第5話 Scene:翼「バンドでデビューかな?」
連絡をくれた芸能事務所の人とは、4人揃って会うことに決まった。
ということで、いつものファミレスで、DMを送ってきた担当者を待っている。
「バンドでデビューかな?」
ワクワクなのか、ソワソワなのか、感情が隠しきれてない望がずっとしゃべってる。
「落ち着けよ。そんなうまい話、そうそう転がってるはずないし」
「だって、私たちのライブ動画見て連絡くれたんでしょー?」
「そうだけど……思ってるのと違うかもだから、期待しすぎんなって話し」
「でも、ちゃんとした事務所の人なんでしょー?」
「まだ分からないから、これから確認しようね?」
望の期待が膨らみ過ぎないように、皆で必死に押さえる。
「お待たせしてすみません。月岡さんですよね、メールの返信ありがとうございました。小林と申します」
「はい」
俺らとあまり歳が変わらないじゃないかと思うような、お兄さんが現れた。
「君はドラムスだよね」
バズったゲリラライブには映っていないはずの俺の事も知っている。
それで他の動画も見てくれたんだと分かった。
「いろいろ見せてもらったよ」
「は、花里望ですっ!」
「ああ、ボーカルの子だよね。いい声してると思ったよ」
パアァッと望の表情が輝いた。
「そ、それで、デ、デビューさせてくれるんですかー?」
「望、落ち着けって」
「あはは。期待しちゃうよね」
小林さんは何も頼まず、俺たちに面と向かってこう言った。
「一人だけ、オーディションを受けてもらえないかな」
「ひとりだけですかー?」
「はい。あなたに」
そう言って、手を差し出されたのは光だった。
「……私ですか?」
「はい、ベースの月岡光さん。あなたに受けていただきたい」
「私は歌えませんけど……」
「構いません。歌手活動もしてもらうかもしれませんが、あくまでタレント枠って言うか、歌唱力は問いませんので」
「えっと……」
みんなで、望を見た。
目が死んでる。
「あの、望はどうして駄目なんですか?」
思わず言ってしまっていた。
「……。今、うちが探しているタイプの子じゃないんだ……よね……」
余計なこと言ったと後悔しても、もう遅い。
小林さんとは、後日、連絡をすることで話を終えた。
「見てらんねぇな」
ドリンクバーに行った望を見て、颯が言った。
「ずっと、デビューしたがってたもんね」
予め先方の目的を聞いておけばよかった。余計な期待をさせてしまったことを悔やむ。いっそのこと、泣きわめいてくれたら、掛ける言葉も見つかったかもしれない。
「ハンバーグでも食うか?今日は俺がおごってやるよ?」
「いらない」
「一緒にケーキ食べない?あ、イチゴパフェとか?」
「いらない」
颯と光が一生懸命慰めようとしている。
「ごめんな」
「いらない」
謝られても惨めなだけだよな。ごめん。
ファミレスでは望に掛ける言葉がなくて、颯が望を送って行くことになった。
「よかったのか?」
「仕方がないよ。落ち込んでるもん」
望は颯が好きだ。
だから颯が慰めれば、きっと早く元気になる。
だけど、光も颯が好きなはずだ。
そして、颯も光が好きだと思う。
「上手くいかねーな」
「本当、そうだね」
残った二人で、ハンバーグセットを食べた。
「お前、オーディション受けるのか?」
「うん。受かるか分かんないけど、せっかくいただいたお話だから挑戦してみようかな」
「そうか」
少し意外だった。
人見知りの光が、芸能界のオーディションに挑戦するなんて、言い出すと思ってなかった。
「望、私のこと、嫌いになるかな」
「ならねえだろ、何でそう思うんだよ?」
「だって、ずっと頑張って来たのは、望なのに」
「望の為にオーディション受けるんだったら、やめとけよ」
「……」
「それは、お前自身にも望にも失礼だと思う」
「……そんなつもりじゃない」
光と望は、性格も見た目も真逆だ。一見、共通点がなく、どうして仲がいいのか分からない感じがする。ところが、どういうわけか、互いが互いの足りない部分を補っているようなところがあり、子どもの頃から気が合うみたいだった。
そんなこんなで小学校の低学年の頃から、ずっと一緒だ。
俺と颯は部活や受験の時期にはべったり一緒に居ないこともあったが、光と望はいつだって一緒だ。これが女の友情ってやつなんだろうか。
「パフェ食うか?」
「ご馳走してくれるの?」
「今日だけな」
「珍しい。ご馳走になります」
思ってることが、同時に口から出ちゃう望と、思ってることを上手く言えない光。だけど、俺は光の方が分かりやすい。なんてたって、双子だからな。
「ガンバレよ」
「ありがと」




