月神の過去
「封印」…、ですか」
「そう、封印」
「私は誰かのために利用され、誰かを殺す事が大嫌いだ」
「私を使う物は、いつも憎悪や自己満足に支配されているから」
「でも、今までで2人目だよ、秋雨」
「何がですか?」
「私を純粋な気持ちで迎えてくれた人は」
「…そうですか」
「初めてあった彼女は綺麗な人だった…」
「名前は…、ミシロと言ったかな」
「ミシロさん…」
「…話がそれたね」
「じゃ、私を封印してくれるかな?」
「その前に…、お願いがあります」
「何?」
「メタルさんを…、金田さんをガルスさんを、城牙さんの妹を、蘇らせていただけませんか?」
「…駄目だよ」
「君は「死」を何だと思う?」
「「死」…、ですか」
「…」
「考えたこともないだろう?」
「私は、よく考える」
「この能力のせいで」
「…月神さん、その能力のせいで苦労しましたか?」
「「苦労」なんて言葉で片付けられる物じゃない」
「私は…、愛する人を殺されたのだから」
「え…?」
「昔の話だけど、聞いてくれる?」
「…はい」
「…ありがとう」
「私は昔、小さな村に居た」
「戦争中だったんだけど…、その村は平和だったよ」
腰を下ろす月神
「私は大好きな人が居てね」
「その人と、いつも一緒だった」
「そう…、私が能力を発動するまでは」
「能力を…」
「その村には風習があってね」
「嵐や貧困が訪れれば、生け贄を捧げるんだ」
「その生け贄に、私の愛する人が選ばれた」
「私は必死に抵抗した」
「「彼を連れて行くな」…と」
「でも、無駄だった…」
「連れて行かれたんですね…」
「そう、そして生け贄にされる前日、彼は私に会いに来た」
「そして言ったよ」
「「今までありがとう」…、と」
「悔しかった…、無力な自分が」
「愛する人を守れない自分が」
「…」
「彼は胸を刺され、湖に沈められた」
「私は泣き叫ぶしかなかった…」
「それから数日が経った…」
「私はこの世の終わりにも等しい気持ちだった…」
「そして彼の後を追おうとして…、湖に飛び込んだ」
悲しそうな目をする月神
「意識が薄れていく中、私は彼を居着けた」
「腐敗し…、原形も留めてなかったけれど…、彼だった」
「私は彼を抱きしめて、そのまま暗い意識の中に沈んでいったよ…」
「そこで死ねば良かったんだろうね」
「そんな事…」
「気が付けば、私は彼に抱きしめられていた」
「辺りは見覚えのある村近くの砂浜だった」
「そして村に戻ったときは、皆、驚いていたなぁ…」
「その時は何が何だか解らなかった」
「でも、私は自分の能力を自覚していった」
「私が「生き返れ」と思って触れた動物や植物は生き返るんだ」
「私と彼の2人の秘密にするはずだった…」
「でも…」
「他の人が知ってしまったんですね…」
「そうだよ」
「それからだよ…、この能力が疎ましくなったのは」
「世界中から私の能力を求めてくる人がやってきた」
「私は皆を治してやったけど…、私にも限界があった」
「ある日、突然、能力が使えなくなったんだ」
「君と同じ症状さ」
「僕と同じ…」
「そんな時、運悪く遠国の国王がやってきた」
「「私の妻が死にかけだ、だから死んだら治して欲しい」と」
「でも私は能力が使えない」
「それを知った国王は怒って、「あの噂は嘘か!!」と家臣を斬り殺してしまった」
「「この噂を流した者を、1週間以内に見つけ出せ!その者を殺す!もし居なければ、この女を殺す!!」とも言い出した」
「私は能力が戻るように、必死に頑張った…」
「でも…、能力は戻らなかった」
「1週間の最後の日…、私は殺されると思って小屋の中で泣いていた」
「そしたら…、彼が入ってきて言った」
「「「俺が噂を流した」と申し出る」ってね」
「私は止めた!でも…、無駄だった」
「彼は死んだ…、私の目の前で、また死んだ」
「この能力さえなければ…、彼は死ななかった!!」
「私も…、こんな目には遭わなかった!!」
「その後…、自ら命を絶った」
「地獄に行くとき、何か黒い物に巻き込まれて…、地獄では能力が戻っていた」
「「地獄」…」
「私は彼を捜した」
「地獄にいるはずの彼を」
「でも…、居なかった」
「私は絶望したよ、全てに」
「その後、何百年かして私は誰かの体に入った」
「その体は居心地が悪くて、何が何だか解らなかった」
「でも、すぐに理解したよ」
「老人が「月神様!!」って叫んでた」
「何で私が「月神」って呼ばれてるのか、ここまで崇拝されているのかは解らないけど…」
「でも、この能力を求めてることは解った」
「私は言う通りに能力を使った」
「そうすれば…、地獄に帰れると、彼の居ない世界に居なくて済むと思ったから」
「でも…、彼達は帰してくれなかった」
「囚人同様に牢に閉じ込め、道具のようにこき使われた」
「私は嫌になって脱走した」
「そして…、行く当てもなく彷徨った」
「彷徨って、彷徨って…、私の村にたどり着いた」
「村は私がいた頃と変わってない」
「それが嬉しかった…」
「私は彼と居たところに行きたくなって、彼との思い出の小屋に向かった」
「そこに彼は居た」
「!?」
「私は死んだとき、彼が村に戻ってきたらしいんだ」
「彼も「何が何だか解らない」と言っていたそうだよ」
「私は彼に声をかけた」
「でも…、無駄だった」
「中は私でも、外は全くの別人」
「彼も気付くはずがない」
「私は…、悲しかった」
月神の頬を涙が伝う
「もう!この世界に私がすがる物はない!!」
「だから…!封印されて、何もない空間に居たい…」
「もう…、絶望しない世界に私は行きたいんだ…」
「…それは違うと思います」
「…君に何が解るの?」
「何も!誰も!気付いてくれない!!」
「私は道具!兵器!神!そんな格付けされて!自由を失った!大切な物も失った!!」
「この世に存在する意味も…、失ったのよ」
「失ってません!!」
「アナタが!愛した人は生きている!!」
「でも!私は死んでいる!!」
「肉体がないから!生き返れない!!」
「こんな能力…、有っても意味はない…」
「能力の事を言ってるんじゃありません!!」
「アナタの気持ちの事を言ってるんです!!」
「私の…?」
「本当に!本当に何もない世界に行きたいんですか!?」
「誰も気付かない!誰も見てくれない!そんな存在になりたいんですか!?」
「それが!!本当の気持ちなんですか!?」
「…私は」
「違うはずです!!」
「君には!何も解らない!!」
「解るはずがない!!」
ダァァァン!!
秋雨を押し倒す月神
「何も!何も!何も何も何も!!解らないんだ!!」
「…解ります」
「自分が要らない存在だと知ったときの悲しさぐらいは」
「…ッ!!」
「僕の記憶を見たのなら解りますよね?」
「軌跡の牢獄での僕の気持ち」
「君の…、記憶の黒い部分」
「悲しみに塗りつぶされた部分…」
「アナタは僕の何倍も、その気持ちを味わってるはずだ」
「だからこそ、解るはずです」
「この気持ちの悲しさが」
「私は…」
「もう、こんな気持ちを味わいたくないはずです」
「アナタだって…、もう一度、その「彼」に会いたいはずです」
「会えないんだよ…」
「私には体がない…」
「…僕の体を使ってください」
「意味がないのよ!それでは!!」
「私の体じゃないから…」
「違うだろ」
「!!」
月神の背後に1人の人影
「え…?」
「メタルさん…?」
「よっ!無事か?秋雨」
「どうして…!?」
「こんなエネルギ-だらけの異空間なら、魂だけの俺でも来られる」
「そこの月神みたいに、な」
「「違う」って…、どういう事?」
「お前の気持ちを伝えるために体が必要か?」
「体がなければ伝わらない程、安っぽい気持ちなのか?」
「違う!!私の気持ちは!!」
「そうだろ」
「お前の気持ちは伝えられるはずだ」
「…ッ!!」
「…月神、お前を封印するのは俺が許さん」
「秋雨、お前の体を月神の依り代にするのは俺が許さん」
「どうすれば…!?」
「言わなかったか?「俺はハッピ-エンドしか認めねぇ」」
「月神の死体からDNAを取って、体を再生するようにイトウさんに手配してある」
「ま、イトウさんに誰の体かは伝えてないけどな」
「どうして!メタルが私の体の事を!?」
「…金田に聞いたんだよ」
「アイツ、一回、お前が中に入ってるだろ?」
「その時に、お前の記憶を見たらしい」
「私の記憶を…!?」
「大戦が終わった後、その村に行ってお前の彼氏に言ったよ、全て」
「言ってたぞ?「すまない」ってな」
「…ッ!!」
「それと、もう1つ」
「お前の村の風習で生け贄にされたのも、実はお前の代わりに生け贄にされたんだよ、アイツ」
「そんな…!!」
「帰ってやれ」
「お前を待ってる」
「ずっと…、な」
「…そうだね」
「メタル、向こうを向いてくれ」
「何でだ?」
「どうしても」
「?」
後ろを向くメタル
「…秋雨」
「君とメタルのおかげで目が覚めた」
「メタルは嫌がるだろうから、君に2人分するね」
「え?」
「ありがとう」
「…!?!?!?」
秋雨に口づけをする月神
「つ、月神さん!?」
「私のケジメだよ」
「メタルは、こういうの嫌いみたいだし」
「メタル!もう良いよ!!」
「…何だったんだ?」
「気にしなくて良いから」
「…そうか」
「秋雨!最後の役目をやる」
「最後の役目…?」
「俺がヤグモを地獄に叩き落とす」
「お前は、その後で地獄への門を閉じろ」
「メタルさん達は!?」
「今、生き返らせて貰うさ」
「月神、一仕事頼むぞ」
「何?」
「このリスト、書いてる魂を全部、蘇らせてくれ」
「えぇ!?」
「ハジャが作り出した「扉」が原因で犠牲になった魂だ」
「向こう側の奴達の記憶は消しておくから、心配するな」
「何て数…」
「俺達とカンパニ-、そしてお前の不始末だ」
「この大仕事が終われば、お前の分も手配してやる」
「…解ったよ」
「頼む」
「…メタルさん!!」
「何だ?秋雨」
「お帰りなさい!!」
「…ああ、ただいま」
読んでいただきありがとうございました