一難去ってまた一難?…もうオナカイッパイデス…orz
どうしてこうなった……。
目の前の光景を見ながら最近こんなのばっか、と少女は現実逃避に思考を巡らせた。
最早乾いた笑いしか、でなかった。
∞∞∞
「アイツやっつけてやる!お前!手伝え!」
いきなり小さな旋風が窓の傍に現れたと思ったら、そんな言葉が降ってきた。
はぁ?と疑問符を頭上に浮かべて呆けていたら、一瞬の浮遊感の後、下方に腕を力任せに引っ張られた。
「…ッ?!」
「お前!邪魔するな!はなっ…」
小さな衝撃の後、固くて温かい感触に包まれている事に気付き、驚いて顔をあげると、何時になく厳しい視線で誰かを見るフォルテの顔が至近距離にあった。
その鋭いまでの気配に、リィナは一瞬びくりと体を竦ませた。
それに気付いたフォルテは、労るような視線をリィナに向けた。
リィナは緩んだフォルテの気配に無意識に小さくため息をつき、体の強張りを解いた。
「どこか痛みは?」
「…ないと思うわ」
フォルテの問いに、さっと自分の体に意識を向けて確認して回答した。
それにフォルテは無言で頷いた。
そうして、一度謝るような視線を向けると、リィナを更に強く己の腕の中に囲いながら、顔を上げ、再び厳しい視線を目の前に向けた。
「どういうつもりだ?」
「お前こそ!ヒトの分際で邪魔するな!」
フォルテが低い声で問いかけながら指を鳴らすと、きゃんきゃんと子供特有の高い怒りの声が返ってきた。
さすがに耳に響いて、反射的に僅かに眉根が寄る。
フォルテが何故かもう一度指を鳴らした。
「シーリン?どうしてここにいるの?」
他人がいる状態でシーリンがいる事に驚いてリィナが小さく問いかけると、フォルテが口を開いた。
「さっきいきなり現れただろう」
つまり。
つまり?
こてん、と首を小さく傾げながら内心で素早く思考を纏める。
視界に入るのは、フォルテの腕と緑。そして不自然に体を膠着させたシーリン。よく見ると、シーリンの体にうっすらと幅広の紐のようなものが纏わりついている。
それを見て、リィナはフォルテが拘束術を使用したのだと納得した。
口にまで纏わりついているから、喋れないようだ。
先程指を鳴らしたのは口の周りだけ術を解く為だったようだ。
それはともかく緑…?
「シーリンがお前を転移させようとしたから、術の途中で割り込んだ」
的確にリィナの内心の疑問を読み取ったらしいフォルテが回答し、リィナは小さく頷いた。
どうやら室外に移動したらしい。
見慣れた景色から、学園の敷地内だと判断して、リィナは次の疑問に移る。
「移動先と理由は?」
シーリンに視線を向けて、静かに問いかけると、またフォルテが指を鳴らした。
「さっさと離れろ!何時までくっついてるんだ!?」
口の拘束が解かれるや否や、シーリンは甲高い声で怒鳴った。
言葉の意味よりも、状況よりも、耳が痛いな、とのんきな方向に思考を向けたリィナに気付いてフォルテが腕の拘束を若干強めて無言でたしなめた。
気を抜くな、って言われてもなぁ…。
リィナはその無言のたしなめを的確に読み取ったけれど、それで危機感を持てるかと言われても無理な話で、こちらも無言で無理と返した。
リィナはシーリンが自分を傷付ける事が無いと識っている。
理屈ではなく、本能に近いレベルで理解している。
これは、シーリンにも言えることだ。
シーリンは、リィナを傷付けない。
だからこそ、イタズラされて幼児になった時も、風によって叩き落とされ、砕けた硝子片が散乱していても、それが自分を傷付けるかも、という思考には結び付かなかった。
今だって、移動はさせられても、そこに危険があるかも、という思考は一切浮かばない。
仮に移動先に危険が有ったとしても。
例えば、ヒト、がリィナに危害を加えようとしたら。
その時は。
例えどんな状況であろうとも、攻撃がリィナに届く前にシーリンが防ぐだろう。
日が東から昇るのが世界の理だと言うのと同じくそれが正しく真実だ。
とは言え、リィナとて危機感が欠落している訳では、ない。
大人しくフォルテの腕の中に居るのは、最低限の危機感と、それが現状一番正しいと理解しているが故だ。
フォルテに抱き締められている現状は、色めいた理由ではなく、守護の為、とリィナは正しく理解している。
そしてそのままでいる事が、お互いの安全性を高めることも諒解している。
だからリィナは、それを何と思うことなく、そういうものだと受け入れており、慌ても暴れもせず、そのままで居るのだ。
が、それを諒解して尚、フォルテはリィナをたしなめずにはいられなかった。
一方のシーリンは、そんな状況も何も考えず、ただ幼い感情のままに離れろと喚きたてる。
「ん〜。離せる?」
「却下」
「あのね?シーリンが私を傷付ける事は無いよ?イタズラの時、ライトは怪我の有無すら聞かなかったでしょ?」
「却下」
リィナは、その様子に困ったようにへにょっと笑みながら、フォルテに拘束を解く気になるか、と問いかけた。
それにフォルテは間髪入れず、否やの返答を返した。
フォルテにしてみれば、傷付けないと言われても、納得しきれる筈もないし、リィナとてこの感覚を説明しきれる筈も、ない。
どーしたものかなぁ〜。とのんきに思考を巡らせるリィナに、呆れた視線を向けながらも、フォルテは少し譲歩して腕の力を緩めた。
それに気付いたリィナは、嬉しそうな笑みをフォルテに向け、フォルテも微かに和らげた視線を返した。
そんなほのぼのとした一幕に、シーリンは更に怒りの声を上げる。
「イチャイチャするなー!!」
「いっ…!?」
そんな意識など欠片もないリィナは驚いてシーリンに視線を向けた。