覚醒
空き教室では、まだ夜月が戦っていた。
とりあえず夜月の邪魔にならないように、手頃な瓦礫に隠れる。
「弾かれてる?」
夜月の攻撃は、夜未知を気遣ってか、そんなに密度はないものの確実に狂想の体に当たっているはずなのだが、その肝心の攻撃がすべて弾かれているのだ。
とりあえず、夜未知を助けようと動こうとした刹那。
「夜月ッ!!」
夜月を狂想に弾き飛ばされた。
狂想がその巨大な爪でトドメを刺そうとした瞬間、俺は近くにあった石ころを狂想へぶん投げた。
そして、その石ころは”弾かれず直撃した。”
「ば、バカ猫こっちだっ!!!」
「なんで来て…………」
夜月がなんか呟いたような気がしたがまず先に、狂想をそこから引き離そうと廊下へ走り出そうとして、
「なッ!!」
狂想が尻尾を使いこちらを薙ぎ払った。
そしてその巻き上げられた瓦礫がこちらへ飛び……。
パリン!なんて音がしたような気がした。
気づけばさっき夜月と話した空き教室に居た。
あたりを見回すがあんだけボロボロだった教室は綺麗に治っており、狂想もあの凍てつくような空気も、なくなっていた。
目の前には、少し、息を切らしてこちらを呆れたように、困ったように見つめる夜月が居た。
「はぁ……、これ、少なくとも貴方には使うつもり無かったのに」
聞き分けの悪い、決まり事を破った子供を叱る、親のように、夜月は言う。
「私の力は誰かに希望を呼び覚まさせること──
────ま、素質がある人に限られるのだけれどね」
「だから、死んでも心の傷まない悪人にでも使ってやろうとしたのに」
はあ、なんて夜月は星座占いの順位が悪かったみたいな軽さで、ため息を付いた。
「じゃあ、これももうすぐ終わるから、終わったら、すぐ逃げなさい」
「待てよ、これにはなにか代償があるんじゃないか?」
ジロリと、視線が鋭くなった気がした。
「例えば、一回っぽきり……みたいな?」
冷や汗が背中を伝う。
「そんなに貴方は」
呆れたように、夜月は言う。
「あの子を助けたいの?
────死ぬかもしれないのに。」
とても鋭い、氷柱のような視線は、一歩でも踏み出したら後戻りできないと、その覚悟はあるのかを言外に問うている気がした。
「──────当たり前だ」
「死にかけようが何されようが、俺は必ず”友達”を助ける」
凍えきった教室とは裏腹に、少年、朝日 目醒の声はマグマのように煮えたぎった熱があった。
「…………なら聞いて、狂想は恐怖の象徴をかたどっているのは話したわね?」
静かに頷いた。
「まずアイツを殺すための条件の一つとして狂想に夜未知にとっての希望の象徴を知る必要があって、それを知らなければ触れることすら出来ないの、そして貴方はそれをどういうわけか知っている」
冷たい両手で俺の頬を掴み、その端正な作り物のような顔を、息が交じるくらいに近づけて、嘘は許さないとでも言うかのように夜月は問う。
「そして最後、改めて聞くわね、
────貴方は、力の責任、とれる?」
「……ああ」
そう答えると夜月は少し目を瞑った。
「そう、なら次は貴方の希望を内から出すの」
そういう、夜月はなにかを無理やり抑え付けたような目をしていた。
次の瞬間、ジグソーパズルを崩すようにボロボロと空間が崩れ始めた。
「な!」
「いいの、周りのことは気にしないで時間が来ただけだから……意識を逸らさずに……」
夜月の顔は言葉に反して苦しそうで小綺麗な顔は苦痛に歪んでいた。
「希望を、──貴方の希望を自身に纏わせるの」




