オハナシしましょうね♪
いやいやいや。言葉は正しく使おうよ!
これのどこがイチャイチャ!?
ほのぼのであってイチャイチャではないよね!?
ないよね!??
脳内で盛大にツッコミをいれるも、それが声として変換されず、口をぱくぱくとさせていると、フォルテがくすり、と小さく笑った。
「フォルテっ!?」
「別に構わないが?」
「〜〜ッ!!」
笑声に、リィナはすかさず名を呼び咎めるような視線を向けた。
フォルテは、羞恥に少し頬を染めながらにらみ上げるリィナの様子を面白そうに見遣りながら、シーリンの言を肯定しても良い、と楽しそうに返した。
フォルテの珍しい言葉に、それがフォルテなりの冗談だという事が解っていながら、リィナは更に自分の顔が熱くなるのを自覚した。
脳内ツッコミだけが絶好調に駄々漏れる。
こ、子供のお茶目な発言に一々反応するなと!?
笑って受け流せと!?
否!
子供だろうと大人だろうと発言の価値は一緒なんです!
口にした言葉には責任てものが発生するんです!責任てものが!
こ、言葉は正しく使うものなんです!!
そんなリィナの様子に、面白そうにくっきりと口を笑みの形にしながら見詰めていたフォルテは、更に何か言おうと口を開いた。
が、その時、シーリンの怒声が被さるように響き、フォルテの言葉は口から出ることは無かった。
「だからイチャつくなー!!」
「い、イチャついてないわよっ!」
間髪入れず、リィナは叫び返した。
突然のリィナの叫びに、シーリンは一瞬怯んだような表情を浮かべたが、すぐに眉を吊り上げて、口を開いた。
「それがイチャついてなくて何がイチャイチャだ!」
「そんなの知らないし、イチャイチャじゃないし!」
「イチャイチャだっ!」
「違いますっ!」
子供の口喧嘩に成り果てた二人の会話にフォルテが呆れた視線を向けながら口を開いた。
「同レベル」
けして大きくもない、ただ淡々としたその言葉で、リィナは我に返り、へにゃり、と情けない表情を浮かべて上目遣いでフォルテを窺った。
「だ、だって」
「同レベル」
「…ぐっ」
問答無用で反論を却下されたリィナは、しょぼんと肩を落として項垂れた。
「お前失礼だぞ!?」
そんな様子に、シーリンが抗議の声を上げる。
リィナはその言葉に、視線を上げるが、何も言わずに小さくため息をついて直ぐに項垂れた。
「ほんとに失礼だな!」
シーリンがきゃんきゃんと利かん気な仔犬のように吠えたてるが、フォルテは頓着せずに問いかけた。
「それでリィナを連れていこうとした理由は?」
「ヒトの分際で気安く話し掛けるな!」
「…私もヒトだけど?」
「はぁ?お前がヒトなん…」
「はいはーい!イチャついてるに一票〜♪」
言いかけたシーリンの言葉に被さるように、突然後ろから第三者の声が届いた。
驚いて、彼らが振り返ると、ビーが物凄く愉快そうな笑みを浮かべながら楽しそうに片手をあげていた。
「ビー…何時から聞いてたの?」
「さぁね♪」
驚いた表情のままぼんやりとリィナが問いかけると、ビーは悪戯っぽく笑いながらそう返した。
フォルテは瞳に剣呑な光を浮かべながらビーを不審そうに見詰めた。
ビーはそれを知りながらもフォルテに視線すら向けずに、悠然とした態度を崩さなかった。
「とりあえず今すぐその腕を斬りたい位仲良しだよね」
リィナの守護の為とは言え、赦せないよね。
突然聞こえた物騒な台詞に、声の方向を振り返ると、にっこりと笑顔で危険な台詞を吐きながらシーリンの後ろから両方のこめかみを握り拳でぐりぐりと圧迫するライトがいた。
「は、はなせぇ〜うぐぅぅ〜」
「だ、大丈夫…?」
「あはは。大丈夫よ、ただちょぉーっと躾てる程度だもの」
「し、しつけ!?」
苦しそうに呻くシーリンに、思わずリィナはそう問いかけたが、ビーが代わりにあっけらかん、と回答した。
「そうそう。イタズラ小僧にはお仕置きが必要だからね」
「うぅ〜おま、なんかやっつっててて」
「全く。僕に喧嘩を売るのはともかく、敵わないからってリィを巻き込むとか、有り得ないよね」
ライトが軽い口調でビーの発言に追従しながら、今だ反抗するシーリンに更に力を込める。
シーリンの口から溢れる呻き声が大きくなった。
それでもシーリンは抵抗を諦めないようで、何とかライトの拘束から逃れ、反撃しようともがいていた。
騒がしいその様子に、リィナは最早なにも言えず、どうしてこうなった、と軽く現実逃避に走った。
「何故ダメージを与えられる?」
不意に今まで黙って成り行きを見ていたフォルテが口を開いた。
えっ、という表情でリィナはそんなフォルテに視線を移した。
「そういうものだからだよ」
「そういうものなのよ。それより二人でどっか行ってらっしゃい♪これからこのおバカさんにきっちりオハナシしなくちゃだから♪」
ライトとビーは、似たような笑顔を浮かべながらそう返した。
それにフォルテが反論する前に、ビーはさっさと転移呪印を発動させた。
「ちょっ!?ビー!?」
「帰りは自力で帰ってきなさいよ」
二人が抗うより素早く発動した呪印に飲み込まれて、二人の姿はすぐに消え去った。
「さっ。二人の様子も見逃せないし、とっととオハナシしましょうね」
にっこり、とそう言ったビーに、シーリンは抵抗を諦め、顔面蒼白になりながらがっくりと項垂れたのだった。