事実を受け止める覚悟は、あるかい?
世界の成り立ち…の神様サイド。
ヒトサイドは後程。
その昔。
イノチとは生まれるだけのものだった。
イノチには終わりがなかった。
終わりの無いものが際限なく生まれた。
生まれ、続けた。
世界という名の器の許容量を越えて、尚。
どうなるか、解るよね?
そう。溢れて、そして圧迫された。
その苦しさから、『負』が生まれた。
己の領域を確保するために、お互いを喰らい合い、壊し合い、『死』が生まれた。
概念としてではないよ。
全てを憎み、飲み込む『死』という名のイノチが顕れたんだ。
概念が出来たのもこの時だけども。
で、だ。ソレは全てを貪った。
この世界だけじゃなくて全ての時空間、膜をも壊し去ろうとした。
え?この世界の外には不可視の膜があるだろう?その向こうには別の膜があり、それに包まれる世界があるってのは知ってるよね?
そう。隣接してるけれど、干渉し合う事の無い空間。
次元を越えて把握出来るのは管理者だけなんだけど、『死』の憎悪、飢餓は凄まじかった。
本来なら感じ取る事すら出来ない筈の『外』を認識し、そして蹂躙する程に。
幾つかの世界が『死』に飲み込まれて消え去った。
世界を隔てる膜も失われた。
だから自分達の世界を守る為に、一組の男女がこの世界に降り立った。
その時、この世界は崩壊していた。
大地が辛うじて残っているだけで、後は『死』しか居なかった。
残っていた大地すら、エネルギーのほとんどを失い、枯渇寸前だった。
何にも。何にも無かったんだ。
え?大地が残っていた理由?とりあえずの足場が必要だったからだよ。
それだけ。さすがに飛べなかったみたいだし、飛べたとしてもそれを維持する力を意識して制御し続けるのは面倒じゃない?
その点大地なら重力が縛り付けて勝手に支えてくれるし、使うの体力だけだろう?体力なんて不随意運動だからね。
さて。話を戻すよ。
彼らは管理者だったから、この世界の理に干渉出来た。
能力的にも、精神的にも、『死』と相対しても対抗出来る力を持っていた。
激闘の末、彼らは『死』を封じる事には成功した。
代償は女神の魂。
そう。女神。
お伽噺の死を司る女神。
皮肉なものだね。『死』を封じて、自らも死んだ女が死を司る女神だなんて。
彼女は持てる力全てを使い果たし、魂が粉々に砕け散った。
欠片はこの世界のあらゆる場所に飛び散った。
彼女の身体は、『死』を封じる為に天へと高く高く伸びゆく大木に変じた。
柔らかな暖かい大木の裡で癒しの眠りについた『死』は、眠りながら徐々にその力を浄化されているんだ。
理をどう変えても、殺すことが出来ないんだ。
少しずつ浄化し、大地に還元するしか無いんだ。
もう一人の管理者も、ぼろぼろだった。
女神がその身を大木に変えた後、彼もまた全ての力を使って、彼女が枯れないように湖を造り、そして僕らを創った。
肉身を纏い、エーテルを取り込んでエネルギーを過剰に吐き出すヒト。
精神だけを纏い、ヒトが吐き出すエネルギーを飲み込むシーリン。
全ては女神の為に。
女神が蘇る為に。
知ってるよね?
空気の組成成分。窒素と酸素が殆どで、水素とかヘリウムとかあるだろう?
そして教科書にはその他として表記されている中に、クリプトンとかキセノン、そして魔力の源であるエーテルがあるね。
ヒトはこのエーテルを取り込んで魔法を発動する。
発動した際に生まれる余剰エネルギーは、放置すると世界を崩壊させる。
それを補う為にシーリンがいるんだ。
ヒトが吐き出すエネルギーを取り込んで分解してエーテルとして大気に還元する。
還元出来なかった要素が魂に蓄積され、それが満たされた時、シーリンは死ぬんだ。
死した魂は大木に吸収されて浄化に使われる。
そして搾りカスが湖に流れて、そこから新たな供給源…っと失礼。新たなイノチが生まれるんだよ。
ああ、ちなみにヒトも同様だよ。
生きているうちはエネルギーを造り続け、死んだらシーリン同様その魂が浄化に使われる。
そう。思い付くだろう?男の方は生の神だよ。万物の父神にして太古の昔にその存在の記憶を自ら消し去った名無しの神。
彼は女神しか見ていないんだ。
1が女神で2、3が無いんだよ。
ここに来たのも女神が来たからだし、ついでに女神に荒事を押し付けたヤツラは彼が魂諸とも消し去ったよ。女神は知らないけどね。
これがこの世界の神話。
イノチの存在意義だよ。