森の守護霊
木の途中
「はぁ、はぁ…」
木にしがみつく秋雨
「長い…、そして疲れる…」
木の頂上
「秋雨!早く来い!!」
凩が上から呼ぶ
「天鹿和を見ろ!!」
「え?」
「ヒャッホ-ウ!!」
木の上ではしゃぐ天鹿和
ガサッ!ガサッ!!
「やめてください!天鹿和さん!!」
「木が!木が!!」
「大丈夫だ」
「これ程の樹齢となると、そう簡単に折れはしない」
「その通りだ!秋雨!!」
ボキッ
ガサガサガサ!!
「天鹿和さ------ん!!」
遙か地上に落ちていく天鹿和
「…樹齢が長いと言うことは、その分、老朽化していると言うことだ」
「バカめ」
にやりと笑う凩
「凩さん!気付いてたの!?」
「無論だ」
「時間による老朽を見抜くのは慣れている」
「じゃぁ!教えろよ!!」
遙か地上から天鹿和が叫ぶ
「あの距離で生きていたのか」
「信じられんな」
「流石、俺!!」
「…少しぐらいは傷ついた方が良かったのかも知れんが」
「そう言わず、辺りはどうですか?」
秋雨が凩に呼びかける
「…面白い風景だ」
「お前も上がってこい」
「?」
ズル…
どうにか上がる秋雨
「コレって…」
森は秋雨達が登っている木と、しばらく続いている木
そして、かなり向こうには町が見える
「このくらいの森なら、もう抜けたはずなのに…」
「どうしてでしょうか?」
「…簡単な話だ」
「「この森が、俺達を出さないようにしている」」
「そんな事が…」
「どうやら、ここはファンタジ-な世界のようだな」
「何でもあり、で考えた方が良い」
「確かにそうですけど…」
「そうみたいだな」
「あ、登って来れたのか」
天鹿和が息切れしながら登ってくる
「凩!秋雨!下に行くぞ!!」
「どうしてですか?」
「木の穴に、エネルギ-反応がある」
「俺達が出れない原因かも知れない」
「…行ってみるか」
ザザザザザザザ!!
一気に降りる秋雨達
木の根元
「…コレって」
木の穴の中が微妙に光っている
「キノコ類か何かか?」
「発光する物…」
「とりあえず、調べてみようぜ!!」
「…そうだな」
木の穴
「驚いたな…」
発光していたのはキノコなどではなく、白い光
「エネルギ-の結晶…?いや、木が生み出したエネルギ-体か?」
「秋雨君!コレを何かに変換できる?」
「変換して良いんですか?」
「変換しようとすれば、抵抗を見せるはずだよ」
「やってみてくれるかい?」
「…解りました」
白い光に手を当てる秋雨
「むぅ…!!」
シュゥゥウゥウ…
変換を始める
ボン!!
「うわ!?」
白い光が煙を上げる
「何だ!?」
「離れて!秋雨君!!」
武器を構える天鹿和
「ワムシム」
「はい?」
「ヘルカミア、サブミルイアンムイサ」
光から声が聞こえてくる
「…何の声だ?」
「秋雨君!解る?」
「天鹿和さん達は、解らないんですか?」
「いや、むしろ、何で君は解るの?」
「ワカミアムワブヴァント」
「…全然、解らん」
「そうだ!秋雨君!!」
「何ですか?」
天鹿和が秋雨を手招きする
「俺の耳を変換してくれるかな?」
「アレの言語が聞こえるように」
「できるでしょうか?」
「成せば成るよ」
天鹿和の耳に手を当てる秋雨
シュゥゥウゥウ…
「ザムイナ?」
「お!聞こえる!!」
「良かった…」
「秋雨、俺にも頼む」
「解りました」
凩の耳に手を当てる秋雨
シュゥウゥゥウ…
「何をしているの?」
「聞こえたぞ」
「便利だな、お前の能力」
「どうも」
「誰?アナタ達」
「君は?」
「私は、この木」
「アナタ達、この世界の人間じゃないでしょ?」
「…そんな事まで解るのか」
「伊達に、千四百年間、生きてないわ」
「エネルギ-の違いぐらい解るもの」
「そうか」
「それで、俺達は森から出られないんだが」
「そう?そんな事はないと思うけど」
「方向音痴集団の集まりかしら?」
「失礼な事を言う木だな」
「教育が必要かな?」
天鹿和が白い光に近づく
「…仕方ないわね」
「本当のことを言うわ」
「「本当のこと?」」
「…寂しいのよ」
「毎日、鳥の相手ばかりだと」
白い光が揺らぐ
「私、元々、人間だし」
「人間!?」
「この世界での生まれ変わりは、別の魂になることを意味するわ」
「でも、希に魂が完全に別物にならないことがあるの」
「それで…」
「この木と私の魂は混じったわ」
「不便な物ね」
「…そんな事が」
「で、お願いがあるんだけど」
「?」
「今、彼達が私の言葉を理解できているのは、君の能力でしょう?」
「そうだけど?」
「私を人型に変換して」
「出来る?」
「…やってみます」
シュゥウウウウゥ…
「…どうかしら?」
「あ-、1つ聞きたい」
天鹿和が目をそらす
「…衣服は?」
「無いわよ」
「当たり前じゃない」
「今まで、単なるエネルギ-体だったんだもの」
「…俺のを着るか?」
「そうさせて貰うわ」
天鹿和の制服を着る白い光
「名前は?」
「無いわよ」
「木とでも呼んで頂戴」
「じゃぁ、木」
「教えて欲しいことがある」
天鹿和が身を乗り出す
「何かしら?」
「私の前世のことは聞いても無駄よ」
「混じったのは魂だけで、記憶なんて物は無いから」
「そうじゃない」
「柳舞という男の事を知らないか?」
「知らないわ」
「鳥たちも、見てないって」
「…そうか」
「他に聞きたいこともあるんだけど」
「別に良いわよ」
「何でも聞いて頂戴」
「…ここって、泊まれる?」
「大丈夫よ」
「木の実はあるし、寒さも、この木の中なら凌げるわ」
「ありがたいね」
「それが質問だったんですか?天鹿和さん」
「だって、もう夜だし…」
「全身が傷だらけだし」
「…」
目をそらす凩
「じゃ、俺は木に聞きたい事が有るから、秋雨君達は木の実を拾いに行ってくれる?」
「解りました」
「迷うことはないな」
「出られないし」
「そう言う事ね」
「それでは、行ってくる」
木の穴を出て行く秋雨と凩
「…そろそろ、話して貰って良い?」
「どうして、私に精神暗示をかけようとしたのかしら?」
「…やっぱり、演技か」
「当たり前よ」
「理由もなしに、精神暗示をかけようとしない」
「聞きたいことが有るから、演技をしただけだよ」
「何かしら?」
「…メタルの事だ」
「良いわよ」
「鳥たちが見てるもの」
「…ありがたいね」
「私も聞き返して良いかしら?」
「何を?」
「アナタ、この世界の人間でしょう?」
「…「エネルギ-の違いが解る」ってのは、本当なんだね」
読んでいただきありがとうございました