裏の頼み
109号室
「…どういう事だ?」
眉間にしわを寄せるメタル
その前には、小柄な係委員が立っている
「ですから、申し上げましたように…」
「優勝経験の有るメタル様が参加なされているチ-ムは、シ-ド扱いとなりますので、今日は試合がありません」
「ああ!?納得いかねぇぞ!!」
「おい、その辺にしろ」
ウェンがメタルを抑える
「おい!何するんだ!?」
「バカが、戦闘は少ない方が良いだろう」
「折角、この世界に来たんだぞ!!」
「戦いたいだろ!!」
「お前だけな」
「係員、報告、ご苦労だった」
「し、失礼します」
小走りで帰って行く係員
「全く、お前のバカぶりには呆れる」
「この大会に、世界の命運が掛かっていると言っても、過言ではないんだぞ?」
「世界の命運より、戦いの方が大事だろ!!」
「…秋雨、お前の能力でコイツの口を塞げ」
「永遠にな」
「え、遠慮しておきます…」
「良いか?本選に残ってるのは雑魚じゃない」
「予選を勝ち抜いた猛者達だ」
「俺やメタルが負ける事も、考えには入れてくれ」
「俺は負けねぇからなぁ!!」
怒鳴るメタル
「と、まぁ、こう言うバカ程、負けやすい」
「体力を常に考え、余裕を持って勝て」
「もし、どうしても敵わないなら、わざと負けろ」
「俺かメタルが、その敵の相手をするからな」
「俺が全員、ぶっ殺してやる!!」
「メタル、勝ち抜き制はダメだ」
「体力を消費しすぎる」
「勝ち抜き制?」
「ああ、1回目で勝った奴が2回目にも続けて参戦する事だ」
「だが、コレはかなりの体力を消費する」
「やめた方が良いだろうな」
「そうなんですか…」
「俺なら、行ける!!」
目を輝かせるメタル
「…秋雨、お前の能力でコイツの口を塞げ」
「永遠にな」
「2回目ですよ?それ…」
「次は本気だ」
「何なら、俺がしてやっても良いぞ」
「どうやってですか?」
カキン…
ウェンが刀を取り出す
「コレだ」
「何ですか?それ」
「…メタル、まさかとは思うが説明してないのか?」
「何を?」
「…俺が説明する」
「五神には、それぞれ天神武具と言われる武器が授けられている」
「聖なる武器で、丁重に扱うべき物だ」
「へぇ…、凄いな」
感心する凩
「まぁ、そこのバカも天神武具の創作者が創った武器を持ってる」
「「神刀・鋼」という、創作者がコイツに併せて創った武器だ」
「コレだろ?」
メタルが刀を取り出す
「…普通の刀だぞ?」
「ただ、鍔の部分が妙な形だな」
「いや、コレが凄い業物でな」
「この鍔が…」
凩に延々と説明するウェン
「…アイツ、武器にはうるさいからな」
「そうなんですか…」
「あ、そうだ」
秋雨が振り向く
「天鹿和さん!!」
「…」
無言の天鹿和
「…天鹿和さん?」
「あ、何だい?秋雨君」
「どうしたんですか?ボウッとして」
「別に何でもないよ!気にしなくて良いから」
「…?」
「それより、何かな?」
「実は、お風呂場で…」
「お風呂場?何か有った?」
「天鹿和さんを知ってるって言う人に合ったんですよ」
「どんな風に知ってるかは、言ってくれなかったんですけど」
「ふ-ん、僕をねぇ…」
「たぶん、見間違いと思うよ」
「そうでしょうか?」
「うん、そうだよ」
(確かに、クロ-バ-さんが見たのは手鎧だけだったし…)
「そうかも知れませんね!!」
「アハハ!勘違いが激しいね!その人は!!」
夜、109号室
ベランダ
「…ふぅ」
ベランダに出ている秋雨
「先刻は大変だったな?秋雨」
「天鹿和さん…」
「表じゃないぞ?裏だ」
「天鹿和さんに変わりは無いんじゃ…」
「いや、もう、表は表じゃない」
「?」
「…お前も、うすうす気付いてるだろ?」
「表の異変に」
「確かに、天鹿和さんの裏は、滅多に出てこないし、この世界に来てから口数は少ないですけど…」
「性格も残虐で非道になってるだろ?」
「それは…」
「…秋雨、お前に頼みがある」
「俺の最後の頼みだ」
「…え?」
「本来、表と裏で1人の天鹿和 輝鈴だが、最近は表が天鹿和の8割を占めている」
「もう、天鹿和は2重人格ではない、と言っても良い」
「あの…、意味が…」
「…そうか、お前には、始めから話すべきだな」
「昔の話だ」
悲しい目をする天鹿和
「昔、俺は兄弟同然の青龍という男が居た」
「そして、その俺達をハジャという男が拾った」
「…ハジャは、しばらく俺達を育てた後、殺し合いをさせた」
「何で、そんな事…」
「…俺も最近、解ったんだが、他にも、ハジャに拾われた孤児は何人か居た」
「その中でも、俺達は特に弱かったからな」
「それで、俺は勝った」
「だが、とどめは刺せずにハジャの所から逃げ出した」
「その時、天鹿和 輝鈴は2重人格になった」
「…精神崩壊を使ったんですね?自分に」
「そうだ」
「それからしばらくして、オレは青龍に殺された」
「ハジャの命令で殺しに来たんだろう」
「「殺された」って…!?」
「…お前も知ってるだろ?」
「生き返る方法」
「地獄から…、生き返ったんですか!?」
「ああ、生き返ったさ」
「生き返った俺の目の前にあったのは、血まみれのメタルと青龍の死体」
「メタルさんが…!?」
「俺は、メタルに兄弟を殺され、メタルを恨んで学園に入った」
「復讐のために」
「そんな…」
「…だが、俺は少しずつだが復讐を忘れていった」
「お前達と居るのが、楽しすぎたからな」
「天鹿和さん…」
「…そんな時に、この世界に来るチャンスがあった」
「俺は思った」
「「絶好の機会だ!!」ってな…」
「だが、バカな俺は…、天秤にかけちまった」
「何をですか?」
「お前達との楽しい生活とメタルへの復讐を…、だ」
「メタルを殺せば、学園には居られない」
「楽しい生活を送れば、メタルを殺せない」
「俺は悩んだ、ずっと、ずっと、ずっと…、な」
「…その中で、表と俺が別れた」
コンコンと頭を叩く天鹿和
「表は復讐を、俺は生活を選んだ」
「キッカケは、サバイバルの時のスペ-ドの言葉だった」
「何て言われたんですか?」
「メタルの真意」
「「メタルは、自分の仲間のために無抵抗の青龍を殺した」と」
「俺は信じられなかった」
「いくら、俺の兄弟を殺した奴でも、そこまでクズだったのか?ってな」
「だが、表は信じた」
「恨みの感情に支配されてたからな」
「本来、俺が持つはずの負の感情を持った表は、天鹿和 輝鈴の心のバランスを破壊していった」
「俺は戦闘の時、表に機械のように操られた」
「それ以外は、表が寝てるときにしか出てこられない」
「天鹿和 輝鈴は完全に表の物となった」
「…じゃぁ、頼みって言うのは、心のバランスを戻すことですか?」
「違うな」
「もっと、簡単なことだ」
「何ですか?」
「俺を殺せ」
「…!?」
「表は、死んでもメタルに復讐するだろう」
「もう、止めようがない」
「そんな…!!」
「…復讐が達成すれば、表は目的と居場所を失う」
「狂うだろうな、確実に」
「そんな表を野放しには出来ない」
「だから殺せ、って言うんですか!?」
「そんな事…!!」
「…秋雨、お前には感謝している」
「初めて任務に付き合ったときも、俺が屋根に行ったときも、ハロウィンのト-ナメントの時も…」
「お前は、いつだって俺を仲間として見てくれた」
「俺に希望の光を見せてくれた」
「だからこそ、お前に頼むんだ」
「僕には…!無理です…!!」
「…出来ないなら、別に良い」
「お前にまで、重荷を背負わせることはないからな」
「だが、この目的だけは果たせ」
「俺を、表を、天鹿和 輝鈴を殺せ」
「それだけだ」
「誰が殺しても良い」
「もし、自信がないのならウェンや凩に頼んでも良い」
「だが、確実に…」
「殺せ」
「僕には…!!」
うつむく秋雨
「…俺の話は以上だ」
「頼んだぞ」
「天鹿和さんは…!!…いえ、裏さんは死ぬのが怖くないんですか!?」
「どうして、そんなに簡単に…!!」
「…俺はな、秋雨」
「死ぬのより、今まで苦楽を共にしてきた表が表じゃなくなるのが恐ろしいんだよ」
「死ぬ事より、ずっと…、な」
「時に恐怖は死より恐ろしいんだぜ?秋雨」
「解りませんよ…!僕には…!!」
「…頼んだ」
天鹿和は布団に入ったきり、それから何も喋らなかった
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