表と裏
木の根
「居る…?輝鈴」
「輝鈴さん」
木の根に入って行く秋雨とハ-ト
「来たのか」
座っている天鹿和
「…輝鈴さん」
「天鹿和で良いぞ、秋雨」
「慣れん呼び方はするな」
「…はい」
「輝鈴…!!」
「ハ-ト…」
「誰?アナタは」
「秋雨は知ってるけど」
「え…?」
天鹿和の隣に木が座っている
「誰?その女の子」
しかし、その姿は以前と変わって少女と化している
「木だ」
「秋雨が生み出した」
「秋雨が…?」
「そんな変態を見るような目をしないでください」
「木を実体化させただけですよ」
「「実体化」…」
「秋雨が居なくなってから、エネルギ-量が大幅に減った」
「姿を小さくして、消費を抑えてるけど…」
「そうなの…」
「それより、天鹿和さん」
「どうして船から居なくなったんですか?」
「…仕方ないだろう」
「表を抑えるためには」
「表を…!?」
「どういう事!?輝鈴!!」
「…お前達も知っての通り、表はメタルを殺した」
「その後…、壊れた」
「…」
俯くハ-ト
「俺は表を抑え、俺が俺に、天鹿和 輝鈴になるようにした」
「俺の思惑通り、俺は俺になったが…」
「帰る場所がなかった」
「え…?」
「当たり前だろう」
「計画の、戦闘の、戦力の要を殺したんだぞ?」
「それに裏切った」
「幾ら俺がした事ではないとは言え、そこまでして奴達と行動するワケにはいかない」
「…天鹿和さん、聞いてください」
「何だ?秋雨」
「天鹿和さんがメタルさんを殺したのは、金田さん達が仕組んだ事です」
「全て」
「…そうか」
「まぁ、予想は付いていたさ」
ため息をつく天鹿和
「考えてみれば変な話だ」
「メタルが俺に気付かないはずがない」
「…それも含めて、全て話します」
「お前、誰から聞いた?」
「イトウさんから」
「全て…、聞きました」
「…話してくれ」
「…まず、天鹿和さんを殺したのは青龍さんで間違い有りません」
「でもメタルさんは青龍さんを殺してない」
「…ッ!!」
(表ェ…!!)
頭を抑える天鹿和
「輝鈴!!」
「良い…、続けてくれ」
「先刻、言った通り、メタルさんは青龍さんを利用して天鹿和さんにメタルさんを恨むように仕向けました」
「この計画のために」
「…そうか」
「青龍さんはハジャの計画によって、ヤグモ側に着きました」
「でも、ヤグモは青龍さんを紋章の代行用として殺した」
「…ッ!!」
「今回の計画では、ヤグモやハジャによって犠牲になった人々を蘇らせましたが…」
「例外として、ハジャやヤグモの仲間は蘇らせてません」
「青龍さんも」
「…それが良いだろうね」
木が呟く
「厳密には、蘇らさないのではなく、蘇らせれない」
「え…?」
「ともかく、彼がどうするかは解らないけど、ヤグモ側に着いていたのなら…」
「…ちょっと待て」
「何ですか?天鹿和さん」
「ヤグモの能力で、体内に爆弾を仕込むことが出来る能力が有ったはずだ」
「それで従えていたんじゃないのか?」
「…それも有りません」
「あの能力はエネルギ-純度と戦闘力が低い人にしか使えないそうです」
「青龍さんのエネルギ-純度と戦闘力はかなり高かったかと…」
「…解った」
「コレで疑問は全て解けたな」
「…もう1つ、残ってます」
「天鹿和さんの表と裏についてです」
「コレについては心配は要らない」
「俺が自らの能力で…」
「違います」
「…何だと?」
「それはハジャが仕組んだ事です」
「記憶も偽物」
「…待て、何が言いたい?」
「…青龍さんは青龍さんではなかった」
「機械と同じです」
「秋雨!回りくどい言い方はするな!!}
「何が言いたいんだ!?」
「…天鹿和さん、アナタは裏ですか?」
「そうだ」
「俺は裏だ」
「…アナタは天鹿和 輝鈴」
「そして、表は…」
パサッ…
巨木の葉が地に落ちる
「…何だと?」
「何度でも言います」
「天鹿和さんの表は…」
「待って!秋雨!!」
「そんな事!有り得るはずがない!!」
「有り得ます」
「それが真実です」
「バカな…!!」
「天鹿和さんの表も気付いてないはずです」
「自分の魂が青龍さんの物であると」
「ですから、天鹿和さんの中に有る魂を引きずり出して青龍さんに入れる事は出来ない」
「そんな事が…!!」
「イトウさんが言うには、ハジャは1人の体に複数の魂を入れ、月神の模造品を作ろうとしていたんです」
「それの最初の実験台が天鹿和さんです」
「…俺が?実験台?」
「そうです」
「しかし、実験は失敗しました」
「天鹿和さんの体は限界を向かえ、青龍さんの体はもぬけの殻と化した」
「…!!」
「そして、ハジャは天鹿和さんを捨てた」
「不要物を破棄するように」
「天鹿和さん、元から青龍さんは死んでいなかったんです」
「アナタの中で生き続けています」
「…待ってくれ!!」
「青龍の体は!?誰が中の魂として入っていた!?」
「解りません」
「動物の魂を入れていたんだと思います」
「何て事を…!!」
「待って!そんな事、知らないわよ!?」
「君達の記憶も変えられた」
「そう言う事じゃない?」
「…!!」
「…以上が真実です」
「…くそっ」
小さく舌打ちする天鹿和
「マジかよ…」
「結局、俺は利用され続けただけか…」
「…そうです」
「…情けねぇ」
「情けねぇなぁ…、俺」
「輝鈴…」
「…仕方のない事だ」
「君の予想の付かない世界で歯車は回り、それが崩れ、君の目前に現れた」
「それだけだよ」
「…そうかもな」
「…ねぇ、輝鈴」
「何だ?ハ-ト」
「帰ろう…?」
「一緒に帰ろうよ」
「…駄目だ」
「俺に帰る場所は無い」
「有るよ!!」
「秋雨の学園も!私達の所も!有るから!!」
「…駄目だ」
「どうして!?」
「俺は帰るわけにはいかない」
「表が暴れだし、お前達に危害を加えるかも知れない」
「俺が限界を向かえ、お前達に危害を加えるかも知れない」
「そんな…!!」
「…すまない、ハ-ト」
「「もう、誰も傷付けない」…、それが俺の信念だ」
「…そう」
悲しい目をするハ-ト
「…学園にも帰らないんですか?」
「勿論だ」
「…解りました」
「ああ、秋雨」
「何ですか?」
「会長に伝えてくれ」
「「会長就任は辞退する」ってな」
「え?」
「俺が会長になるはずだったんだが…」
「仕方ないだろ」
「…そうですか」
「解りました」
「頼む」
「…輝鈴、会いに来るから」
「ジョ-カ-達と!会いに来るから!!」
「ああ、土産もよろしく」
「僕も来ます」
「皆と一緒に」
「…お前達、そんなに悲しい顔するなよ」
「一生、会えないわけじゃない」
「…そうね」
「さて、今日は帰ってくれ」
「ここを住みやすく変えなきゃいけない」
「僕も手伝いますよ」
「いや、遠慮しておこう」
「俺だけでやっておく」
「…解りました」
「また来ますね!!」
「ああ、来い」
「木と待ってる」
「はい!!」
歩いて行く秋雨とハ-ト
「ここに住むのか?」
「おいおい!「寂しくなったら、いつでも来い」って言ったのは誰だ?」
「…解った」
「物解りが早くて助かる」
「…そりゃどうも」
読んでいただきありがとうございました