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説得

隊長室


ガチャン


「…」


静かに部屋に入る水無月


部屋の奥のイスには、トリマが座っている

下を向いていて、表情はよく見えない


「あの…」


呼びかける水無月


「…何だ?」


「何て言うか…、その…」


「説得か?無駄だ」

「失せろ」


「そうは言われても…」


「…父上は、何も解ってない」

「それを、異国のお前に分かるものか」


「…どうして、結婚したくないんですか?」


「教えてやろうか?」

「ただし、条件がある」


「?」


「敬語をやめろ」

「俺には、敬語を使う必要性がない」


「…どういう事ですか?」


「俺は王族ではないからだ」

「元々、親に捨てられ、身寄りのないガキだったんだよ」


「それが、どうして王族に?」


「昔話は、父上に「話すな」と言われているが…」

「お前も、この話を聞けば説得を諦めるだろう」


小さく、ため息をつくトリマ


「俺は、道の端で物乞いをしていた」

「まぁ、恵んでくれる奴は居なかったがな」

「それで、俺は盗みをしていた」

「毎日、毎日、毎日な」


「…苦労してたんだね」


「まぁ、悪くない生活だったさ」

「盗みの腕も、上達していった」

「俺みたいなガキが生き残るには、食い物と金だ」

「その2つが有れば、幸せになれると思っていた」

「食い物が無くなれば盗む」

「金がなければ盗む」


拳を握りしめるトリマ


「…そんな、ある日だった」



6年前、北の国


路地裏


「…」


無言で盗んだパンを貪るトリマ


「おい!聞いたか?」


「何を?」


行き交う町の人々が話をしている


「国王様が、町を偵察していくらしいぜ!」


「本当か!?」



「!!」


その会話は、トリマに1つの考えを持たせた


(国王から、何か盗めれば…)


国王は宝石から何から何まで身につけているだろう

それが有れば、金が手には入ることは間違いなかった


しかし、トリマはそこまでバカではなかった


「…無理か」


国王のことだ

周りをボディ-ガ-ドで固めているだろう

盗みなど、出来るはずがない


盗むなら、国王を見に集まった奴達だ


「よし…」


もしかしたら、たっぷり金が貯まるかも知れない

そうしたら…


いろんな考えが、トリマの頭の中を駆け巡る


「…狸の皮算用の前に、次のメシを取りに行くか」


立ち上がるトリマ



大通り


ドンッ


人に当たり、財布や金目の物を盗むトリマ


(次は、アイツだな…)


ドンッ


「…ごめんなさい」


謝りながらも、立ち去るトリマ


「ちょっと待て、このガキ」


男がトリマを呼び止める


「…何ですか?」


「俺の財布を盗んだな?」

「返せ」


「…盗んでませんよ」


「嘘をつけ」

「その懐の物は何だ?」


「コレは…」



路地裏


「おらぁ!!」


ガン!


先刻から、殴られ続けるトリマ


「…許してください」


「あぁ!?俺の財布を盗んで、何を言ってやがる!?」


「…もう、しません」


「このガキ…!!」


足を振り上げる男



ドスッ


「…何のつもりだ?」


男の足には、鋭いガラスの破片が刺さっている


「抵抗か?可愛い抵抗だな」


笑う男


「…気に入った」


「…え?」


「俺の名は、ダウネル」

「国王を殺しに、この国に来た」


男が煙草を取り出す

それに火を付け、ゆっくり吸う


「お前、国王を殺せ」


「!?」


「もし、殺せたなら、好きな物をくれてやる」

「何でもな」


「…」


「コレで殺せ」


男がナイフを差し出す


「グサッと…、な」


ナイフを手に取るトリマ


「殺したら、俺の組織に迎えてやる」

「まぁ、どうするかは、お前の自由だがな」



現在、隊長室


「その時、俺は国王を殺すつもりだった」

「勿論、国王を殺せば、俺もその時点で死んでただろうな」


「…どうして、そんな事を?」


「別に、どうでも良かった」

「生きても死んでも同じだったからな」



6年前、大通り


国王偵察日



町は、盛大なパレ-ドで盛り上がっていた


「…殺す」


トリマは、服の下にナイフを隠していた



「おお!国王様だ!!」


大きな御輿の上に、国王が乗っている


笑顔で手を振る国王



「…」


静かに、国王の御輿に近づくトリマ


「君!これ以上、近づいては…」


国王の護衛が、トリマを止める


「…すいません」



ダッ!


護衛を振り払い、国王にナイフを向けるトリマ



「ああああああああ!!」


「国王!!」


「!!」




現在、隊長室


「…それで、どうなったんですか?」


「結果は、無残な物だった」

「俺は護衛に押さえつけられ、城の牢にブチ込まれた」


「…」


「まぁ、その跡の展開には、俺も驚いたがな」


「?」


「国王が、俺を「息子にする」と言い出した」

「何でも、偵察の理由は養子探しだったらしい」

「俺の度胸と、速さが気に入ったんだと」


「…それで、隊長になったの?」


「そうだ」

「その後が、問題だった」


「?」


「…コレは、嫌な思い出なんだがな」

「俺は、3年前に初恋をした」


「初恋?」


「相手は、異国の姫だ」

「父上が、無理矢理決めた結婚だった」

「しかし、俺は相手の姫を好きになった」


「…良かったね」


「良くないさ」

「俺は、路上のガキから隊長になった」

「それを良く思ってない連中が、結婚を取りやめにしようとした」


「…酷い」


「まぁ、無駄だったがな」

「結婚は確定していた…」


悲しい目をするトリマ


「…結婚式の1週間前に、「姫が死んだ」と、情報が入ってきた」

「いや、「殺された」か」


「そんな…」


「殺したのは、俺に父上を「殺せ」と言ってきた男、ダウネルだ」

「国王を殺し損ねたどころか、息子になった俺に対する報復さ」


イスに座るトリマ


「俺を嫌っていた連中が、ダウネルが城に入れるように手引きしたらしい」

「まぁ、連中は死刑になったがな」


「その人は?」


「逃げた」

「今も逃亡中さ」


「…初恋相手を殺されたから、結婚したくないの?」


「そうだ」

「自分ながら、未練を捨てきれない甘さにヘドが出る」


「…悪い事じゃないよ」


「何だ?同情か?」

「そう言うのは、最も腹が立つ」


「…違うよ」

「私は、大好きな人の役に立てなかった」

「その人のために、今、旅をしてる」


「…」


「ねぇ、未練を捨てる必要は無いよ」

「引きずっても、悪い事じゃないんだよ?」


「お前に…!お前に何が解る!?」

「殺された原因は自分だ!!」

「俺が姫を殺した!!」


「違うよ!!」

「殺したのはダウネルで、アナタじゃない!!」


「違う!俺が、父上を殺せば彼女は殺されなかった!!」

「俺が、全ての原因だ!!」

「今、戦争が起きそうになってるのも、俺が未練を捨てきれないせいだ!!」

「俺が…」


パァン!


水無月が、トリマの顔を叩く


「…!!」


「何で自分を否定するの!?」

「私の好きな人も、自分を否定して存在を消そうとした!!」

「でも!彼は戻ってきた!!」

「私達の所に!!」


「それがどうした!?」

「俺と何の関係がある!?」


「私は!あの時、彼を止められなかった!!」

「だから!もう、目の前の人が居なくなるのを見たくないの!!」


「お前に!何が…!!」


「解るよ!恋した相手を失う悲しさぐらい!!」

「今!感じてるから!!」


「このワガママ女が…!!」


トリマがため息をつく


「「未練を捨てる必要は無い」?」

「そんな戯れ言を言った女は初めてだ」


苦笑するトリマ


「…そうだな」

「俺は中途半端だったんだな」


「…?」


「水無月、と言ったか」

「感謝する」


「え?」



バァン!!


部屋から出て行くトリマ


「え!?ちょっと!!」


その後を追う水無月



王室


「父上!!」


「…決心したかの?」


「俺は…」


そのまま、黙るトリマ



「水無月先輩、説得できたんですね!!」


「…たぶん」


「「たぶん」?どういう事だ?」


「よく解かんない」



「…どうした?トリマ」


「俺は!モミジ殿と!結婚しません!!」


「…え?」



その場の空気が凍り付く


読んでいただきありがとうございました

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