災難は続くよどこまでも…いらないわよっ!
「…あ」
その場に、気不味い空気が流れた。
∞∞∞∞∞
あれから。
表面上は何事もなく、というか起こさせるもんか!という勢いで周囲を警戒していた。
その様子が旗から見たら立派な挙動不審だったことにリィナは気付いていなかったが、とにかく必死だった。
よく考えて見ないでも、ライトと共に居たから接点があったフォルテと遭遇する機会はそう有るものでは無いし。
ビーはからかっては来るが、手を出したりはしない事をリィナは知っている。
それでも猶、リィナは過剰に反応することを止められなかった。
だが。
過剰に反応すればするだけ。
見たくない、と思ったら思っただけ。
その対象との縁が強くなるのか、リィナが彼を見かける回数が一段と増え、更に過剰反応し、発見率を増やすという悪魔のごとき無限ループに陥っていた。
せめてもの救いは、リィナが見かけるだけでフォルテは気づいていないことだろう。
とにかく、回避あるのみ!と内心固く誓ったリィナだったが、この日この時。
遂に彼女が恐れていた『最悪の事態』が訪れたのだった。
∞∞∞∞∞
目の前で立ち止まり、不思議そうにリィナを見下ろすフォルテと、尻餅をついたまま驚いた猫のように彼を見上げて固まるリィナ。
「…あ」
驚きの余り無意識にリィナの唇から1音漏れるが、それが言葉として続く事は無かった。
曲がり角で不意にぶつかる…どこのベタな展開だと、端から見たら野次馬根性を盛大に煽られる状況で、彼らは遭遇してしまった。
身体毎、思考回路を凍結させたリィナの脳裏には『どうしよう』の単語だけがぐるぐると回っていた。
「大丈夫か?」
いつまでも座り込むリィナに不思議そうな表情を浮かべながらフォルテは手を差し出した。
その場の居たたまれなさに今すぐ逃げ出したい衝動に駆られていた少女は、その言葉に弾かれたように勢い良く立ち上がり、脱兎の如く走り去った。
「ごめんなさいっ」
捨て台詞のように残された言葉に、やはりフォルテは不思議そうに小さく首をかしげたのだった。
∞∞∞∞∞
「…あぁもう、何やってんの私」
手近の空き教室に駆け込むと、扉に背を預けてずるずると床に座り込んだ。
逃げてどうする!とリィナは自分を罵る。
フォルテから逃げられても、自分からは逃げられない。
これは愛じゃない。恋でもない。
イヤになるほど幼い感情。
リィナはぎゅっと固く目を閉じて膝を抱えて縮こまった。
自己嫌悪に瞳が潤んだ、その時。
不意に後ろから柔らかい腕にぎゅっと抱き締められた。
「〜〜っ!?」
驚愕の余り、目を見開いてそのままの状態で固まったリィナの耳に、笑い混じりの声が届いた。
「びっくりした?」
「〜っびーっ」
聞き慣れた声に、リィナは早鐘を打つ心臓を宥めながら扉から少し背を離して顔だけ振り返った。
リィナの視界に、愉快そうに唇を笑みの形に歪ませているビーの上半身が写る。
扉を半分すり抜けた状態で抱き着くビーの姿はシュールな光景だった。
そういえば半透明なのになんで感触が有るんだろう?と真っ白になった頭の片隅で現実逃避気味に考えていると、ビーは楽しそうに爆弾を投じた。
「逃げちゃうなんてそんなに恥ずかしかったの?」
「〜〜〜っ」
出歯亀されていたことに気付いたリィナはがっくりと脱力したのだった。