第39話 Scene:望「昨日、浮気見た」
光ってば、とっても楽しそう。一緒にお買い物って、たぶんそんなに来たことなくって、こういうの本当、楽しいね。
「颯、光のこと誰かに取られるんじゃないかって、心配してたー。かわいーよねー」
「そんなことあるはずないのにね?ふふ」
私もずっと颯のこと好きだったはずなんだけど、今はもう、その気持ち思い出せないんだよな。
「光も颯の浮気現場見て、怒ってたー、かわいー」
「あ、あれは!浮気現場なんかじゃないよ!」
「そーだっけー?」
光ってあんまり思ったこと言わないから、こういうの面白い。
「ただ、会社の先輩になる人に話を聞いてただけなんだって。あの人、うちのOGらしいし。何さんだったかはちょっと覚えてないけど……」
「へー」
「本当だよ?颯はいやらしいこととか、してないからね?」
「分かった、分かったー」
「もうっ」
ちょっと言い過ぎちゃったかも。あんなに眉間に皺が寄っちゃって、美人が台無し。
「うそ、うそ、ごめーん。颯ってば、光のことばっかり私に話すんだよー?光のこと好き過ぎじゃないってくらい、ほんと、大好きだなんだねー」
私の気持ちにこれっぽっちも気付いてくれなかった、颯は鈍感で一途な男だよね。
「これ、よくない?」
薄いピンクとベージュのスニーカー。
「えー!ちょーかわいいー!」
「だよね。これにしようっと」
光のお会計を待って、一緒に帰る。
「今日は颯がいないから、そっちで一緒にご飯食べていい?」
「いーに、決まってるー。ってか、そもそも光んちだし、あははー」
おしゃべりしながら、ファミレスの前を通った時、颯が見えた。
「はーやー」呼ぼうとしたら、光に口を押さえられた。
「また、ほら、あの人」
あ、女の人と一緒にいる。あの人、私、分かる。由香先輩だ。
「この前もあの人といたのー?」
「そう。なんでまた会ってるんだろう」
「こういうのは、こそこそしてても意味ないから、話しかけよーよ?」
「いや、いい。信じてるから」
光はものすごい速足で行っちゃうから、私は走って追いかけた。
夕飯食べて、光は颯んちに帰った。送って行った翼が帰って来て、私に言った。
「光、何かあったの?」
「颯の浮気現場、見た」
「げっ」
翼が私の背中から、ぎゅってした。あったかくて気持ちいい。
「時間あるから、ちゃんと全部話せ」
「うん」
今日見たことと、光と話したことを思い出しながら順番に言った。
「その人ね、由香先輩だった」
「由香先輩!」
翼が繰り返したから、私と同じこと考えてるって分かった。
「あの人、嫌な感じー」
「だな」
由香先輩は颯のこと狙ってた。いつも私の邪魔してきた。
「光は知ってんの?」
「名前すら覚えてないってー」
「なるほどな」
「もう全部話したよー」
翼にぎゅってする。翼がちゅってしてくれた。翼にちゅってお返しする。
「颯は鈍感だし、光はちょっとズレてるとこあっから、ちょいちょい話し聞いてやってな?」
「うん、任されたー」
光のことは、望にお任せあれなのだ!
光はスニーカー履いて朝からお仕事に行ったから、今日の授業は翼と颯と三人。
「はーやーてー、昨日、浮気見たー」
「は?何それ。俺じゃねえし」
「由香先輩といたー」
「あ、俺だわ」
なんか、思ってたのと違う。どうしてそんなに慌ててるの?
「なに話してたのー?」
「会社のこと聞いてただけだし」
「ファミレスでー?」
「家に呼ぶわけに行かねえだろ。光と約束したし」
「二人きりでー?」
「たまたま会ったんだよ。有休だったんだって」
颯は鈍感だけど、嘘も付けない。
「なんか、焦ってるー?」
「あ、焦ってなんかねえよ」
「由香先輩、お前のこと気に入ってるから気を付けろ」
黙って聞いてた翼が応援してくれた。
「お、ま、ら、何でそれ、知って……!」
「知って、ってなんだよ。お前こそ、由香先輩の気持ち知ってて会ってたの?」
「まさか!昨日、言われたんだよ!まじで、焦ったわ」
「なんて返事したのー?」
「返事?んなもん、求められてねえよ」
ふーん。由香先輩、手強い。
「もう、会わないでしょー?」
「同じ会社で働くんだから、会わないってのは無理だな」
「でも、二人きりにはならないでしょー?」
「それは、約束する」
「約束ー!」
颯と指切りしたから、一安心だね。
「翼、まだ気になるー?」
あんまし元気なさそうだから、聞いてみた。
「気にはなるけど、どうしようもないよな」
なにかしてあげたかったら、翼とも指切りした。
「大丈夫ー、上手くいくって、約束ー」
「ああ、そうだな」
その翼の笑った顔、一番好きー!




