテは考える事を放棄した。
何れ、解るときも来るだろうし、焦ってもいない。
ちょこまかと動くリィナを見ながら無表情の裏でフォルテはぼんやりとそんな事を考えていた。
∞∞∞∞
リィナは器具や材料を手際良く使いやすいように並べていた。
実験は好きだ。
どんな実験をしようかあれこれ思索するのも好きだが、無心に作業に没頭しているこの時間はリィナにとって大切な時間だ。
無心で向き合う事によって新たな視点が得られる事もある。
何時もより勘も鋭くなるようだ。
先ずは調合だ、と手間の薬草を手に取った瞬間、目の端を何かが過ったような気がした。
「……ッ!」
リィナが反応するより早く、後ろから力強い腕で引き寄せられ、気付くと離れた場所で腕に抱き抱えられながら座り込んでいた。
「フォ…テ?」
「怪我無いか?」
至極冷静なフォルテの言葉にリィナは混乱しながらも自分の身体を見下ろす。
見えるところに異変はない…と思う。
「…た、ぶん?」
半ば呆然としながら律儀に返答するリィナに視線を合わせて、安心させるように一つ頷くと、フォルテは腕の拘束を解いてリィナの前に回った。
眼前には散乱した器具や材料があった。
幸い壊れた器具は無いようだが、辺りは大風に吹き飛ばされたような惨状だった。
そうして、風が発生したと推測される場所に子供が一人、こちらを睨み据えて立っていた。
「シーリン…」
呆然としたままのリィナがぽつり、と呟くと、子供がリィナを見て叫んだ。
「ずるいぞ!お前!」
「…は?」
地団駄を踏みながら叫ぶと癇癪を起こしたように力を振るった。
「っきゃあぁっ」
自分達に向かって来る突風に、リィナは驚いて悲鳴を上げた。
こんなとこで区切ってすみませんm(_ _)m