勇者はサブクエスト中です。
世界の危機の最中。
不意に主たる勇者は言った。
「この魔法があれば雪国で見た、あの巨大な氷を溶かせるんじゃないか?」
勇者の言う魔法とは魔王を討ち滅ぼすために、既に世を去った大賢者が人知れず遺した業火の魔法である。
魔王にさえ通じるであろう魔法……勇者の言う雪国にあった巨大な氷を溶かすことは可能かもしれない。
だが、しかし……。
「確かに溶かせるかもしれませんが、そんなことより一刻も早く魔王を倒すべきでしょう?」
「そのとおりです。そもそも貴重な時間と魔力まで使ってすることじゃ……」
仲間たちの正論を勇者は無視する。
「気になっていたんだ。今から行ってみよう」
こうなってしまえば勇者を止めることは出来ない。
まるで、何かの意思に操られるようにして勇者はそのまま目的地に向かってしまうのだ。
魔王がこの間に何をしているのか……。
考えるだけでも恐ろしい。
*
ところ変わって魔王城。
魔王は勇者の動向を窺っていたが、一行が何故か魔王城とは全然違う雪国へ向かったと聞きほくそ笑む。
「そうか。なら時間が出来たな」
そう言って立ち上がる魔王に側近が告げた。
「今こそ勇者に奇襲を仕掛けるべきです」
しかし、魔王はそれを無視する。
こうなってしまえば魔王をとめる手段はない。
側近達は口惜しそうに魔王が歩き去るのを見つめるばかりだ。
*
……勇者も魔王も知っているのだ。
互いが作る『隙』こそが、自分が自分でいられる唯一の時間なのだと。
今日もまた、束の間のサブクエストが正反対の存在である勇者と魔王を束の間、役目を奪い去っていた。




