第7話 Scene:光「私たち別れよう……」
オーディションには翼が付いて来てくれた。
オーディションと言っても、横に他の候補者が並ぶようなことはなく、どちらかと言うと就職の個人面接のようなイメージだった。
「月岡光さん」
「はい」
つるんとした白い壁の四角い部屋に、長テーブルとパイプ椅子がセットされている。
「いくつか質問させてくださいね」
聞かれたことは志望動機や今後やりたい事などではなくて、自分をアピールする事も求められず、ひたすらに過去の男性経験や現在の交際についてばかりだった。
「俺たちには3年も隠してきた癖に、初対面のおっさんには何でもしゃべるんだな」
帰りの車の中で、翼に言われた。
「だって……」
自分でも驚いてるけど、本当は話したかったんだと思う。
翼にだって、望にだって、私の恋を応援して欲しいって思うのは本来自然なことだよね。
「颯の家で降りるか?」
「うん。ありがとう」
「この前は言い過ぎたよ、ごめん」
「ん?」
「性格悪いって言ったこと」
「ああ、いいよ。本当の事だし」
そう言って、車を降りた。
翼がもっと叱ってくれたらよかったのに。
変なところで優しくするから、私の性格の悪さが直らないんだよ。
颯はカレーを作って待っててくれた。
「どうだった?」
「とりあえず、お仕事もらった」
「まじか?!」
「ちっちゃい役だよ。エキストラみたいなの」
「へぇー、でも、すごいじゃん」
よそったカレー皿を並べて、スプーンを隣に置いた。
「いつ?」
「2週間後。で、翼がマネージャー代わりに送り迎えしてくれるって」
「そっか。よかったな」
言わなくちゃ。
「翼にバレてたの……」
「えっ……俺たちのこと?」
「うん」
「そっか」
言わなくちゃ。
「お仕事受けるなら、男性との交際は控えて欲しいって」
「どうせ誰も知らねーんだし、これまで通り隠し通せるだろ?」
「翼も同じこと言ってた」
「売れっ子アイドルじゃあるまいし。今時、男女交際禁止ってご時世でもないだろ」
言わなくちゃ。
「私たち別れよう……」
「なんでだよ……!」
「隠し通せない」
「どうしてだよ。光、そんなに芸能界に興味持ってたっけ?」
「事務所にじゃない。望に隠し通せる気がしないの」
「……」
押し黙ってしまった颯と気まずくて一緒に居られず、カレーは食べずに出てきてしまった。
泣きたいのに、泣けない。
とぼとぼと歩いてたら、望がバイトしてるラーメン屋に来ていた。
「いらっしゃいませー!光!」
「ごめん、一人なんだけど」
「珍しいね!いーよ、いーよ、こういうとこは基本一人が多いよ!」
小さな二人用のテーブルに案内された。
「どうしたの?ラーメン食べたくなっちゃった?」
食欲なんてまるでない。
「ん、そんなとこ」
「注文が決まったら声かけてねー」
「あ、醤油ラーメンで」
メニューなんて見ても意味ないから、目の前にあったのを指さした。
望は「オーダー入りまーす」と言って、行ってしまった。
少し経って、お店のエプロンを外した望がラーメンを二つ持って来てくれた。
「私もちょうど上がる時間だったのー」
そう言って、私と同じラーメンを啜り始める。
「私のはまかないだけど、光のはお金払ってね」
「うん」
「どうしたの?元気ない?」
「あ、ううん」
望はお水のお代わりを取って来てくれた。
「今日、オーディションに行ってね……」
「ひゃー!スゴイ!どんなだった?聞かせて、聞かせてー!」
「就職面談みたいだった」
「えー!思ってたのと違うー!」
「私も、そう思った」
一緒に笑えた。
「で?で?」
「お仕事もらったの」
「おおっ!やったじゃん!すごい、すごーい!」
「ウェブドラマのエキストラみたいなやつだよ」
「セリフある?」
「一言、二言ね」
「きゃー!すごい、すごい!いいなぁー!」
いつも通りに接してくれる。
「あんまり美味しくなかった?」
箸が進まない私に望が小さな声で聞いてきた。
「ごめん。そうじゃないんだけど」
「あー!もしかして緊張してるのー?大丈夫だよ、光なら上手くやれるってー!」
「ありがとう」
「一緒に帰ろう、ね!」
望はぴょんぴょんと歩く。
「ねーねー、夏のバンドフェス出てみない?」
「え?」
「まだ、みんなには言ってないんだけど。ほら、もうバンドとか出来なくなりそうじゃん?」
「……」
「最後の思い出作りに、どうかなーって」
「いいね」
望が手を叩きながらジャンプしている。
「だよね、だよね!翼に言っといてくれない?私、颯に言うからー」
「えっと……望からみんなにメッセージ送ったら?」
「そう?じゃ、そうするねー」
望とバイバイして、一人で歩く。
望はちゃんと未来が見えている。バンド活動が永遠に続かないということを、きちんと受け止めている。私だけ……ずっとこのままでって、子どもぽい事を願っているのは、きっと私だけ。




