第36話 Scene:光「双子だからな」
望はあの後、私と手を繋いで颯の家に行ってくれた。
そして汗だくになってる颯と翼を前に、涼しい顔をしてこう言い放ってくれた。
「仲直りしたいなら颯が謝ってー!」
颯は「はい」と答え、私に頭を下げて「ごめんなさい」と言ってくれた。
その後は、私を見つけたのに何ですぐに連絡しなかったんだとか、夜遅い公園で女の子が二人だけでいるなんて危ないとか、翼から散々お説教をくらった。望はしょんぼりと聞いていたけど、ようやく解放されて二人になった時に「はぁ、うるさーい」と言った。私だけに聞こえる小さな声で。
「ちょっと!聞いてなかったの?」
笑える。
「聞いてたよぉ。だからうるさいって思ったのー。えへへー」
「ありがとう」
一緒に仲直りに付いて来てくれて、一緒にお説教を受けてくれて、こうして笑える。
大事な大事な唯一無二の私のお友達。
「私ね、コスメのマーケティングのお仕事したいなって思ってるの」
「いーねぇー!」
初めて話す、私のやってみたい事。
「CM出演させてもらってね、もともとお化粧品好きだし、宣伝広告の担当者さんとお仕事してるうちに、私もそういうお仕事に携われたらいいなって、思うようになって」
「ふんふん」
「就職課で探してみたけど、そういう求人は無くて……」
「じゃあさぁ、この前のCMの会社に頼んでみたらー?」
「え?」
「きゅーじん」
それはいいアイディアかも。
「やっぱり望に話して良かった!そうしてみる!」
「上手くいくといーねー!」
受けていたウェブに流すCMのシリーズの撮影は既に終わっていた。
翼なら連絡先を知っているかもしれない。
「あのね、相談があるんだけど」
「おっ、珍しい」
「あのコスメの会社の担当者と名刺交換ってした?」
「したよ、いる?」
そう言って、名刺入れを取り出す。
「いいの?」
「いいだろ?」
三枚の名刺をくれた。
「この人がいつも現場にいた女の人、こっちがたまに来てたオジサン、で、この人は初回だけ来た女の人、たぶん偉い人」
「そっか」
「内容にも寄るけど、基本的に、このオジサンに相談するのがいいと思う。忙しそうだから、まずはメールで」
「ありがと」
「上手くいくといいな」
「なんでも分かっちゃうんだね」
「双子だからな」
翼のアドバイス通り、オジサンにメールを送った。
内容は簡単に、求人があれば応募がしたいといった用件だけにした。
そうしてその数日後、私は今、会社訪問に来ている。
オシャレとは言えない、白いパーテーションが立ててあるだけのミーティングスペース。
「月岡さん!我が社に興味を持っていただけたんですね」
「突然すみません。もう卒業が近いんですが、あまり就職活動に時間を割いてこなかったものですから……」
「いえいえ、こちらが無理に追加の撮影をお願いしたのが悪いんです。相当な時間、奪っちゃいましたね。この度は連絡をくれて有難うございました」
プラスチックのカップに入れていただいたコーヒーを手に、和やかにお話をする。
「早速ですがね、月岡さん。人事に確認してきたんですが、今、弊社で求人を出しているのはマーケティングのアシスタント業だけになっていましてね」
「はい」
「正直、華やかな仕事ではないですし、お給料も安いので、とても月岡さんにご紹介できるものではないかと……社内では話していましてね」
思っていた以上に、ドンピシャの仕事だ。
「やりたいです。その仕事、私にやらせてくれませんか?」
「でもですね、結構キツイ仕事ででしてね。当社は新卒は採用しない事にしていて、即戦力になる中途の方にしかこなせない業務だと……社内では……」
やんわりお断りされているのは分かっている。
でも、諦めたくない。
「新卒で経験は無いですが、きつくても頑張ります。戦力になれるよう努力しますので!」
「そうは言ってもですね……」
「お願いします!」
こんなに誰かに食い下がったのは、たぶん生まれて始めてだ。
「そこまで言われてしまうと……」
「ふぅ」っと溜め息をついて、頭を掻いている。困らせてごめんなさい。でも、どうしても諦めきれない。お願い……どうか……
「……月岡さん、近々、数日実習研修に来られますか?」
「はい!来ます!」
やった!チャンスもらえた!
とりあえずアシスタントを募集しているという部署にて、私が使い物になるかを確認していただく機会が与えられた。しかも、その間は時給が発生するという。まさかの願ってもない展開だった。
早く望に報告したい。颯や翼にも話したい。
みんなに応援してもらいたい!




