第4話 Scene:翼「セクシーショットを撮ってー」
「おーはよ!」
望が背中に突進してくる。
「普通におはようって言えないのかよ?」
「ふつーに、言いましたぁ」
ちんまりしたこいつは、華が無くて顔は地味だけど、言動が目立つ。
学校のやつらがこっちを見ているけど、怖いもの見たさと言うか……珍しいものを見るような目で、こいつを見ている。ついでに、こいつと一緒にいる俺も、おそらく変なやつ認定をされている気がする。
「ねぇねぇ、面談の日、なに着ていけばいーかなー?」
「それでいいんじゃない?」
「もぉ、てきとー過ぎ!」
「適当じゃないよ。いいと思うけど?」
「えー、ウソ臭い」
何でそうなるんだよ。
「颯に聞いてくるー」
はいはい。
お前のことは颯より俺の方が分かっているはずなのに、ちっとも信用されてないってことなんだな。
「はーやーてー」
聞いてくる、と言っといて呼びつけている。やっぱり強者だ。
「ねぇ、面談の日、なに着ていけばいーと思うー?」
「それでいいんじゃない?」
だよな?今日の服、似合ってるよな?
「やっぱりぃ?」
なんだそりゃ。
芸能事務所からDMが来て以来、望のソワソワがどうにも止まらない。
こいつは子どもの頃からずっと芸能界に憧れてて、デビューを目標にいろいろやってきた。
バンドも最初はその活動の一環だったが、歌の上手さは天性のもので、いつか誰かの目に留まるといいなとは思っている。
「昼どうする?」
今日は午前と午後の授業の間にぽっかりと時間がある。
「食べないもーん」
「え!なんで?」
光がびっくりして、組んでた足を机にぶつけた。
「ダイエット中なのぉ。面談で可愛いって思われたいもーん」
「もう十分、可愛いって。それ以上痩せたら危険だよ……」
「そうだよ。逆に可愛くなくなっちゃうぞ?」
光と颯が必死だ。
望はやせっぽっちで、小さくて、胸もないし、これ以上痩せる意味が分からない。
「望は美味しそうに食ってる顔が一番可愛いよ」
俺も加担する。
「そうそう、翼の言う通り、なんか食おう、な?」
「うーん」
本人は納得いってなさそうだが、皆、健康状態を心配してるんだ。
無理矢理、学食に連れて行く。
「蕎麦ならいいだろ?」
「……」
俺が言っても無駄だ。颯に目配せする。
「蕎麦ならいいよな?」
「う……ん……」
すかさずチケットを買う。
「あれぇ?みんなも、お蕎麦が食べたかったのー?」
ずらっと並んだ、4杯のかけ蕎麦。
「そうそう。望の見てたら、なんか今日はお蕎麦の気分になっちゃったの」
「俺も」
「俺も」
こんなお前の前で、ハンバーグとか食いずれぇだけだよ。
「そっかぁ!みんな同じだねー!」
ようやくご機嫌を直したお姫様は、お蕎麦を美味しそうに啜り始めましたとさ。
「あー、ねー、光と颯は?」
「さあ」
あの二人のことは、放っておいてやれよ。お前のためでもあるんだ。
「まさか!二人で映画とか行っちゃったんじゃないよねー?」
「そんなことしねえだろ」
「えー、でもぉ……」
「そもそも、お前が俺と先に行って、抜け駆けしたんだろ?」
「あ、そっかー」
ベロを出す。子犬みたいだ。
「じゃー、翼でもいっかぁ」
「はいはい。俺ですみませんね。で、なんのご用ですか?」
「セクシーショットを撮ってー」
「!」
そう言って、望の携帯を持たされた。どうやって止めればいいんだよ。この場で、光と颯の協力が必要なのは、俺の方だった。
「なんの為に?」
「芸能事務所の人に渡すんだー」
「……なるほど」
「ヌードはとりあえず、また今度にしてぇ、ちょっと、エッチなの撮ってくれないー?」
そう言って、ブラウスのボタンを外して、俺の方に顔を上げたままお辞儀をする。
やろうとしている事は理解できるが、間違っている。
「やめとけ」
「なんでぇ!早くー!」
「逆効果だ。エロくない」
「そんなの知ってるけどぉ、胸の谷間を撮ってよー!」
「谷間なんてどこにあるんだよ」
「えー?」
そう言って、望が自分の胸を見た。
「谷間は存在しない。へそが見えてる」
「あ、ほんと。おへそだー」
「お前はエッチな路線は向かないから……」
「からぁ?」
「えっと……メルヘンな感じで行け」
「メルヘン?どうやるのー?」
「知るか!」
まったく。自分を分かってないにも程がある。
「分かったら、ボタン止めろ」
「あーい」
努力と根性は買うんだが、いかんせん、無鉄砲なうえに、方向性がおかしい。
こんなんでデビューなんかさせられるかよ。
「ロリコン受けならするかなー?」
「するかもな」
「じゃ、お尻見せた方がいいってことー?」
「ちげえよ!」
もう、光と颯はどこ行ったんだよ。
今日の望の暴走は、俺一人では止めきれない。
「翼の、バーカ、もういいよ。光に電話するからぁ」
ああ、是非、そうしてください。
こうして、無理難題を押し付けられそうになっていた俺は、お役目はご免となりましたとさ。
いったい、なんで、俺はこんな女が好きで好きでたまらないんだよ。
ふぅ~




