第8話 Scene:翼「あいつらさ、もうちっと上手く隠せってんだよな」
光を連れて撮影現場に来た。
光はちゃんとセリフを覚えていて、きっちりと役をこなした。
芸能事務所と言っても、出演料がそこから振り込まれるというだけで、何から何まで自己責任でスケジュール管理をしていかなければならないらしい。
「次の仕事はウェブに掲載されるCMの話がきてるけどやる?」
「うん」
「本当に引き受けていいのか?」
「うん、やるよ?」
あれから颯とどうなったのかは知らない。
望がフェスをやろうと、盛り上がっているところを見ると、現状維持ってところだろうか。
「このまま授業行くぞ」
「うん」
車を走らせる。
朝早い撮影だったから、午後の授業に間に合う時間に終わってよかった。
4年にもなると必修科目の授業は少ないが、せっかく卒業間近まできてるんだ、まさか留年はしたくない。
「次の撮影は一人で行くよ」
光が言った。
「どうして?」
分かっているけど聞いた。
「翼は授業でなよ」
当たった。
「気にすんな、卒業は問題ないから」
「ありがと。ごめんね」
近くに車を停めて、校舎まで走る。
「せっかくのギャラも、交通費で消えちゃいそうだな」
「ホント、なんのためにやってんだかって感じだね」
大学は好きなんだろう。心なしか、光の表情が明るくなった。
「おーい!」
光が望に手を振った。
望が颯と座って、俺たちの席も取っておいてくれていた。
ふたりは顔を近付けて、何かを覗き込んでいる。
(あれ?)
ハッと、顔を上げた望が手元を隠した気がした。
ふたりの距離が微妙に近いような気もする。
光を見る。こいつも気が付いたかな……
「危うく授業、遅れるとこだった」
「撮影どうだったのー?聞かせて、聞かせてー!」
「緊張したよ。でも一発でオッケーもらった」
光はいつもと変わらない。俺の気のせいだったのか。
「授業終わったら、ファミレスに行かない?フェスの計画練らないとだし」
光が言った。
「えっと……今日はちょっと……」
そう言って、望が颯を見た。
「あのさ、それはまた今度にしないか?俺も予定があって……」
あまりにも不自然。颯、『予定』って何だよ。もう少しまともな嘘つけないのかよ。
「光も朝早くて疲れてんだろ。今日はやめといた方が俺もいいと思うよ」
引っ込みのつかなそうな光に助け舟を出す。
「そうだね。またにしようね」
また光がしゅんとしてしまった。
授業が終わり、パーキングまで歩く。
「お前さぁ、これ置いてファミレス行く気だったのかよ」
車を指さし、光を睨む。
「ごめん。すっかり忘れてた」
泣きそうな顔して、笑うなよ。痛々しい。
「あいつらさ、もうちっと上手く隠せってんだよな」
「え?」
「望と颯だよ。二人で何か用があるんだろ?」
「やっぱ、そう思うよね」
「見え見えだよ」
乱暴に車に乗る。俺もイラついている。
「買い物していくか」
「そうだね。今日の夕飯当番、私だね」
「代わってやるよ。疲れてんだろ?」
「大丈夫」
可愛くないやつ。
次の仕事のオファーは、ウェブに掲載されるヘアケア用品のCMだった。光の魅力が、これ以上ないというほどに引き出された仕上がりになった。
「光ちゃん、ほっんと良かったよ!このラインナップ、全般、光ちゃんを起用して撮り直しを考えてみないか、会社に持ち帰って検討しようと思うんだけど、決まったら引き受けてくれるよね?」
依頼主である会社から来た中年男性が興奮気味に光にしゃべりかけている。
「はい」
おい、こら、なに勝手に返事してんだよ。
「あ、事務所を通していただければと……」
「もちろん。だけど、本人の意思を聞くくらい構わないだろう?」
「ですね」
この日の撮影は夜中までかかり、さすがに光はぐったりと眠っている。
家に着いたけど、助手席の光をどうやって起こそうか迷う。
携帯を手に取ると、望からメッセージがきていた。
『明日、フェスのミーティングやろらない?』
颯がスタンプで、OKを送っている。
さすがに明日は厳しいかな、と光の寝顔を見て思う。
『明日は仕事入ってるわ』
ゴメンのスタンプをつけて送っとく。
「光、着いたぞ」
いつまでもこうしてるわけにもいかない。
「ごめん寝てた」
光とエレベーターに乗る。
「望から明日、フェスの件で会おうってメッセージが来てたけど」
「そう」
「断ったよ」
「ありがと」
マンションの10階、鍵を開ける。
「別日、希望送っとくけど、いつがいい?」
「いつでもいい」
「先に風呂入って寝ろ」
「うん、ありがと」
スケジュール帳を見ながら、携帯を取り出す。
『今週末ならOKだけど、どう?』
既読が即ついたけど、返事がない。
既読がふたつ、まだ、返事がない。
いつもなら即レスの二人が、なんで……と思わなくもない。
俺の考え過ぎならいいんだけど。




