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大好きな彼を追いかけてたら奇跡がおきました

作者: 文月みい
掲載日:2026/01/19

初投稿です。

よろしくお願いします。

(あ……れ……?)

(えっ……な…に?…わた…し…?)

 少しずつ自分の意識が戻ってくる。体がすごく怠くて動くのもやっとだ。なんとかゆっくりと起き上がり、首を左右に動かして周囲を確認してみる。しかし、自分がどこにいるのか何をしていたのか全く思い出せない。今いる場所は、どこかの建物の中のようで、片側には大きな窓がいくつも並んでいる。その向かいには部屋がいくつもあるが、近くの部屋は閉まっていて中に人の気配はないようだ。外を見てみるが、視界全体が赤黒くボンヤリしていて見えにくいため、今が昼なのか夜なのかも分からない。


(ここはどこだろう?なんでこんなところにいるんだっけ…)


 思い出そうとしてみるが、頭の中にモヤがかかったみたいで上手く考えがまとまらない。そのまま少しずつ頭がボーとしてきて、意識がどんどん薄れて深く深く沈んでいく……。

その時だった。


ゴンッ…ゴンッ…


 突然どこからか音が響いてきて、沈みかけてた意識が戻ってくる。


(何の音だろう。)


 先ほど確認したときには周りには誰もいなかったはず。音も微かに聞こえる程度だから、近くではなく離れたところから聞こえるということだろうか。何の音か物凄く気になる私は音の正体を確かめるべく歩きだした。動くたびに体が軋み歩くのもやっとだ。ゆっくりと少しずつ前に進む。音が近づくにつれて、ゴンッという音の合間に「ヴッ…」と人の声のようなものが聞こえてきた。


(この声、とても気になる。早く行かなきゃ)


 声に聞き覚えがあるような気がして、軋む体を懸命に動かしどんどん進んでいく。突き当たりまで進むと右側に階段が見え、そこに一人の男の人が、壁に向かって進んでは頭を打ち一歩後ろに下がる。また進んでは頭を打ちつけを繰り返していた。私はその男の人の顔を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。頭の先から足の先まで一気に電流が流れたような感覚に、頭の中も視界も一気に晴れて、怠く軋む体も一瞬で軽く素早く動けるようになる。すぐさま彼の体の向きを変えて壁から離すと、彼はそのままゆっくりと廊下を歩き始めた。私はそのまま彼の後ろをついていく。


(なんとなく、思い出してきた)


 彼の後ろを歩きながら周囲を確認してみると、さっきはどこか分からなかったが今なら分かる。ここは学校だ。私達が通ってる高校で、私も彼も2年生で同じクラスメイトだ。教室の上のほうを確認すると2年1組と表示されているため、私達は現在2階にいると思われる。さっきは、視界が赤黒くぼやけて分からなかったが、今は視界も良好なので、外が暗く夜なのがわかる。


(なんで夜なの?えーと…たしか朝登校して、そのままクラスに……)


 甦ってきた記憶に、ピタッと私の動きが止まる。


 そうだ。朝、登校してきていつも通り一番に彼に会いたくて、急いで階段を上がったら、彼の姿が見えて嬉しくて声をかけた。その声に彼が振り向いて……振り向いたら………///


(ギャ…ギャア゛ーーーーーーーーー!!!)


 あの日、登校してきて声をかけた私に、彼は突然抱きついてきて首筋にキスをしてきたのだ!しかも、チュッて可愛らしいものじゃなく、もっと大胆に噛みつくような激しいキス!突然の彼の行動にあまりの衝撃でそのまま意識を失ってしまった私。思い出すと、すごく心臓がドキドキして顔が熱くなる。そっとキスされた首筋に触れてみる。


(はっ?あれ?なんか首が変な感じがする)


彼にキスされたところが、デコボコしてる?


(いやいやいや。キスされてデコボコってなに?えっ?私の首どうなってんの?)


 もう一度首を上から下になぞるように触ってみる。デコボコしたところを確認すると、円を描くように丸くなってる。若干パニックになりながらも、前を見ると彼は随分先に移動していた。私も慌てて追いかけると、左側にトイレの文字が見えてくる。トイレなら鏡があるため首筋がどうなってるのか確認が出来るが、その間彼が居なくなっては困る。


(ちょっとだけ。少し確認する間だけだから、ごめんなさい。)


 私は彼に近づき、サッと彼の体を壁に向けた。案の定、さっきと同じように壁にぶつかって留まってくれた。その間にトイレに入って急いで鏡で首筋を確認すると、首筋には歯形がくっきりと残り、その周りは赤黒く血で汚れていた。顔や腕にも血が大量に付いており、制服も血で汚れ、髪の毛もバサバサで乱れていた。


(えっ…こんな汚ならしい姿、恥ずかしすぎる)


 あまりのヒドイ格好に驚いた私は、ひたすら首や顔などの血を洗い流し、バサバサの髪を整えた。残念ながら制服に付いた血は落ちなかったが、なるべく綺麗にと身支度を整えた。気づいた時には、随分と時間が経っていた。


(自分のことで手一杯で、彼のこと忘れてたわ)


 外からはゴンッ!「ヴッ…」という音が聞こえてくる。すぐに外に出ると同じ場所で壁に激突しながら頭を打ち付ける彼が居た。

「お…く…なっ…ごめ……い。」

 しばらく声を出していなかったからか、声が掠れて上手く言葉が出なかったが、彼は特に気にせず壁に頭を打ち付けている。私はサッと彼の体の向きを変えると、彼はそのまままっすぐ廊下を歩き始めた。



 彼の後ろを歩きながら、この状況について考えてみることにする。

 まず、鏡で確認した首筋の歯形や血痕から、あの日の朝のことをよくよく思い出してみる。 

 あれはキスされたんじゃなく、噛みつかれたってこと。甘噛みなんて優しいものじゃなく、本気で噛みついてきたということだ。

 キスされて衝撃で意識を失ったんじゃなくて、普通に噛まれて大量出血で倒れた。


(頸動脈をガブリッだから、たぶん血がプシャー!っとなって…うわぁ、ホラーだ。)


 でも、普通ならその時に死んでるはず。

 では、なぜ生きてるのか?歯形は残ってるけど、出血も止まって傷も塞がってるようだった。そもそも、普通の人間が、人を襲って噛みつくなんてあるわけがない。目の前の彼の様子を見ても普通じゃない。

 制服はボロボロで血だらけだし、目も虚ろで血色悪く、普段の明るく元気な彼とは違って見える。変わらないのは、どんな彼でもイケメンってことだけだ。(はぁ…顔色悪いのに、顔はいい。好きだわぁ。)

 

 …と、考えている間に、廊下の端まで来てしまった。彼は、また壁に頭を打ちつけている。どうやら方向転換は出来ないらしい。サッと回れ右させて、歩く彼についていく。

 

(なんだか、映画でよく見るゾンビみたいね。

いやいや、まさか…ね?)


 そういえば、あの日の朝は教室の近くで叫び声とか逃げ回る人がいたかもしれない。正直、彼しか見てなくて気にしてなかったが、他にも襲われてたのかもしれない。

 そこで、ふと彼を見る。彼がゾンビ?になったということは、彼も誰かに噛まれたということだ。


(誰に?誰に噛まれたんだろう。まさか…女?)


 彼が誰かに、それも女に噛まれたのかもと考えた瞬間、胸の辺りがモヤっとした。

 彼は、クラスでも目立つ人で、とにかく女子から人気があった。たとえゾンビのようになっても、好みの男性が目の前にいたら噛みつきたくなるに違いない。いや、絶対噛みつく。もし私がゾンビなら、一番に彼に襲いかかる自信がある。


(どこを噛まれたのか確認しなきゃ。)


 私は彼に近づくと、全身くまなく確認するため、彼の体をそっと壁に向けた。

 そのまま、全身を見ていくが足や腕、体にも傷痕はなかった。首にも傷はない。最後に頭を見てみると、右耳に歯形がくっきりとついていた。


(耳を噛まれたのね。千切れたりしてなくてよかった。)


 彼の体の向きを変える。歩きだした彼の後ろを付いていきながら、私は安堵した。

 耳を噛まれたということは、襲ったのはたぶん男子だったはず。何故なら彼は身長が180cmを超えるので、女子なら普通に考えて届かない。だから、きっと相手は男だったはず。男でも少しモヤっとするけれど、女に比べればまだ我慢できる。

 

(あっ。そろそろ突き当たり)


 彼が誰に襲われたのかは結論が出たので、一先ず置いといて、これからどうしようかと考える。このまま進めば、また壁に当たって頭を打ち続け、回れ右しても廊下を端まで進むだけ。この階には、誰も居ないようだし外に出て人を探すのもいいかもしれない。


(階段下りることできるかな)


 次に、端まで着いたら階段に向けて誘導してみることにして、彼に近づく。彼は無言で前を向き進んでいく。まるで彼には私が見えていないようで、寂しく感じた。

 

 廊下の突き当たりになり、階段の方に体を向けると、彼はそのまま前進し始め階段を下り始めた。一応、段差も問題なく歩けるようだ。1階へ下りてみるが誰も居なかった。そのまま玄関から外へ出る。運動場では、数人の生徒らしき人がいたが、普通ではなさそうだった。


(みんなゾンビのようになってしまったということ?生きてる人っているのかな)


 校門から出ると、街頭の明かりに照らされてゾンビのようになった人達が、ウロウロと歩きまわってるのが見えた。見た目は完全に映画のゾンビのようなので、取りあえずゾンビと呼ぶことにした。


「おーい!!ゾンビさーん!」


 発声練習も兼ねて私の声に反応するかどうか、大きな声を出してみるが、ゾンビ達は一瞬動きが止まり唸り声を上げ周囲を見渡すが、私には気づかず何事もなかったように歩きだした。ゾンビ達には、なぜか私は見えてないらしい。目の前の彼にも気づかれないのは悲しいが、生きてる人を探すには他のゾンビに邪魔されないのは好都合だ。


 そのまま街中を歩き続けると、少しずつ夜が明けてきた。結構な時間歩いているが、周りを見ても、人どころかゾンビもいつの間にかいなくなっていた。


(誰もいないな。ゾンビもいないけど。

ゾンビって太陽の光にあたると死ぬとかないよね。)


 しんと静かな街並みに不安になってきた時、彼が急に何かに反応して走り出した。


 「ヴヴゥ…ヴッ…ヴッ…」


 唸り声を上げながら走る彼の後を必死で追いかける。すると、あるコンビニの中に彼が入って行く。


(まさか、太陽が苦手で、陽が当たらないところを探して?)


 私も急いで彼を追い、コンビニの中に入り彼が無事か確認しようとすると、まさかの光景が目に飛び込んできた。


「キャー!!やめてぇ!」


 女性の叫び声に、その方向を見ると彼が女性に襲いかかっているところだった。

 その瞬間、私の中の何かがブチッと音をたてて切れた。


「何しとんじゃ!コラァ!」


 女性に噛みつこうとする彼の体を思い切り引き離し、女性に向かって体当たりする。すると女性は後ろに倒れ込み尻餅をついた状態で、こちらを困惑の顔で見上げていた。

 引き離された彼は「ヴゥッ…」と、唸り声を上げて、またも襲いかかろうとする。女性に噛みつこうとする前に、私は自分の腕を前に突きだし彼がそれに噛みついた。


「…っ!」


 彼が他の女に触れるくらいなら自分が噛まれた方が断然いいと腕を差し出したが、腕が折れそうなくらいの力で押さえられ、噛み千切られそうな程の力で、あまりの痛さに、考えるよりも先に手が出てしまい、つい彼の頭をスパーンと平手打ちする。

 すると、彼は突然顔を上げ、驚いたような顔で左右を見回し私から距離を取った。

 その後は、女性に襲いかかることもなく、「ヴッ…ヴッ…」と声を出し、細かく呼吸を繰り返しながら私の方を見つめていたが、少しすると落ち着きを取り戻し、今度は女性に見向きもしないで店内を歩きだした。

 私は、すぐさま彼を捕まえて、飲み物が並ぶ冷蔵庫に彼の体を向けた。するとコンッコンッと音を立てて冷蔵庫のガラスに頭を打ちながら、留まってくれた。


「あ…あの、あなた…その…今…噛まれて…」


 その聞こえた声の方へ目をやると、恐怖でひきつった顔でこちらを見る女性と目があった。

 彼に襲われたことと、たぶん噛まれたので私がゾンビになると思って恐怖と警戒心で女性も必死なようだ。

 私も、彼女を見つめながら必死で耐えていた。彼に噛まれた痛みなど比べものにならないくらいの胸の痛みに………。


「あの、その、大丈夫…です…か?」


 今度は不安そうな声で、声をかけてくる。

 私は、その声にさらに必死で耐える。胸がギュウとして、息苦しい。


「えっと、彼は…その…」

 

 女性が彼のことを口にした瞬間、耐えていた何かが溢れだし、血が沸騰したような感覚にカッと体が熱くなる。ズキズキ痛む胸が苦しくて苦しくてしょうがない。

 彼が、今普通の状態でないことはわかっているし、普段の彼のことを信用しているが、彼に触れられた女性に対して嫉妬で若干殺意が沸いた。


「彼は、その、感染してると思…」


 あぁ、もう無理。


「あなた、さっきから彼のこと聞いてくるけど、ちょっと襲われて噛まれそうになったからっていい気にならないでよ!彼は今、普通じゃないの!だから人間のあなたを襲っただけで、別にあなたに気があるからじゃないの!勘違いしないで!」


 女性の言葉を遮り、勘違いしないように釘を刺しておく。

 

「はっ?えっ?そうね。わかってるわ。彼は感染者なのよね。あなたは?大丈夫なの?」


「私?私は彼の彼女よ。もちろん大丈夫に決まってるでしょ。付き合ってもうすぐ1年になるけど、誰にも邪魔できないくらいラブラブなんだから。最近も登校した時に、首筋にキスされてキスマーク(歯形)つけられるくらい、仲良しなんだから!」


 ちゃんと私が彼女ですって伝えて、念のため仲の良さもアピールしておく。少し話を盛ったところもあるけど、まぁラブラブなのは本当だし嘘は言ってない。


「へ…へぇー。そう…なんだ。二人お似合いだね」


 ひきつった笑顔でそう言う女性。ちゃんと自分の立場を理解したらしい。

''お似合いだね''の言葉に上機嫌の私は、胸のモヤモヤも取りあえず落ちついた。


「それで、お姉さんはここで何をしていたの?」


 座り込んだままの女性に手を差し出し、引っ張り起こすと、女性は安堵した様子で話し始めた。


「助けて頂きありがとうございました。私は自衛隊員で名前は佐藤と言います。人命救助のため、この地域に派遣されて来たのですが、えっと、噛まれたように見えましたが、あなたは今普通の状態ですか?」


 自衛隊ということは、国が関わっているということだよね。どこに行ってもゾンビだらけだから不安だったけど、ちゃんと生きている人もいるらしい。自衛隊なら何が起こってるか分かるかもと、私は意識が戻ってから今に至るまでの話を佐藤さんに説明した。


「ということは、あなたは以前にも感染者に噛まれたということなの?!それなのに治った?」


「熱烈なキスされたくらいの感じです(ガチ噛みで死にかけるくらいだったけど)」


 へぇぇと、佐藤さんが遠い目をして、私の言葉をスルーして、話しを続ける。


「私も詳しい事は知らないの。ただ、感染症が広がっていて、その原因は未知のウイルスらしくて、今のところ治療法もないらしいの。噛まれることで感染するのよ。」


 本当に、ゾンビ映画のようだ。でも、ゾンビと違うのは、ウイルス感染で病気の状態なので、感染者は生きているようだ。ただ、ウイルスの生存本能から新しい宿主を見つけると襲ってくるらしい。先程彼が突然走り出したのは、佐藤さんの気配に気づき、ウイルスの本能のため襲いかかったということだ。


「もし、よかったら私と一緒に対策本部へ行ってくれないかしら。あなたは噛まれたにも関わらず自然治癒したかもしれない貴重な症例なのよ。上手くいけば治療法や予防も出来るようになるかもしれない。もちろん彼も救えるかもしれないわ。」


 彼が救えるという言葉に、私は直ぐに了承した。早く状況を本部へ伝えたいと急いで戻ることになったが、問題が二つ。彼をどうするかと、他のゾンビに遭遇する可能性が有る事だった。私と彼は他のゾンビに襲われないけど、佐藤さんはそうはいかない。佐藤さんが感染してしまうと本部まで戻れないので、何とか佐藤さんを守らなければいけない。もちろん彼を置いていく選択肢も却下だ。彼とはどんな時も一緒にいたい。めちゃくちゃ大好きだから。万が一彼と離れてる間に、彼が他の女に襲いかかる事があれば、私は理性を失って、全女性を滅ぼすかもしれない。


「もし、彼が佐藤さんを襲うなら全力で止めるので大丈夫ですよ。絶対に何がなんでも佐藤さんには指一本触れさせません。安心してください」

  

 世界の為にも女性の為にも、私が彼と佐藤さんを守らなければと改めて気を引き締める。


「いろんな意味で不安はあるけど、でもあなたが一緒なら大丈夫な気がしてきたわ。」


 佐藤さんを説得して、三人で本部へ向かうことになった。話し合いの間、冷蔵庫に向かっていた彼の体の向きを変えて、誘導しながらコンビニから外へ出る。外はすっかり陽が昇り明るくなっていた。


 不思議なことに、彼と私で佐藤さんを挟んで歩いてると、ゾンビに遭遇しても襲われることはなかった。認識されにくくなるらしい。もちろん彼が佐藤さんを襲うこともない。佐藤さんも必要以上に彼に近づくことはせずに、私を見つめて「命は大事だから」と一定の距離を保って歩いていた。思ってた以上に快適な行程だった。さらに彼に少し変化が現れる。少しずつ顔色が戻ってきたのだ。しかも、「ヴッ…ヴッ」としか声も出さなかったのに、「アッ…ア…ィ」と言葉らしきものを話すようにもなった。まだ何を言ってるのか聞き取れないが、そのうち話せるようになるかもと期待してしまう。


 それから数時間。彼を誘導しながら歩き続け、陽が落ち始める頃にやっと対策本部へ辿り着いた。私達を見て警戒していた自衛隊の方達も、佐藤さんだと分かると、喜んで歓迎してくれた。そして、事情を話すと直ぐに奥へ通されて、上官らしき人や白衣を着た人などの前へ連れてこられた。まずは佐藤さんが全て事情を説明する。話を聞いた人達は、「まさか」とか「事実なのか」など、驚きと期待と入り交じった様子で、こちらを伺う。上官らしき人から、まずは検査をさせて欲しいと提案があり、私と彼は一緒に白衣の人に連れられて、どこかの施設に運ばれ、採血やらレントゲンやら検査を受けた。

 特に彼に関しては、少しずつ症状が落ち着き改善している様子もあり、言葉も少しずつ話せるようになった。彼の経過を間近で観察していた研究者達は驚きに言葉を失っていた。

 因みに最初の言葉は私の名前だった。あまりの嬉しさで彼に抱きつき押し倒してしまったのはしょうがない。

 

 さらに、私の血液からはウイルスに対して抗体が見つかった。それを元に治療薬の研究開発が進められることになったが、現在感染してる人をこのままにしておくことは出来ないため、私の血液をそのまま感染者に使用する事になった。彼が、私の血液から治った経緯があるので他の人にも試したら効果があったらしい。微量でも効果があるらしく、定期的に無理のない範囲で献血している。


 あれから、私はゾンビになっている時の自分の記憶を思い出した。彼に噛まれゾンビ化した私は、そのまま彼の後を追いかけていたのだ。普通はウイルスが生き延びる為にも健康な人間を探すはずが、私はゾンビになってからも、彼の後を追いかけ、彼が誰かを襲うのを阻止していた。ゾンビでもヤキモチは焼くのだ。

 そして、これはあくまで推測に過ぎないが、私の体で抗体が出来た理由は、彼を正気に戻すためだと思う。彼が誰かを、特に女を襲うのに我慢できず、邪魔するよりも治す方に体がシフトした結果、抗体が作られたのかもしれない。

 生存本能よりも、彼への大好きな気持ちが強かったらしい。医療者や研究者からは、なぜ私にだけ抗体があったのか分からないと言われたが、たぶん彼への愛の重さゆえ奇跡が起こったということだろう。佐藤さんは、私の話を聞いて唖然としていたが、変な風に体が変わらなくて、全女性が無事で本当によかったと言っていた。


「アイラとまた一緒に過ごせて、僕は幸せだよ。これからもずっと一緒だよ。大好きだよ」


「私も大好き。だからよそ見しちゃだめよ。」


 全人類の為にも、私だけ愛してね。

 



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