大戦の犠牲
亜門の家前
「亜門、居るか?」
「あら!オキナじゃない」
「久しぶりね」
「…亜門、頼みがある」
「何?結婚以外ならOKよ」
「炎鬼を仲間に付けたい」
「説得してくれないか?」
「…」
押し黙る亜門
「…断るわ」
「頼む!お前が最後の手段なんだ!!」
「…私の家に入りましょう」
「ゆっくり話がしたいから」
「解った」
亜門の家に入るオキナと亜門
亜門の家
「…オキナ、忘れてないと思うけど、どうして私が三賢者を辞めたか覚えてる?」
「…腕の傷だろ」
「そうよ、過去の大戦で私は負傷した」
「炎鬼は、あの時の負傷を自分が原因だと思ってる」
「…見逃した敵が、お前を傷つけたからな」
「あの時の炎鬼は、まだ優しさが残ってた」
「でも、今は…」
「戦うことで、過去の過ちを消そうとしてる」
「…そう、戦いの鬼になってしまった」
「彼は戦いに取り憑かれているのよ」
「私は…、彼を救いたい」
「じゃぁ!どうして、説得に協力してくれないんだ!?」
「…炎鬼は最強とされている月神と戦いたがってる」
「戦えば、もう、戦いから解放されるはずよ」
「それを邪魔する意味はないわ」
「…お前も月神の強さは知ってるだろ?」
「炎鬼は負けるぞ」
「…それも良いかもしれないわ」
「負ければ、それこそ戦いから…」
「解放はされない」
「死ぬだけだ」
「…そうかも知れないわ」
「でも、戦いに取り憑かれた彼が生きていれば、その内に戦争を起こす」
「もし、そうなら彼は死んだ方が良いのかも知れないわね」
「…本気で言ってるのか?」
「ええ、本気よ」
「…ミシロが聞けば、何て言うだろうな?」
「…」
「自分の身を犠牲にしてまで、4国の大戦を止め、大切な人のために尽くしたミシロが聞いたら…」
「黙って!!」
叫ぶ亜門
「…それが、本心だろう」
「ミシロは大切な人を…、ケイジを守るために死んだ」
「ハジャに利用されていた月神を、依り代にされた自分の身ごと葬って…、な」
「…私だってね、炎鬼を止めたいわよ」
「でも、私じゃ力不足なの」
「大戦が終わった後、炎鬼は私に「三賢者を辞めろ、足手まといだ」と言ったわ」
「どういう意味か解る?」
「私は役立たずって意味よ!!」
「…本当は、気付いてるんだろ?」
「炎鬼は、お前を戦いから解放するために三賢者を辞めるように言ったんだ」
「…だから?それでも関係ないわ」
「私は炎鬼を説得するつもりはない」
「…炎鬼は死んだ方が良いんだな?」
「そう言ってるでしょ?」
「…お前はバカだ」
「自分の気持ちを告げずに後悔するつもりか?」
「ミシロや箒夏のように」
「…後悔はしないわ」
「私は彼女達やケイジのように弱くない」
「…今、言った事を撤回しろ」
「だって、そうじゃない!!」
「死んだはずのミシロの幻覚を見せられて、敵に殺されかけたケイジは弱いわ!!」
「私は、炎鬼の幻覚を見せられたって…」
ゴッ!!
オキナが亜門を壁に叩きつける
「…いい加減にしろ」
「ミシロと箒夏は、ケイジは弱い人間じゃない」
「…どうしてよ?」
「どうして、そこまで言えるの?」
「…言わなくても、解ってるはずだ」
「お前だからこそ、解ってるはずだ」
「…」
目を押さえる亜門
「…箒夏も、ロックに思いを告げれば、ロックの心に迷いが生まれることを恐れて、思いを告げなかった」
「ミシロも、同じだ」
「戦場での迷いは、死を意味するからな」
「ケイジはミシロが自分に関われば、危険だと思った」
「だから、思いを告げなかった」
「箒夏やミシロと同じよ!!」
「私も…、思いは…」
「今は戦乱の時代じゃない」
「平和な時代だ」
「それを、炎鬼は、ヤグモは壊そうとしている」
「…」
「…頼む、亜門」
「炎鬼を説得してくれ」
「…帰って」
「説得はしないわ」
「…そうか」
「じゃぁ、俺は力尽くで炎鬼を止める」
「そうして」
「それが、一番、良い方法なのかも知れないわね」
「…そうだな」
「まぁ、月神と結果は変わらないが」
「…アナタが、炎鬼に勝てると思ってるの?」
「冗談も程々にして」
「…いつまでも、知らない振りが出来ると思うなよ」
「現実から目を逸らすな」
「…」
バタン…
扉が静かに閉まる
「…私だって、解ってるのよ」
「自分が情けないことくらい…」
東の国、城下町前
ドガァン!!
「むぅ…!!」
一方的にシ-を押すアオシ
「どうした?年か?」
「まだ、まだじゃわい!!」
銃を構えるシ-
「…諦めたら、どうだ?」
「お前、この世界の人間じゃないから、年を取ってんだろ?」
「!?」
「どういう事だ!?アオシ!!」
「そんな事、お前から聞いてないぞ!!」
白刃之が反応する
「あ-、コレは説明してなかったか?」
「この世界の人間と、極希に次元の歪みで、この世界に来てしまう人間とのハ-フだよ」
「「ハ-フ」…」
「だから、お前達ほどじゃないが、年も取るし、エネルギ-も少ない」
「子供も産めるし、な」
「…だからこそ、じゃ」
「ワシの武器が銃なのは、機械によってエネルギ-を増幅させるためじゃからな」
「…シ-、お前ほどの奴が、どうしてヤグモに協力する?」
「昔、お前がハジャに仕えてのは知ってる」
「だが、月神で地獄の門を開けるのを、一番反対していたのはお前だろう」
「ワシの目的は、ハジャ様を復活させることではない」
「…ワシはのう、ハジャ様に依頼された実験で気付いてしまったんじゃ」
「地獄の闇の危険性を…」
「…アレの危険性は俺達もよく知ってる」
「事実、メタルやシャ-ク、イトウさんや学園の生徒が飲み込まれそうになったからな」
「…儀式をしたのか?」
「いや、その生徒の能力だ」
「人を生き返らせることが出来る」
「…驚いたのう」
「そんな能力、月神並ではないか」
「…月神には、到底、及ばんさ」
「アイツの能力は、全てを超越してる」
「神と言うだけの能力は有るからの…」
「全ての世界、次元、時空の魂を創造する能力じゃ」
「故に、地獄の魂数を減らすことは無いし、増やすこともない」
「全ての基準、全ての始まり、そして…、全ての終わりじゃ」
「…そもそも、地獄って言うのは闇で形成されている」
「闇が地獄だ」
「そこまで調べたのは、お前だろ?」
「…ワシも、昔は研究に没頭しておった」
「地獄、闇、月神、儀式…」
「だが、ワシの助手達は実験や研究に付き合う内に…」
「気が狂い、死に至った…」
「…そうじゃ」
「恐らく、彼達の体内エネルギ-に悪影響が出たのじゃろう」
「そこまで解っていて、どうしてヤグモに協力するんだ?」
「…助手達の無念のためであり、ワシの目的でもある」
「ワシは、もう長くないからの」
「…もし、ヤグモの目的が4国大戦の時のハジャと同じだったら、どうする?」
「お前も、ガ-も殺されるぞ」
「…解っとるわい」
「ヤグモが約束を守らん事ぐらい…、な」
「…ますます、解らないな」
「そこまで解ってるんだろ?」
「どうして協力するんだ?」
「…信念じゃよ」
「ワシの人生の中で、唯一と言っても良いぐらいの信念じゃ」
「…それなら、仕方ないな」
「信念は曲げられる物じゃない」
「…曲げられるのなら、信念とは呼ばんわい」
「そりゃ、そうだ」
「ワシを殺すか?」
「…どうだろうな?」
「ワシを殺さなければ、過去のように月神を操作する装置を作り出すぞ?」
「それでも良いか?」
「その「装置」とやらは、人の「思い」に負ける代物だろ」
「作られても、問題じゃない」
「…どうしても、殺したくないらしいのう」
「どうしても、殺されたいみたいだな」
「だが、殺さないぜ」
「どうしてじゃ?」
「いや、別に殺しても良いんだが…」
「お前を殺したら、月神を止められないし、何よりアイツが悲しむ」
アオシがガ-を見る
「…相変わらず、女たらしじゃのう」
「「モテ男」と呼んでくれ」
「却下じゃ」
苦笑するシ-
「…おしゃべりが過ぎたようじゃのう」
「と、言うことは、俺の言いたい事が解るか?」
「「仲間になれ」…か?却下に決まっとる」
「…じゃ、強制的に」
アオシがガ-の首に剣を突きつける
「どうだ?」
「…おぬしが、ガ-を傷つけると思うか?」
「安い挑発じゃのう」
「ならば、俺がしよう」
鬼怒がアオシの剣を取り、ガ-の首に突きつける
「俺は、この変態とは違うぞ」
「…おぬしがガ-を傷つければ、ワシより先にアオシがおぬしをぶっ飛ばすぞい」
「まさか!そんなはずが…」
バチバチバチ…
アオシの手には、凄まじい雷が宿っている
「殺すぞ…!!」
(…本物のバカだ)
「…解った、傷つけるのは、やめよう」
「だが、俺もアオシの意見に賛成だ」
「仲間に着いてくれ」
「…小童が」
「知ったような口を利くでない」
「その小童にも、守るべき物はあるんだよ」
「…生意気を言うのう」
「仲間に着くのか?着かないのか?」
「着かん」
「…残念だ、シ-」
「紫電疾雷」
バッ
アオシが小さな光と共に消える
「むぅ!?」
シ-の首元に、雷を帯びたアオシの拳が突きつけられる
「…どうする?」
「信念は変えぬ」
「それだけじゃ」
「…」
押し黙るアオシ
「う…」
ガ-が目を覚ます
「わ、我が主!!」
「く…!離せ!離さないか!!」
白刃之の上で暴れるガ-
「…ガ-よ、自由に生きるのじゃ」
「おぬしの人生じゃからな」
「主…!!」
「…雷電」
ガッ!!
「主------!!」
城下町前には、ガ-の叫び声が響き渡っていた
読んでいただきありがとうございました