謎解きとは呼べない中途半端さは苛立つだけだな。
お待たせ致しました。
「これが真実だよ?どう?感想は」
そう言って長い1人語りを締め括ったライトは、口元ににこやかな笑みを貼り付けてフォルテを見やった。
フォルテは何度か口を開きかけては閉じるのを繰り返してからやっと意を決したように、ライトを見ながら口を開いた。
珍しく困惑しきった様子を見せるフォルテを面白そうに観察しながらライトは彼の言葉を待つ。
「先ずもって誰も本気にはとらない話だが…お前がからかってるようでもない。真実、と受け取るべきだろうな。お前達に対する謎がまた増えた」
「あれ?納得しちゃうの?こんなふざけた話」
「ふざけてる、が嘘だとは思えない、が正直なところだな」
「ふうん。フォルテってさ。実は騙されやすいタイプ?実はすっごい単純?」
「そう思うか?」
「はは。どうだろうね?ところでここの図書館の禁書、読んだことあるでしょう?確か…『生と死の端境期』だったかな。学部長の許可印章が鍵になってる奥の閉架書庫の本」
「っ!?…読んだが、どうして?」
良く許可がでたね、とのほほんと続けたライトをぎょっとしたようにみながらフォルテは返答した。
「それ読んでかつある程度飲み込んでないと、こんな話拒絶するだけだからね。間違いだらけの考察でしかないけれど、その発想が浮かんだだけ凄いよ、あの作者」
若干作者に対する興味を覗かせながらライトがそう告げると、フォルテは納得したように頷いた。
件の書物は、お伽噺と、そして一部の(酔狂)な神殿関係者しかしらない口伝(生の男神が自らの存在記録を消し去った)を下敷きに考察を繰り広げている。
口伝自体、上層部でしか知り得ない情報だったが、作者は神殿関係者ではない。
正体は明かされていないが、これは確実な話だという。
何でも神殿上層部だけが知るアルス・マグナ(大いなる秘術)を使い、神殿関係者全員を調べあげたらしい。
結果、全員シロ。
情報提供者すら存在しなかったそうだ。
故に、何故作者が口伝を知り得たか、は今もって謎だ。
ついでに作者探しもうやむやに終わった。
さすがに関係者以外には強行手段を取れなかった為だ。
余談ではあるが、件の書物は自費出版のようで一冊しか存在しない。
ある日当時の王の執務室のテーブルにこれ見よがしに置かれていたそうだ。
書痴の気味がある王は目の前の餌にうっかり釣り上げられ、神殿関係者に議論をふっかけた。
曰く、この説の根拠と推論の正当についてどう思う、と。
神殿関係者達はそれで書物の存在を知り、怒り狂った。
件の書物を廃棄処分しようとしたが、本の形態をしているものを棄てるのはイヤだと王が異を唱え、棄てろ、イヤだの押し問答になった。
低次元の争いに頭を抱えた時の宰相が妥協案を出して終息させたそうだ。
それがこの学院の閉架書庫(鍵付)への保管だった。
それの存在を知るのは学院長と司書のみ。
閲覧の許可を得る為の条件達成はほぼ不可能なものとされた。
王は本が棄てられるのはイヤ。
神殿関係者は本が衆目に晒されるのはイヤ。
妥協点としては妥当だろう。
今では許可を得る条件は当時ほどでは、無いけれども。
というか存在すら、ほぼ知られていない。
認知度は口伝をしる人数より少ないだろう。
「成る程。確かにさっきの話とは随分違うな。それで。何故お前はそんな話を知っている?そしてシーリンがリィナの前に顕れ、更にリィナに『絶対に危害を加えない』とお前が確信するのは何故だ?」
マイナー中のマイナーな情報を知り、かつその真偽も確かめたらしい、酔狂な変人の問いかけに、ライトはにっこりと心底楽しそうに笑いながら言った。
「全てに答えが得られるなんて思ってないよね?」
「ならば何故お前は俺の見える所でシーリンを近づけさせたんだ?」
知られたくないなら。教えたくないなら。
シーリンを近づけなければよい。
ライトは確かにシーリンを排除出来るのだから。
フォルテの不満そうな表情を可笑しそうに見ながらライトは口を開いた。
「どうして、だと思う?」
考えてご覧。
これ以上はどうあっても聞き出せない、とその態度から理解したフォルテは、不機嫌そうに小さく唸った。