か、勘違いしないでよねっ!
男子禁制女子トークの巻です。
お料理の最大の隠し味は愛情、だそうだ。
美味しくなぁれ(はぁと)、と真剣にキモチを込めて作る、のだそうだ。
正直そんなめんどくさいこと日常的にやってられませんが。
たまにやるからそう出来るのであって、毎日やってたら条件反射みたいに考えなくても適当に動いちゃうから無理だと思うのは、私だけ?
というかなんだよ、最後のはぁと!と聞いた瞬間ツッコミが炸裂しましたがね。
…うん。彼氏出来立ての浮かれ鴉が聞いてもいないのにノロケてきた話だしね。
あれ?浮かれ鴉は男性を指すから、女性には使えなかったっけ?…じゃなくて愛情なら愛してるとか大好きじゃなくて良いのかな?
まぁ、でも料理は『美味しい』から良いのか、な?
としたら、ここで何か言いながら擂り潰したら効き目倍増とかあったりする?
「美味しく…ではなくて良くなぁれ?早く効き目出ろ?あれ?でも不味いと飲み辛いから美味しくなぁれ、でも間違ってないよねぇ?」
「主語はどこ!?あたしはあんたの思考回路辿れる能力ないわよ!てかあってもお断りよ!それともでかい一人言?スルーして良いの?あんたの会話の八割はスルーすることになるけど?」
「…?思考回路?どうしてそんな話になるの?」
「ッ!あんたのそーゆーとこホント腹立つわっ!」
がぁっ!と一応年頃の乙女、としてどうかと思う吼え声を上げながら、隣で調合していた少女が言い放った。
それを何時もの事だと動じることなくのんびりとリィナは口を開いた。
「良くわかんないけど、とりあえずごめん?」
「解ってないのに謝るな!しかも疑問型とか喧嘩うってんの!?」
「いやぁ〜話進むかな、と」
「謝る前に脳内会話の結果だけ口走るのを止めればすむ話でしょーが!気付きなさいよ!」
「う〜ん…ムリ?」
「あっさり諦めないでちょーだい!ていうかそのマイペースっぷりあんたたち兄妹そっくりよ!」
「ちょっ…!あの性格破綻者と一緒にしないでよ!」
少女の台詞に、喋りながらも動いていた手を止めリィナは声を荒げた。
慌てたせいで若干擂り鉢の中身が溢れたが、乾燥しきった葉っぱなので良しとしよう、と頭の片隅で妙に冷静に判断する。
そして別の回路であのはた迷惑な存在と一緒にされるなど冗談じゃない、とリィナは思う。
その様子をふんと鼻であしらいながら少女は口を開いた。
「事実じゃない。何だかんだ言いつつ結局あんただってブラコンだし」
「……ぐっ」
「ほら見なさい」
なまじ自覚が有るだけに微妙に言い返せないで詰まるリィナの様子を見ながら、少女は勝ち誇ったように止めを指した。
「うぅぅ〜」
止めを刺されたリィナはぺしゃりと机に懐いて呻いた。
「やっぱ私、恋愛とか出来ないかなぁ?」
「色んな意味でムリね!」
「ちょっとは気を使おうよ!即答かつ言い切るとか、ヒドクない?」
「シスコンの兄がいる。ブラコンである。オマケにニブイ。この事実の前に即答出来ない要素がどこにある訳?」
「うぅぅ〜」
あまりのショックに口から魂を半分程吐き出していそうなリィナの様子に、少女は遠慮なく、笑い転げた。
その態度にリィナは机にうつ伏せたまま恨めしそうな視線を向けて剥れた。
「ビーひどい」
「だって面白いもの!…で?何でそんな話になるのよ?あんた、恋愛に興味ないでしょう」
「…な、ンデモござイませン、よ?」
「ほんっと嘘つくのヘタよね。抑揚も発声もメタメタよ」
はんっ、と軽く鼻で笑ったビーは、実にイイ笑顔でリィナを見た。
その様子にリィナはイヤそうに半身を起こして身を引いた。
「んふふ〜。誰かに告白でもされた?」
「ナニソレ、ってか私を好きな物好きいるわけないし!」
「素の発言てのがイタイわよね、刷り込みされた点は同情するけど」
呆れたように返したビーの言葉に条件反射で反論しようとして、リィナはぐっと押し黙った。
今までの数少ない人生経験から鑑みても、多分ビーの言葉は正しい、のだと思う。
誰か知らないけれど、そういう風に自分を見るヒトがいる、という事に、リィナは軽く戦いた。
誰とも知らぬ相手に知られている、という未知のモノに対する嫌悪感と、とっさにそう思う己の精神の未発達さに、苛立ちに似た気分を覚えて、リィナは別の方向に思考を逸らした。
そして自分に向いた視線に気付いてない、というよりはライトに上手く逸らされて疑わなかったのだ、とリィナは結論付けた。
今でこそ反発し、うっとおしいと思う事甚だしいが、リィナは物心つく以前から巧妙にライトに洗脳よろしく刷り込まれたのだ。
乱暴に言ってしまえば、ライトの意思はリィナの意思。
どんなに抵抗したって結局の所最後は、ライトの意思を受け入れて疑問に思う事もない。
傍に居て良いのは、ライトが認めたヒトだけ。
ライトが認めないなら知らない内に遠ざけられて、その事実すら、リィナは気付かない。
今みたいに気付いたとしても。
ライトが遠ざけたなら仕方ない、とそれで済ませてしまうだろう。
寂しく思ったとしても、自分から近寄ったりはしないだろう。
そう、当たり前のように思う自分がいるのを自覚する。
こんなんじゃ、恋愛なんて先ず無理だ。
それ以前の問題だし。
そう。フォルテの事だって…。
「告白された訳じゃないなら、自覚した?離れてみて気付いたキモチ、な〜んてベタな展開だったり?」
「なっ…だっ…じか…?」
まさにある意味『離れてみて気付いたキモチ』について考えていたリィナは、あまりのタイミングの良さに、盛大にどもって慌てた。
ビーは、そんなリィナの様子に一瞬驚いたように目を丸くしたが、次の瞬間には玩具を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべた。
「あら、何だか楽しそうな事になりそうね」
じっくり、ゆっくり聞かせて貰おうかしら。
がしりと肩を掴まれて退路を絶たれたリィナの顔はさあっと青ざめた。
何かを盛大に勘違いされた、というのは解ったが、それが何かさっぱり検討もつかないリィナは、回らない頭であわあわと回避策を考えるが、よい案が浮かぶ訳はない。
どうしたものか。
空回りする頭でリィナは逃げ道を探した。