不審者はお互い様だ。
短くてすみません
数秒の浮遊の後、固い土の感触が足裏に届いた。
ぐらりと僅かに傾いだリィナの身体を、フォルテは抱き締めたままの腕で支えた。
「気分は?」
「…ちょっと揺れてるかな?すぐ治まる」
フォルテの腕に素直に体重を預けて瞳を閉じたまま、リィナは小さな声で返答した。
リィナはこの転移の浮遊感に弱かった。
体質的に合わないのか、講義で一度練習して以来自分では使わなかったし、どうしても使用する場合は、今のように誰かにしがみついていた。
瞳を閉じていても視界の裏が揺れていて、気持ちが悪くなる。
フォルテが支えてくれるからまだ辛うじて立っていられるが、そうでなければ座り込んでいるだろう。
リィナは瞼の裏でくらりと揺れる意識を手放せれば楽なのに、と思いながら込み上げてくる吐き気を堪えていた。
「いちゃつくなら他所で、と言いたいところだが、ソファを提供してやろう」
「誰だ?」
不意にかすかな足音と共に聞こえた声に、フォルテは弾かれたように視線をあげ、声の主を鋭い視線で見据えた。
手前にある建物の影から現れた一人の青年が、からかうような視線を向けながら口を開いた。
「俺の庭に入ったのはお前らだろう?」
「…私有地?」
その言葉に、フォルテは内心で舌打ちしながら改めて周囲に視線を向けた。
己の周辺には踏み固められた土の地面があり、その背後には境界線の様に森が広がっている。
前方に視界を転じれば、目の前にある壁は確かに居住らしき建物の一部のようだ。
ここは居住の裏手、といった所だろうか?
リィナの不調に意識を向けすぎ、今更外を認識したフォルテは、己の失態に苛立ちながら、目の前の青年に視線を戻した。
不可抗力とは言え、不法侵入だ。
謝罪は必要だろう。そして警戒も。
不審者なのはお互い様だ。
「飛ばされたか…問答は後だな、来い」
「……」
「限界みたいだぞ?」
「……わかった」
幾分躊躇したが、フォルテは頷き、リィナを横抱きすると、あるきだした青年について足を踏み出した。