第6話 Scene:光「お前って、性格悪かったんだな」
なんで望じゃないんだろう。
こんなはずじゃなかったのにな。
部屋に入って、ベッドに寝転ぶ。
もう、帰ったのかな。
颯に連絡を取りたいけど、我慢する。
「このバンドでさ、好きな人ができても、解散するまでは付き合うとかなしにしない?」
高校生の時から、ずっと約束してた。
だけど、望のこれはちょっとズレてる、と思う。
このバンドで好きな人って、私の場合、翼はないわけだから…つまり颯しかいないわけで……望も颯が好きなのはバレバレで、言いたいことは分かったけど……変な約束だと思った。
こんな約束しなければよかった……
大学に入ってすぐ、颯に告白されて、私たちは付き合い始めた。
友達としてのバランスが崩れるのは嫌だから、望と翼に分からないようにしようって颯に言い聞かせて。最初は、嫌だったみたいだけど、私がそれを条件にしたから仕方なく飲んでくれた感じ。翼は望が好きっぽいから、翼が頑張ってくれれば、問題は解決するのにね、なんて。
翼、私たちのこと気付いてるっぽいな……
スマホが鳴った。
「私ちょっと出掛けてくる」
「行ってらっしゃい」
颯の部屋に向かう。
どんな話をしたのかな。
気になるけど、どこまで聞いていいのかな、どこまで話してくれるのかな。
勝手に鍵を開けて入る。
地元で育った私たちは家が近いけど、颯は部屋を借りている。
みんなが入り浸る、秘密基地のような感覚。
「あのまま真っ直ぐ帰ったの?」
「ああ、すげー凹んでた」
「だよね」
颯に抱きしめられる。
「オーディション受けるの?」
「うん。受けてみようと思うけど、反対?」
「いや。賛成」
安心した。
「望は嫌がるかな」
「光がスカウトされたのと、望に声がかからなかったのは別の話だろ。気にすんなよ」
「そうかな」
クッションを抱いて、カーペットに座る。
「望になんて言ったらいいと思う?」
「しばらくそっとしとくのいいんじゃないか?」
「そうだね。そうする」
颯が後ろに座って、すっぽり包まれる。
「俺たちの事も……今、望に知られないよう、気を付けないとな」
「うん。そうだね」
これ以上、親友の傷つく姿を見たくない。
コンビニでバイトをしてる颯が、夜のシフトがあるというので、一緒に出てきた。
「ただいま」
「お帰り」
うちの両親は、昔っから、ほとんど家にいない。
地方の大学の研究員で、そっちにマンション借りて住みながら働いてる。中3まではお婆ちゃんが居てくれたけど、もう歳だからって、自分の田舎に帰ってしまった。
「今日の夕飯当番、お前だから」
「分かってる」
冷蔵庫から野菜と豚肉を出す。
「塩コショウか焼き肉のたれ、どっちにする?」
「焼き肉のたれで」
簡単に野菜炒めで済ます。
「あのさ、気付いてるよね?」
「何?急に」
「分かってるでしょ?」
「お前と颯のこと?」
「そう」
ご飯は冷凍のをチンしよう。
「いつ知ったの?」
「割と最近だけど。いつから付き合ってるの?」
「大学入ってすぐ」
「……結構長いね」
「うん」
みそ汁は朝のを温め直す。
「望にバレないようにしろよ」
「分かってる。夕飯、出来たよ」
二人でテーブルに座る。
「「いただきます」」
手を合わせてからいただく。
「あのさ、翼……」
「なに?」
「望に好きだって、言わないの?」
「俺と望がくっ付けば、都合がいいってか?」
「そんなつもりじゃ……」
「じゃ、どんなつもりだよ。望が颯のこと好きなの知ってんだろ?」
「それは……」
「お前って、性格悪かったんだな」
ご飯が喉を通らなくなった。
翼はさっさと食べ終わって、自分の食器をさげて、部屋に行ってしまった。
どうしよう……ついこの前まで、楽しくて、仲が良くて、ずっとこのまま一緒にいられるって思ってたのに、少しずつ変わってきちゃった……もう戻せない……のかな……悲しいと言うより、緊張してる。なにかしようとするたびに、間違った方を選んでしまいそうで……
自分の食器を片付けて、部屋に行く。
スマホのランプが目に入る。
望からメッセージが来ていた。みんなに向けて。
『心配かけて、ごめんよー!光のお陰でコネクション出来そうだし、引き続き頑張るわ!応援よろしく!!』
どこまでも前向きで明るい望が、みんな大好きだ。
約束を破ってしまった、裏切りを続けている私は、翼の言う通り、性格が悪い。
望に謝ってしまいたいという衝動に駆られる。だけど、私の心が軽くなった分、もしかするとそれ以上に、望は苦しむ。だから、颯も翼も、望にバレないようにって釘をさしてきたんだよね。




