第3話 Scene:光「先にこっちしない?」
私と颯はこっそりと付き合っている。
なぜ隠してるかというと、望が颯を好きだから。
「明日、行けるでしょ?」
教室で私の隣に座った颯が、前を見たまま首を傾け、耳元で囁く。
『15時上がり』
ノートの端っこに書いて答える。
望や翼を騙すのは気は咎めるけれど、こうして、こっそり話すのが習慣になってしまっている。
明日はせっかくの授業がない日で、お互いにバイトが入ってるけど、終わり時間を合わせてショッピングデートの約束。もちろん翼にも望にも内緒。
授業後に教室に残って皆でおしゃべりするのは、いつものこと。
「ひーかーりー、明日、バイト何時まで?」
「夕方かな」
親友に平気で嘘もつくようになってしまった。
「そっかぁ。私、夕方からバイト。ざんねーん。颯わぁ?」
「俺も、夕方までバイト」
「翼が空いてるんじゃない?」
「ちょっと、聞いてくるぅー」
颯と目が合って苦笑い。
心苦しいけど、仕方がない。
いつまで続けるとか考えてないけど、今はこれでいい。
私には望しか友達がいない。昔から、ずっとそう。
今のバイト先のカフェは、制服が可愛いから決めた。
もしかすると、バイト先で友達が出来るかなって期待はしてたけど、ここは小さめのカフェで、店長さんと社員さんと、バイトが1~2名。残念ながら、友達になれそうな人は居なかった。
「光ちゃん、これ、4番テーブルお願い」
「はい」
食事を運んで、レジやって、空いたテーブルの後片付け。
今日のバイトは私だけだから、意外と忙しい。
「いらっしゃいませ」
「ひーかーりー!」
望と翼が来てくれた。13時ちょっと過ぎ。
「来たよー」
「ありがと。翼も」
「コンビニ寄って、颯にも会って来たんだよねー」
「そっか」
メニューを置いて、お水を取りに行く。
「午前中ね、翼と映画見て来たんだよー」
「何見たの?」
「バンバンバン、ドスドスドスってやつー」
「ああ、あれね」
「お前、これでよく分かんな」
望の言いたいことは、分かり易い。
「面白かった?」
「すっごい面白かったよー!光と颯も見た方がいいよぉ!」
「じゃ今度、颯と行ってみようかな」
「その時は、望も誘って!もう一回行きたぁーい」
あちゃ。
「うん」
望はシーフードグラタンとケーキセット、翼はカルボナーラとホットコーヒーの注文。
「ケーキはレアチーズ、飲み物はオレンジジュース、くーだーさーい」
「はい。少々お待ちください」
この二人はどこからどう見ても……カップル……には見えない。
190cm近い翼と、150cmもない望は身長差があるし、可愛いフリフリの洋服を着た望は、子どもみたいだ。黒髪で、色白で、化粧っ気が無くて、動きが小動物系の望はどこか、ぬいぐるみのよう。
「ねぇねぇ、これ、あっちぃ」
「ふーふーがでかいんだよ。こっち飛ぶから、そっと吹けよ」
一方、私の双子の兄、翼は、背が高く、痩せて見えるけど実はがっちりしている。ハンサムショートがガチで似合うハンサム。望と並ぶと彼氏と言うより、お兄ちゃんって感じ。私よりも望の方が、よっぽど妹っぽい。
「先にケーキ食べんなよ」
「別にどっちから食べても同じだよー」
望が颯じゃなくて翼を好きだったらと、何度思ったことか。
「ごちそうさまでしたー」
「来てくれてありがとね」
15時のバイト上がりの前に帰ってくれて助かった。着替えて、急いでショッピングモールに向かう。
颯……は、素朴でかっこいい。スッキリとした短髪で、よく焼けた肌に、白いTシャツ。
「ごめん、遅くなった。望たちが来て、焦った」
「こっちにも来た」
颯に腕を絡める。
「あの二人映画見たって」
「言ってたな!俺たちも行く?」
「その時は、望が自分も誘えって」
「じゃ、今はやめとくか。俺たちも二度見ることになる」
「だね」
望に内緒で見に行くわけには行かない。
「何買うの?」
「甚兵衛みたいなの。祭りで着たい」
「お祭りか、いいね。私も浴衣着ようっと」
何件も回って、何回も試着して、買い物って楽しいったらない。
喉が渇いて、フードコートでアイスとお茶して、食材を買って、颯の家へ。
私たちのデートは、いつもこんな感じ。私の大好きな過ごし方。
「いい買い物出来たね」
「光が選んでくれて良かった。俺マジで、どれも同じに見えてた」
「ははは」
小さなキッチンに、ふたり並んで立つ。
時折、腕が触れあって、それが嬉しくも恥ずかしい。
行ったり来たりして、料理をテーブルに並べていく。
クッションを置いてカーペットにペタッと並んで座る。
「「いただきます」」
チキンソテーとコールスローサラダ、コーンスープ、デザートにはわらび餅を買ってきた。
「美味しいね」
「うん。火の通りがいい感じ」
横向いたら、颯もこっちを見ていて……チキンの油でテカテカになった唇に、チュッ。
「うふふふ」
「あははは」
笑いながら、コールスローサラダを一口食べて……また顔見合って、チュッ。
「ばかみたい、ふふふ」
「あほだな、はははは」
コーンスープを口に含んで、見合ったら……笑いが止まらなくて吹き出してしまった。慌ててティッシュに手を伸ばす。その体勢のままに、颯が覆いかぶさってくる。
「まだ食事中だよ」
「先にこっちしない?」




