第50話 Scene:翼「キスしたくなっちゃったー?」
復活した望を連れて帰った。
「はーやーてー、来てたんだねー」
「ああ、光の荷物を持ってきたんだ」
「そっかぁ……」
望が「翼に犯されたー」とか言い出さないか、一瞬、息をのんだが、大丈夫そうだ。
「ほんとに、別れるのー?」
「もう、その話はお終い」
光は言い出したら聞かないところがあるからな。
しかも言葉が足らないから、相手が常に納得しているとは限らないというところが悩ましい。
「俺も、新社会人に向けて準備するし。しばらくはお互い集中期間ってとこだよな。望がさ、ケイコさんになりきってたのと同じだと思ってくれる?」
「あー、望のアドバイスだけどー。戻り方決めといた方がいいよー、じゃないと、強引にエッチ……」
慌てて望の口を塞いで廊下に出る。
「何もかもしゃべる必要はないんだよ!」
「あー、でも、ほんとーに困るからぁ……」
「言い方考えろよな?俺たちにもプライベートはあるだろ、な?」
「だねー、うん。そだねー」
望がリビングに戻った。
「集中期間をねー、いつまでか決めといたらー?」
光と颯がポカンとしている。
おそらく、さっき望が言いかけた事の意図を汲んだに違いない。恥ずかし過ぎる。なんで妹に俺の……もう済んだことはしょうがない。落ち着け俺。
「じゃないと、期間が終わらないまま、そのまんまお別れになっちゃうよー?」
「それは……マズいよな?」
颯が光に向き合った。
「そうね、そんなつもりじゃないから……」
「ほぉらね。光の研修期間が終わるまでとかぁ、颯の入社日までとかにしたらぁ?んで、足りなかったら、延長すればいーよー」
なかなか良い事言うじゃないか。戸惑っている二人に、俺からも後押しする。
「望の提案、受けないのか?良いと思うけど」
「俺は賛成だけど……光は?」
「私も、良いと思う」
望がジャンプして、光に抱き付く。
「じゃぁ、光の研修の結果が出るまでにしよー?採用が決まったら、またデートに行けばいーじゃん!もしも、採用にならなかったら、その時はまた期間、一緒に考えようよー」
「うん。ありがとう……望!」
女同士のハグ……いいもんだな。あいつら、本当、仲良しだしな。
俺も颯に近付く。「よかったな」と口を動かす。颯は涙目で頷いた。
「あー、お腹すいたー!」
「今日は、光が晩飯当番だから、颯も食ってけよ」
「お、ありがたい。光、手伝っていいか?」
「ありがとう」
ずっとこうして仲良しメンバーでいたいが、そう思うこと自体、解散が近いという事を自覚しているというサインだろう。いつまでも「子どもの頃と同じように」が続くわけじゃない。俺だけじゃない。ここに居る皆がそれぞれに感じ取っている変化だから、慎重になってるんだ。
「望、ゲームでもするか?」
「するー!これがいー!」
なんで、一度も勝ったことが無いゲームをやりたがるのか謎だ。
あまり変わってないように思える望でさえ、実は大きく変わっている。
仕事に対する姿勢や、俺にだけ見せる欲望を隠さない女の姿は、きっと他からは想像も出来ないだろう。
「ハンデちょーだい」
「ああ、自分で設定していいぞ」
無邪気に見えていろいろ考えているんだよな。頭の中がごちゃごちゃしてそうだけど、一生懸命整理して、皆に「良い事」を伝えようとしている。とんでもなく魅力的な人だよな、望は。
「ん?」
俺の視線に気が付いて、望が顔を近付けた。
「キスしたくなっちゃったー?」
「ああ」
望がキッチンに背中を向けて膝立ちする。
俺の体を隠して、両頬を包みチュッとキスをしてくれた。
「続きは、夜ね」
「ああ」
もうメロメロだ。
ずっと一緒に居たいと思ってしまうと、「結婚」が浮かんでくる。颯が光と結婚したいと言ったことを思い出す。颯は今でも同じ気持ちだろうか。
「もー!翼、強いぃ!」
負けてやるつもりだったのに……お前が下手くそ過ぎんだよ。
余計なこと考えながら、望の相手をしていたのに、気が付くと圧勝していた。
「そろそろ、出来るよ」
良い匂いがしてきた。
「人数多いから、鍋にしたの」
「わーい!大好きー!」
手慣れた手つきで皿を運ぶ望、俺はカセットコンロをテーブルに設置する。
「はい、颯のお箸だよー」
「望?いつの間に?」
光が驚いている。
「だって、全員のぶん、あった方がいーでしょー?これ、颯っぽいから、一目惚れしちゃったのー」
「嬉しすぎるっ!」
「泣かないでー、はーやーてー」
こういうところだよな。仲間思いで人を大事にする。望の事も俺ら皆で一生大事にするからな。




