月神の村
「ここが私の村…」
小さな村の前に立っている月神と秋雨
「懐かしい…」
月神の目から涙が溢れ出す
「月神さん、泣くのは早いですよ」
「彼氏さんに会ってからでないと」
「そうだね…」
涙を拭う月神
「行こう」
月神の村
「…誰だ?」
「さぁ…?」
村人から避けられている2人
「何だか…、避けられてますね」
「当たり前だよ」
「私を覚えてる者は、もう殆ど居ない」
「そうなんですか…」
「私が居なかった時間は長すぎた」
「誰も覚えてないかも知れない…」
「もしかしたら、彼も…」
「そんな事、有りません!!」
「秋雨…」
「この村にも!月神さんを覚えている人は、きっと居るはずです!!」
「…ありがとう」
歩いて行く2人
「お姉ちゃん!リュ-ラお姉ちゃんだよね!?」
「え?」
小さな女の子が月神に近づいてくる
「私…?」
「やっぱり!間違いないよ!!」
「皆!リュ-ラお姉ちゃんが帰ってきたよ-!!」
「リュ-ラ?誰だ?」
「覚えてないの!?もの凄く昔、村から居なくなった…」
「ああ!あのリュ-ラか!!」
「リュ-ラ!帰って来たのか!!」
「旅はどうだった!?」
「え…?「旅」って…?」
「皆!リュ-ラだ!リュ-ラが帰って来たぞ-!!」
村の家々から出てくる村人達
「リュ-ラ!土産は有るか!?」
「皆、待っていたんだぞ!!」
「お前は忘れてただろ-?」
「うるせぇ!!」
月神を囲む村人達
「み、皆!ちょっと待って!!」
「ん?どうした?」
「私の名前って…、「リュ-ラ」って言うの?」
「何を言ってるんだ?当たり前だろ」
「どういう事…?」
バサッバサッ!!
「え?」
月神の頭に鳥が降り立つ
「月神、聞こえるか?」
「和風!?」
鳥からは和風の声
「何だ!?鳥が喋ったぞ!!」
「どんな仕掛けだ!?」
ざわめき出す村人達
「とりあえず、一度、村から出てくれ」
「わ、解った」
村の外
「どういう事?和風」
「私は生け贄として死んだはず」
「旅に出てたなんて…」
「記憶を改造した」
「「改造」とは言え、お前が生け贄ではなく旅によって村から出て行ったと言う事に変えただけだ」
「イトウの協力もあって、ミスはないはずだ」
「…彼の記憶も?」
「それは本末転倒だろう?」
「彼の記憶は変えてない」
「もう1人も、な…」
「「もう1人」?」
「…何でもない」
「…?」
「…まぁ、…ありがとう」
「私の名前は…」
「「リュ-ラ」だ」
「良い名前じゃないか」
「…本当に?」
「ああ、本当だ」
「彼に会った時…、彼が私に言ってくれる言葉は本物?」
「…記憶を変える事は簡単だ」
「だが、思いを変える事は難しい」
「その事を誰よりも知っているのは…、月神、お前じゃないのか?」
「…そうだね」
「この鳥から接続を切る」
「秋雨、後は頼んだぞ」
「…はい」
ブツン
「クエッ?」
「行きなさい」
鳥を飛ばす月神
「…行こう、秋雨」
「彼に会いに…」
「…はい」
小さな小屋
ガチャ…
「居る…?ライン」
小屋の隅に立っている1人の男
「ライン?ラインなの…?」
「…違う」
「ラインではない」
「誰…!?」
「忘れたか?儂を」
「…ッ!!」
「お前を生け贄にした男だ」
「忘れたわけではあるまい」
「村長…!!」
「和風が言っていた「もう1人」って…!!」
「儂の事だ」
「村人の記憶を改造すると、和風殿が言ってきたとき、儂は頼んだ」
「「儂の記憶は残していて欲しい」と」
「どうして…!?」
「謝りたかったから、だ」
「お主とラインを引き裂いたことを」
「…今頃?」
「同じ過ちを!2回も繰り返して!?」
「…ラインも同じ事を言った」
「確かに、その通りだ」
「…ラインは何処?」
「ライン、出てくるが良い」
ガタン
月神の後ろに1人の人影
「ライン…?」
「久しぶりだな…、リュ-ラ」
「本当に…、何年ぶりだ?」
「解らないわよ…!!」
「リュ-ラ…!!」
「ライン…!!」
抱き合う2人
「本当に…!久しぶり…!!」
「本当に久しぶりだな…!本当に…!!」
「…そこの君、秋雨君かね?」
村長が秋雨に声をかける
「は、はい!!」
「少し、来てくれ」
「え?」
「リュ-ラとラインは、この小屋で話をしていると良い」
「儂は彼に用が有る」
村長の家
「すまないね、急に連れ出して…」
「いえ…、構いません」
「…」
茶を飲む村長
「その帽子…、メタルの物かい?」
「はい…、預かってます」
「…そうか」
「…村長さん、1つ聞いて良いですか?」
「何だね?」
「月神さん…、いえ、リュ-ラさんの事です」
「それに、ラインさんも」
「…良いよ」
「あの2人は、これからどうなるんですか?」
「…解らない」
「リュ-ラの能力を欲しがる者も居るだろうし、それが襲ってくるかも知れない」
「だが、儂が彼達を村から追い出すことはない」
「それが、儂が決めた信念だからな」
「…そうなんですか」
「儂は、あの2人に謝らなければならないのだろう」
「だが、謝ることは許されない」
「え?」
「儂が謝ると言う事は、過去の行為を「過ち」と認めることになる」
「それは真実だ!あの行為は「過ち」だ!!」
「だが…、儂が謝り、あの2人が満足すればどうなる?」
「…?」
「儂は許されるだろう」
「だが、その代わりに彼達が憎むべき存在は居なくなる」
「彼達には…、「過ち」を犯した儂を憎んで貰わなければならない」
「儂自身への戒めと、2人のために」
「…違うでしょう」
「…そうだ、その通りだ」
「正しい方法ではない事ぐらい、儂にでも解る」
「だが、解らんのだ」
「思いつかんのだよ、別の方法が」
「…僕にも解りません」
「だから、自分で考えてください」
「…手厳しいね」
「はい、手厳しいです」
「アナタが犯した過ちの後始末はアナタがしてください」
「…そうだな」
立ち上がる村長
「君には礼を言わないといけない」
「よく、リュ-ラを連れ戻してくれたね」
「僕じゃないですよ…」
「メタル達さんです」
「そうか…、彼達が…」
「…うん、解った」
「それじゃ、失礼します」
「行くのかい?」
「…はい」
「後一つ、成すべき事が有りますから」
「…まぁ、待ちなさい」
「挙式ぐらいは見ていくと良い」
「「挙式」?」
「リュ-ラとラインの」
「ラインが「彼女が帰ってきたら挙式を挙げる」と言っていたからね」
「挙式…、ですか」
(首狩さんと夜風の結婚式を思い出すな…)
「挙式は今日だ」
「今頃、その話で盛り上がってるんじゃないのかい?」
「アハハ…、そうかも知れませんね」
小さな小屋
コンッコンッ
小屋のドアをノックする村長
「ライン!リュ-ラ!話は決まったか!?」
「ふざけないで!!」
「何が言いたいの!?」
中からは月神の怒鳴り声
「だから!挙式を…」
ラインの怒鳴り声も聞こえてくる
「約束を忘れたの!?」
「忘れるはず無いだろ!?」
「じゃぁ!どうして今なの!?」
「「今だからこそ」だろ!?」
「最ッ低…!!」
バタァン!!
「行くよ!秋雨!!」
「え!?え!?」
秋雨を引きずり、歩いて行く月神
「…何が有ったのだ?ライン」
「…昔の約束ですよ」
「忘れるはず無いだろ…、まったく…」
ブツブツと小言を呟くライン
村の外れの家
「入って!!」
「こ、ここは!?」
「私の家!!」
「文句有る!?」
「いえ…」
「早くしなさい!!」
「は、はい!!」
月神の家に入っていく秋雨
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