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旅人の目的

西の村


「…ここが、雷火達の居る村か」


「正確には、よく来る村だ」


村に入るアオシとケイジ


「あっち行け!!」


「来んな!化け物!!」


小さな子供の怒鳴り声が響く


「…何だ?」


ガッ!!


何かに石が当たる


「あの子供達…、何に石を投げてるんだ?」


「アレは…」


眼を懲らすアオシとケイジ


「!!」


「この化け物!!」


「死んじまえ!!」


子供達は包帯に巻かれた女の子に向かって、石を投げている


「おい!やめろ!やめるんだ!!」


「このクソガキ!!」


「う、うわ!!」


「アイツ達の仲間だ!!」


逃げ出す子供達


「何なんだ?一体…」

「「アイツ達の仲間」って…」


「大丈夫かい?君」


アオシが女の子に近寄る


傷だらけの女の子がうずくまっている


「…私は化け物」


「え?」


「私は化け物だから…、仕方ない」


「ワケを話してくれるかな?」


「…嫌」


「どうして?」


「お兄ちゃんに「誰にも言うな」って言われてるから…」


「どんな「お兄ちゃん」かな?」


「…知らない」

「いつも、お兄ちゃんの友達の人としか話をしないから…」

「その人からお兄ちゃんの言ってた事を聞くの…」


「この村の人?」


「…たぶん、違う」

「あの声は聞いたことがないから…」


「…そう」

「名前は?」


「…言えない」


「…その「お兄ちゃん」の友達は、気の弱そうな人と叔父さんじゃない?」


「!!」


顔を上げる女の子


「どうして…、知ってるの?」


「俺達も知っているから」

「これで、訳を話してくれるかな?」


「…」


戸惑う女の子


「…うん、解った」


「ありがとう」


「その代わり、条件があるの」


「何かな?」


「お兄ちゃんの正体…、教えて」


「うん、良いよ」

「名前は?」


「…沙羅シャラ


「沙羅か」

「良い名前だね」


「…うん、お兄ちゃんがくれた名前だから」

「私…、お兄ちゃんに会いたい」


「…そうだったの」


「うん…」


「それじゃ、行こうか」


「うん」



沙羅の家


「…酷い有様だな」


家の壁はズタズタになっており、部屋の隅は黒く焼け焦がれている


「まだ、マシな方なの…」

「この前は家具が無くなってたから…」


「…ご両親は居ないのかい?」


「私を捨てて…、何処かに行っちゃたらしいの」

「顔も…、覚えてない」

「お兄ちゃんと叔父さんが言ってた…」


「そうなの…」


「…沙羅ちゃん」


「何?」


「どうして、先刻は子供達にイジメられていたの?」

「それに「化け物だから仕方ない」って?」


「…病気」


「「病気」?」


服を脱ぐ沙羅


手足から顔まで、ほぼ全身が包帯に巻かれている


「…コレ」


シュルルル…


包帯を解く沙羅


「コレは…!!」


その体には黒い模様が刻み込まれており、左目と右目の色が違う


「この模様は…」


「それ以上、言うな」


「!!」


家の入り口にノ-スとワンコが立っている


「あ…、叔父さんと犬のお兄ちゃん」


「アオシ、ケイジ…」

「外に出るんだ」


「…訳を話してくれ」


「残念だが、出来ない相談だ」


「イトウさんなら!治せるかも知れない!!」

「コレは病の一種じゃないだろう!?」


「…どういう事?」


沙羅がノ-スを見る


「…ッ!!」

「睡眠爆弾!!」


ボッ!!


「うぐぅ…!!」


「吸い込むなよ…!ケイジ!!」


「解っている!!」


ドサッ…


地面に倒れる沙羅


モァアアア…


次第に煙が退いていく


「…ふぅ」

「ここまでするとは…、な」


「どういうつもりだ?ノ-ス、ワンコ」


「…とりあえず、沙羅をベットに寝かせてくれ」


「あ、ああ」


沙羅をベットに寝かせるケイジ


「本当に…、余計なことをしてくれたな」


「何なんだ?この子は」

「この模様と目、病の一種じゃないだろう?」


「…そうだな」

「雷火、そろそろ入ってこい」


ギィ…


雷火が部屋に入ってくる


「…この子は、人間じゃない」

「村の子供が言っているように、化け物なんだ」


「…どういう事だ?」


「詳しく話す」

「腰をかけてくれ」


イスに座るアオシとケイジ


「…この子はハジャによって作り出された実験体」

「38号って所だ」


「「実験体」?」


「月神の依り代になる物を人工的に作り出す計画だ」

「だが、計画は失敗に終わった…」

「ハジャは実験体を別の用途に使おうとした」

「戦闘、エネルギ-増加媒体、別の実験体…」

「しかし、全て失敗に終わった」


「そんな事が…」


「よって、ハジャは全ての実験体を処分した」

「例外を除いて」


「その「例外」ってのが、この沙羅ちゃんだったんだな…」


「そうだ」

「俺達は実験場から逃げ出してきたこの子を保護した」


「でも、僕達は旅をしているから…」


ワンコが悲しそうな眼をする


「だから…、この村に男の子を預けたんです」


「俺達は、時々、この子の元を訪れた」

「初めは村にも溶け込めて居たんだが…、な」


「「初めは」?」


「ある時、この子が体の激痛を訴えてな」

「体には黒い模様が浮き上がり、眼の色は変わった」

「それから、この子は化け物扱いされるようになったんだ」


「…そうか」

「だが、イトウさんや和風なら治せる」

「もし、無理だとしても秋雨という学園の生徒が居る」


「…無駄だ」


雷火が呟く


「この子は模様が浮き上がってから、ある拒絶反応を起こすようになった」


「「拒絶反応」?」


「エネルギ-を拒絶するんだよ」

「自分の生命エネルギ-以外の全てを…、な」


「そんな事があり得るのか!?」

「この世界は食物から動物、人間に至るまでエネルギ-で満ち溢れている!!」

「そんな反応を示せば…!!」


「即死だろうな」

「だが、生きている」


「どうして…!?」


「俺が体内細胞の8割を死滅させた」

「体内に高電圧の電流を送って…、な」


「俺が痛みを感じないよう、鎮痛剤爆弾を使ったが…」

「それでも、激しい痛みだったんだろう」


「沙羅ちゃんは泣き叫んだよ…」

「「痛い」、「やめて」って…」


「…他に治療方法は幾らでも有ったはずだ」

「どうして、そんな治療法を選んだ?」


「…それが最も成功率が高かったし、俺が志願した」


「何故だ?」


「沙羅が…、憎かったんだよ」

「雷と風の5神の前任…、俺とワンコの親父を殺したハジャが作り出したガキだったからな」


「…」


「…俺は沙羅に「激しい痛みだ」と言った」

「沙羅は「耐える」と言った」

「俺は正直…、死んでも良かった」


「沙羅は、雷火の治療による痛みで精神的にも身体的にも大きなダメ-ジを受けた」

「今は安全だが…、いつ反動が来るか解らない」

「身体を医療道具によって少しずつ治しているのが現状だ」


「エネルギ-を拒絶するから、エネルギ-による治療は出来ないのか…」


「だから、和風やイトウ、お前の所の生徒にも治せはしない」


「この世界では、エネルギ-を使っていない純粋な道具は高額だ」

「それを集めるために、俺達は旅をしている」


「…大体の事情は分かった」

「雷火が沙羅に会わないのは、治療の恐怖を思い出させないためか?」


「…会っても、俺が誰だか解らないだろう」

「沙羅の記憶は消したからな」


「何故だ?」


「痛みを忘れさせるためでもあったし…、何より俺を思い出させないためだ」

「沙羅は…、治療が終わって死にかけの状態で俺に言ったよ」

「「ありがとう」ってな…」


拳を握りしめる雷火


「笑える話だろ?」

「自分を殺そうとした人間に…、「ありがとう」だってよ…」


「…記憶を消したんだから、会えるだろ?」

「沙羅ちゃんは…、お前に感謝してるんじゃないのか?」


「お前は自分を殺そうとした奴に感謝するのか?」

「そんな事が…、有るはず無いだろう…?」


「お前は、それで良いのか?」

「ずっと会えないままで」


「…それが沙羅にとっても俺にとっても良い」


「う…」


眼を覚ます沙羅


「…後は頼んだぞ、ノ-ス、ワンコ」


ガチャッ…


家から出て行こうとする雷火


「待て」


雷火の肩を掴むアオシ


「逃げるな」


「「逃げる」?何を言っているんだ?」


「自分の過ちから眼を背けるなよ」

「…いや、「過ち」じゃない」


「「過ち」じゃなけりゃ、何だってんだ?」

「それ以外に何が有る?」


「お前が、誰よりも解っているはずだ」


「…ッ」


「お兄ちゃん…?」


沙羅が雷火に語りかける


「…そうだ」


「その髪の毛…」

「うぅ!!」


頭を押さえる沙羅


「頭が…!痛いよぉ…!!」


「どうしたの!?沙羅ちゃん!!」


駆け寄るワンコ


「まさか…!記憶が戻ろうとしているのか!?」

「雷火を見たことで…!!」


「…結果がコレだ」

「今なら間に合うだろう?ノ-ス」


「…俺が、もう1度、記憶を消す」

「それで大丈夫だ」


「…そうか」


「それで良いのか?」


「…何度、言ったら解る?」

「俺は、この子に会わない方が良いんだよ」


「それで良いのか?お前は」


「…コレしかない」


「違うだろ」

「乗り越えろよ、壁を」


「…乗り越えられる物か」

「この子は痛みには勝てない」

「そんな思いをさせるぐらいなら…、記憶を消した方がマシだ」


ゴッ!!


雷火を殴り飛ばすアオシ


「お前は!それで良いのか!?」

「沙羅ちゃんを!痛みから逃げさせるのか!?」


「…それしかないんだよ」


「痛みを乗り越えなけりゃ意味はないだろ!!」

「いつまでも!一生!この子は見えない人間に感謝し続けるのか!?」


「…感謝はしていない」

「むしろ、恨んでいるだろう」


「違う!!」

「この子は言っていた!!」

「「お兄ちゃんに会いたい」と!!」


「…嘘をつくな!!」

「この子が!俺に感謝などする物か!!」


「してるんだよ!!」

「してないと思うのなら!どうして沙羅ちゃんに会いに来た!?」


「…!!」


「乗り越えろよ!!乗り越えさせろよ!!壁を!!!」


「…ッ」


「痛いよう…!雷火お兄ちゃん…!!」


「沙羅…!!」


「お兄ちゃん…!!」


ガタン!ガタン!!


ベットから落ちる沙羅


「沙羅!!」


沙羅を抱きしめる雷火


「耐えろ!耐えてくれ…!!」


「お兄ちゃん…!!」


「乗り越えるんだ!壁を!!」


「う…ん…」


バタン


沙羅の手が地面に落ちる


「沙羅!!」


「ごめんね…」

「ありが…とう…」


スゥゥウゥウ…


沙羅の体が、次第に薄くなっていく


「沙羅!消えるな!沙羅!!」


「反動が来たのか…!!」


「沙羅!!沙羅!!沙羅!!!」


「沙羅ちゃん…!!」


スゥ…


沙羅の体が消え、雷火の腕には包帯が残される


「そんな…!!」


「…まだだ」


呟くアオシ


ゴッ!!


アオシを殴り飛ばす雷火


「何を言っている!?」

「お前のせいで!沙羅は消えた!!」

「お前のせいで!!」


「…言っただろ」

「「まだだ」ってな」


「何が言いたいんだよ!?」


「紋章を出せ」


「紋章を…!?」


懐から紋章を取り出す雷火


「それを使う」


「何を言って…!?」


「学園にも、高エネルギ-物質を媒体に、能力者が居なくなっても存在し続ける能力がある」

「それと同じ原理のはずだ」


「出来るのか?アオシ」


「やるしかない」

「雷火、紋章にお前の身体エネルギ-を注ぎ込め」

「ありったけ、だ」


「…信じるぞ!変態侍!!」


シュゥウゥウウウウ!!


激しい高エネルギ-が紋章に注ぎ込まれていく


「がぁあああああああ!!」


パァァァッッァァッァン!!


激しい炸裂音と共に、小さな女の子が地面に座っている


「…あれ?」


「しゃ…」

「沙羅!!」


「お兄ちゃん…?」

「お兄ちゃん!!」


雷火に飛びつく沙羅


「良かった…!本当に…!!」


「…お前にしては、良く考えついたな?アオシ」


安堵のため息をつくノ-ス


「…いや、現状としては最悪の手段だ」


「何故だ?」


「コレで紋章はヤグモの物になった」


「!?」


「エネルギ-媒体となった紋章のエネルギ-は空気中に分散する」

「ヤグモの事だ…、行き場のない空気中のエネルギ-を収集する機械ぐらいなら作成してるはずだ」


「ハジャが使っていた機械か…!!」


「そうだ」

「…はぁ、オキナやメタルに何て言い訳したら良いんだよ?」


「言い訳の必要なんて無いだろう?」

「紋章を守って義務を果たすより、100倍マシなことをしたと思うぞ?俺は」


「そう言ってくれると、気が楽だよ…」


ため息をつくアオシ

読んでいただきありがとうございました

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