第24話 Scene:颯「ぎゅっとしてやろうか?」
「連絡先教えてもらっちったー」
浮かれたバイト仲間の金髪に話しかけられた。
「よかったな。誰に?」
「望ちゃん」
「望かよ?!」
「お前の彼女じゃないくせに、お前、ちっとも紹介してくんねーから、自分から声かけたわ」
「いつ?」
「今さっき」
望のやつなに考えてんだよ、って……あいつは、なんも考えてないよな。
この一見チャラいこの男は、同性の俺から見てもゲスイ野郎で、最低だ。
「望はやめとけ」
「なんでだよ?彼女じゃないけど、大事な存在ってか?」
「そうだよ」
「お前の彼女はあのセクシーなのだろ?知ってんのかよ?」
「公認だよ。彼女も望の親友だ」
「そーかよ」
まったく仲良くはないが、シフトが一緒のことが多いからよく話す。別の大学に通うこいつは、望に相応しくない男だ。翼に言っておかないとな。
昨日は双子に避けられたと感じたけど、今日はいつも通り4人で並んで座った。
席順は、最初の並びに戻り、望、光、俺、翼だ。よかった。右隣の翼に話しやすい。
「昨日、望がナンパされてた」
「なっ!」
「俺のバイト先の、ほら、金髪のヤベェの」
「まじかぁ」
「連絡先交換したって。気を付けた方がいい」
「だな」
翼がずっと守ってきてたのに。俺が光の嫉妬作戦なんかに巻き込んだせいで、望がこんなことになって、すまない。
「望はそっちに帰るのか?あの金髪、今日シフト入ってるんだよな……」
「実家に帰るよう言ってたけど変更する。コンビニに近付くなとは言えないしな」
「シフト表確認したら、また教えるな」
「サンキュ」
望は人の気も知らないで、のん気に光とおしゃべりをしている。
バンドの活動が無くなって、それぞれにバイトだの就活だの、望や翼に至っては、もはや仕事始めてるようなもんだから、全員で集まることが減ってしまった。
「光、この後、時間ある?」
嫉妬作戦なんて回りくどいことはやめて、ちゃんとしよう。
「うん。もうバイト辞めたから」
「そっか。芸能は?仕事、続けてんの?」
「うん、ヘアケアのCMの会社が、マスカラとか、メイクのCMもって言ってくれて続きを撮ってる」
「よかったな。そんでさ……」
突然、Tシャツを背中からぐいーんって引っ張られた。首が締まる「ケホッ」。
「光ちゃーん、今日はどーお?」
前に光と話してた男が割り込んできた。
「どおって、忙しいけど……」
「そんなことばっか言ってー、たまには付き合えよなあ?」
「ごめんね。今日は、約束があって……」
そう言って、光は俺の腕を組んで歩き出した。光の手が汗ばんでいるのが分かる。
「ちょっと、待てよ!」
光の肩に強引に手を掛けた男に、カッとなった。
「触んなっ!」
男の手を力いっぱい振りほどく。
「お前、なんなんだよ、どけよっ」
「お前こそ、どけ。俺の女に手出すな」
「え?あ、そゆこと?」
男が光を睨みつけた。うん、うんと激しく頷く光。素直でよろしい。
「っんだよ!弄んでんじゃねーよっ!」
男の捨て台詞は間抜けに聞こえた。
「ありがと、颯」
「あんなのに絡まれて、我慢してたの?」
「我慢なんてしてないよ。ずっと思いっきり断ってたよ」
「はは。そうだったのか」
光が少し震えてるみたいだった。
「ぎゅっとしてやろうか?」
「え」
「彼氏じゃなくて、友達として」
「お願い」
両腕を開いたら、光が飛び込んできた。
ああ、久しぶりだ。この感じ、光だ。
「望はいいの?」
「望?なんのこと?」
「最近、仲良かったじゃん?」
「ああ、もう、翼に返した」
「なにそれ」
「望じゃなくて、光がいいんだ。俺は。前からそう言ってるだろ?」
光のハグが少し強くなった。
「行くか」
「そだね」
並んで歩いた。手は繋がない。
「今日の夜は、望、そっち行くぞ」
「そうなの?」
「俺のバイト仲間にナンパされて、実家には帰さないって、翼が」
「えっ!まさか、あの金髪の人?」
「そ」
「私、あの人、なんか嫌い」
「俺も、なんか嫌い」
「望は嫌いじゃないの?」
「さあ?連絡先教えてたんだって」
溜め息をつく光……お前も、さっきの男に連絡先を教えたんだろ?
そう聞きたいけど、聞いてどうなることでもない。
「家、寄ってく?」
もうすぐそこだ。
「ううん。このまま帰る」
「そうか」
やっぱりだめなのか。まだ、心の溝は埋まってないんだな。
「またね」
「ああ、またな」
光が家に寄らなくなり、楽しかった思い出が逆に辛く感じる。
「俺も、実家に戻るかなぁ……」
秘密のない秘密基地は何の意味もなさない。




